第11話

「―――それで、自分は町の外に出て、町が燃えていくのをぼーっと見ていました。まだ6歳児の自分に、消火という手段は無かったものですから……」

 話を無言で聞いていた俺は、とても混乱していた。

 俺は確かに、桃太郎に転生したんだろう。

 しかし、俺が転生したのは、どうやら2桃太郎だったようだ。

 何故俺が、2人目の桃太郎に転生したのかなどわからない。そもそも転生のメカニズムがわからないし、2人目の桃太郎って何?って感じだし。

 でもなんとなく、わかってきたことがある。

 まず、1人目の桃太郎は、きっと本当の昔話の桃太郎だ。

 人間視点だと、人間に悪さをしていた鬼達を(鬼三郎を除き)滅ばせ、国を救った桃太郎ヒーロー

 鬼視点だと、弁解の余地も与えず、女や子どもも容赦なく殺す桃太郎ヴィラン

 それに対し俺は、1人目の桃太郎が鬼を滅ぼした後に生まれた、謎の2人目の桃太郎だ。

 気がつけば村を出ていて、気がつけば家来が3匹揃っていて、気がつけば鬼ヶ島についている、何かと運命シナリオに逆らおうとしながらも沿ってしまっている桃太郎アウトサイダー

 アウトサイダーの俺は、桃太郎はヴィランだと感じてしまった。

 桃太郎だけでない。人間もだ。

 みんなみんな、相手の心境を聞く前に、自分の思い込みで決めつけて、行動を取る。

 でも、自分が1人になってターゲットになるのが嫌だから、周りの多数派の意見に合わせる。

 前世の人間クソ共もそう。人間はみんな、そうなんだ。


 ―――もしかして、村のみんなも?


 頭にそんな考えがよぎるも、頭を振って否定する。

 違う。村のみんなは優しいんだ。

「桃太郎さん? どうしました、そんなに首を振って」

 突然俺が首を横にブンブン振ったので、皆に心配されてしまった。

「あ、いや、大丈夫。ちょっと考え事してて……」

 俺は慌てて、言い訳をする。

 いや事実だし。嘘ついてないし。

「えっと、鬼三郎さん。その後は、どうされたんですか?」

 ショージが聞くと、鬼三郎は自身の茶飲みの茶柱に目を落とした。

「自分は、桃太郎に復讐しようとか、考えられなくて……。だって自分より強い仲間たちを皆殺しにしたんですよ? もちろん、恨みは持ちましたが」

 鬼三郎の気持ちも理解できる。

 いくら恨みを持った対象がいても、100%負ける相手には挑みたくない。

 俺だって、村人たちが恨んでいる鬼を退治してくれと頼まれたが、運動音痴のせいで100%負けると判断し、いくら大好きな村人たちの願いであっても拒否した。……まあ、今は成り行きで鬼ヶ島にいるけど。

「それに、桃太郎を殺したって、根本的な解決にはならないと思ったんです。確かに桃太郎は、自分達鬼を容赦なく殺した張本人です。でも、鬼を恨んでいるのは桃太郎だけでなく人間全体だし、そもそも最初に恨んだ人間は桃太郎が生きる時代に生きていないはず。だから、もう恨むのはやめました」

 鬼三郎が顔を上げる。

「―――人間と、分かりあえるように」

 その顔は、恨みなんて感じられない、温かい笑顔だった。

「……!」

 俺はその言葉を聞いて、自分の考えの浅さに気がついた。

 俺はさっきから、鬼か人間、どちらか一方を悪者とする考えしかしていない。

 二度対立した人間と鬼。でも、二度なのだ。

 共存が、不可能だと決められたわけではない。

「あ、だから今もうちらによくしてくれてんの?」

「はい! これも、人間と分かりあえる第一歩なんじゃないかなって思いました」

 みこっちが聞くと、鬼三郎は笑顔で答えた。

 今やたったの1人となってしまったが、鬼はこんなに人間と仲良くなろうと努力している。

 もし人間側が共存の意を少しでも示せば、鬼と人間は共存できるのではないか。

 そして、俺がその仲介役―――薩長同盟の坂本龍馬みたいに、人間と鬼を繋げれば良いのではないか。

「……あの」

 俺がみんなに語りかけると、みんなが俺に注目した。

 この中に人間はいないけど、注目されてるって考えると、緊張してしまう。

 前世でもほぼ無かったな、人前で自分の意見を述べるのは。

 せいぜいと2人っきりで、今後の活動について話し合っていた時くらい。

 でも、話そう。俺の考えを。


「―――鬼三郎さん、俺たちと一緒に、俺の村に帰りませんか?」


 ……言えた! 噛まずに言えた!!

「えっ? 桃太郎さんの故郷にですか?」

 一拍置いて、ショージが驚いた顔で俺に聞く。

 なんで鬼三郎さんよりショージの方が反応速いの?

「う、うん。俺の故郷ってめっちゃ小さい村なんだ。……人数が少なすぎて、みんな親戚みたいなもんだし。だから、俺から話せば、みんなわかってくれるかもしれない」

 俺は15年間、あの村で過ごしてきた。

 その日々は、前世とは比べ物にならないくらい平和で楽しかった。

 村の人間たちは前世の人間クソ共と違い、失敗しても見捨てず支えてくれたし、接し方が分からなくて黙り込んでしまっても話しかけてくれた。

 それに、桃から生まれた人の子なんて恐ろしかったろうに、普通の人間と同じように接してくれた。……まあ、生後1日で白米食わされたし普通の接し方ではないけど。

「い、嫌だったら、いいんです。俺が勝手に考えただけなんで……」

 俺が遠慮がちにそう言うと、鬼三郎が強い眼差しで俺を見た。

「……行かせて下さい。変えたいんです―――怖くて人間に自分から近づけない自分を!」

「……!」

 鬼三郎の言葉を聞き、その場の全員が笑顔になった。

「さぶっち……! あたしらも一緒だかんね!」

 みこっちが笑顔で両翼を高く上げた。

「さ、さぶっち……?」

 モモが一応、みこっちに聞く。

「だって鬼三郎じゃん?だからさぶっち!」

 まあ、流石はみこっちだ。

「でもまあ、鬼三郎さん、この鶴が言うように私達も一緒なので、あまり張り詰めずに行きましょう!」

 モモが笑顔で言う。

「ちょっ、この鶴って何!? ヒドくね!?」

「え、だって鶴じゃん、みこっちって」

「いや鶴だけど!?」

 みこっちとモモの言い合いが始まった。

 そういえば今まで、仲間たちがこうやって言い合っている場面を見たことがなかった。それだけ、仲良くなったんだろう。まあ、みんな今日出会ったんだけど。

「でも桃太郎さん。村に行くのは良いとして、もう日が暮れてます。今から向かうのは厳しいかと……」

 ショージが遠慮がちに言う。

 俺は窓の外を見た。ここに着いた時はまだ空は青かったのに、どれほど話し込んだのか、空はオレンジ色と紺色のグラデーションになっていた。

「それなら、うちに泊まっていきませんか?」

 鬼三郎の言葉に、みんなが振り向く。

「こんな狭い家ですけど、雨風はしのげますし! ……雑魚寝になっちゃいますけど」

 俺としてはありがたかった。早朝に村を飛び出してからここまでずっと歩いてきたものだから、かなり疲労していたのだ。

「あ、みんなさえ良ければ泊まらせて貰おうかな。みんな大丈夫?」

 俺がみんなに聞くと、3人は口々に了承の意を示した。

「あっ、じゃあ夕飯作りますね! 皆さんご飯はまだでしょう?」

「あっ、実はまd―――」

 ―――ぐぅうううう

 俺が返事をする前に、俺の腹の虫が鳴いた。

「っ!?」

 俺は恥ずかしさで目を逸らす。顔が熱い。

「……ぷっ」

「も、桃太郎さん…っw」

「草超えてモー◯ーファンタジーw」

 家来3人がお腹を抱えて笑っている。

 やめてくれ、ナチュラルに笑わないでくれ。

「……あははっ! 急いで作るので待ってて下さい!」

 鬼三郎が笑いながら台所に向かう。

「……あっ、でもお米炊くんで、1時間くらいかかりますね。大丈夫ですか?」

 鬼三郎が釜を棚から取り出しながら言う。

「あ、桃太郎さんならきび団子持ってるんで大丈夫ですよ〜」

 ショージが答える。

「ちょ、ショージ、本来答える人より速く答えるのやめてくんない?」

 俺がショージに訴えかけるも、ショージは無視して俺の腰にかけてあるきび団子を漁り始めた。

「あはは! そうですね、ではきび団子でもうちょっと耐えてて下さい!」

 鬼三郎に笑われてしまった。いやショージのせいだし。俺悪くないし。



 俺達がきび団子を食べ、だらだらしていると、あっという間に日が暮れ、外は真っ暗になった。

 村では、外が暗くなったら寝る時間と教わっていたため、なんだか罪悪感に飲まれてしまう。

 鬼三郎の家には大きめの囲炉裏があり、その火がこの大部屋を照らしていたため、昼と比べれば薄暗いものの、明るかった。

 鬼三郎が台所に行ってから30分ほど経っただろうか、鬼三郎がお皿を抱えて戻ってきた。

 俺達は慌てて座布団に座り直した。

「すみません、お待たせしました。お米はもう少しかかってしまうので、その前にお野菜を」

 鬼三郎が俺達の前に、葉野菜の炒め物のようなものを乗せた小皿と箸置いた。

「わあ、美味しそう……!」

「裏の畑で採れた葉野菜と根菜の炒め物です。味が薄かったら岩塩があるのでそちらを。お口に合わなければ吐き出して下さい。きっと村の食べ物に比べれば劣るので……」

 鬼三郎が俯いて言う。

 俺はまさかこの新鮮な野菜が自家製だとは思わず、驚いた。人間と交流が無いため、食料は自分で作っているのだろう。

 俺が感心している横で、みんなはもう食べ始めていた。

「え、美味くね!?」

「すごい、もう私、その辺に落ちてた木の実を食べてた頃に戻れないかも……」

「僕も……!」

 みんなが口々に言う。そっか、みんな今まで野生動物だったもんね……

「えっと、じゃあ俺も。いただきます」

 食べてみると、まだシャキシャキ感が残っている葉野菜と、コリコリしている根菜の食感が混ざって楽しいし、適度な塩分量のお陰で野菜本来の味が引き立てられており、とても美味しかった。

「お、おいしい……!」

 もちろん、おばあさんの料理には敵わないが、きっと前世でその辺のレストランに入るより美味しいと思う。

「本当ですか!? 良かったです……! あ、もうそろそろお米も炊けるので、お出ししますね!」

 鬼三郎が再び台所に向かった。

 鬼三郎、料理屋開けるんじゃないか?



〜ひと口momo〜

【次回予告】

 鬼三郎に聞かされた、驚愕の事実。桃太郎達は鬼三郎の目標を叶えるため、村に向かう。果たして、村人たちは鬼三郎を受け入れてくれるのか!? お楽しみに!

【雑談】

 最近1話あたりの文字数が4000を超えています。目標は3000代なんですけどね。ちょっと重くなってますごめんなさい。

 ちなみに当作品はゴールに近づいてきています。恐らく年内に完結します。良ければ最期までお付き合い下さい(^^)

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