第12話

 翌朝。俺たちはみこっちに叩き(つつき)起こされた。

「はよ〜〜!! レッツラごーごー!」

「うぅーん…もうちょっと寝てたい……」

「お〜き〜ろ〜っ!!」

 そう叫んでみこっちはまたつついてくる。

 みこっちのくちばしは普通に尖ってて痛いし、みこっちの声は女子って感じの甲高い声だからめっちゃ頭に響く。

「んあー、もう、わかったよ」

 俺はのそのそと起き上がった。

 昨日の疲れが取れていないのか、まだ身体が重い。

「ほら! みんなも!! 犬っち起きろ〜!!」

 みこっちのターゲットがモモに変わった。

「うわー、うるさいうるさい! みこっち黙って!!」

 モモが前足で耳を塞ぐ。犬は耳も良いらしいし、余計うるさいのだろう。

「やだよ〜ん! みんなが起きればやめっけど?」

「あーいいわよもう! あんたの声、頭に響いてキンキンする!」

「そりゃどうも〜」

「なーにがどうもよ!!」

 女子2人の言い合いが始まった。

 なにかとモモも高い声なので、かなり頭に響く。

「うう…うるさい…頭痛い…」

 おまんじゅうのように丸まったかけ布団から、ショージの弱々しい声がした。

「ショージ……諦めなよ……」

「そもそも今何時だと思ってんのよ! まだ日昇きってないじゃない!!」

「え〜っ、もしや知らない系? 日が昇りきらなくても朝なんよ?」

 俺のショージへの声かけは、女子2人の言い合いにかき消されてしまった。

「し、知ってるわよそれくらい! でもだからってこんなに早く起きる必要は―――」

「あーもう。うるせえな」

 突然、低音ボイスが響き渡り、俺たちは驚いて固まってしまった。

 声の源は、ショージの布団まんじゅうだった。

 そして布団まんじゅうから、ショージが出てきた。顔を右手で隠し、キメ顔をしている。

「無知なる者よ、その悲鳴は、闇に囚われし魂が放つ呪詛のように聞こえる。神々を挑発するかのように、その声は我が脳に響き渡り、深淵からの使者を呼び寄せるだろう!」

 みんなが口を大きく開け、ショージを見る。

「フッ……我が身に宿る深淵の闇を知るが良い。この暗黒の力は、そなたらには理解できぬものなのだッ!」

 そう言ってショージが目を閉じ、両手を斜め上に広げ、高らかに笑った。

 あっ、これ厨二病再発したな。

 俺とモモはショージの中二病の理由を知っているためまだ良いが、問題はみこっちだ。

 彼女は、この場で初めてショージの厨二病を見ただろう。

 みこっちを見ると、彼女は俯いて目を逸らし、プルプル震えていた。

 も、もしかして、笑いをこらえて……!?

 やばい。もしショージが笑われたら、羞恥心でおまんじゅうに戻ってしまうかもしれない。

「……っ、あたしって、幸せだな」

 突然、みこっちが呟いた。

 みこっちの目から、雫がこぼれ落ちた。

「えっ……?」

 みこっちはなぜか、泣いていた。

「あたし、、一人じゃないんだ」

 みこっちが突然泣き出したので、俺たちは困惑してしまった。

「えへへ、ごめん、突然泣いちゃって。でも、桃っち、アンタのせいだからんね」

 みこっちは、涙をこぼしながら俺に笑いかける。

 ん? 何この状況???

「……あたし、今まで他人と上手く付き合えなくって、ぼっちだったの」

 ギャルの みこっちが、ぼっちだった……?

 俺は意味が分からず混乱していた。

「ま、一応ね? 仲良くしてる子はそこそこいたけど、別に友達って呼べねーし? 付き合ってた男もいたけど、結局お互い目的が違ったし?」

 みこっちが俯き、ため息を吐く。

「……いなかったんだよ、本音を話せる人が」

 みこっちが吐き捨てるように言った。

「怖かった。本音を伝えて、離れられるのが。……だから、無理矢理明るく振る舞って、上辺だけで生活してた。ギャルってキャラは、ちょうど良かったの。リーダーに合わせさえすれば、そのグループから見放されることも無いし」

 いつしかみこっちの声のトーンが下がり、明るさやギャルさが減ってきた。

「でもね、みんなと話して、一緒に悩んで、喧嘩して。あったかいなって思った」

 みこっちがえへへ、と笑う。

「あたしね、前世では父子家庭だったんだ。優秀なお兄ちゃんは父さんに好かれて愛されてた。けど、不出来な私は愛されなかった。人付き合いもあんなだし、人と話して『あったかい』なんて思ったこと無かった」

 みこっちは淡々と、まるでただ事実を述べるだけのように話すが、きっと複雑な感情を抱いているのだろう。

「死因だって、当時付き合ってて、信頼してたチャラ男に騙されて好き勝手されて、終いには身の回り品を奪うため殺されただけだし。ほんっと前世のあたしって、信頼できる人 1人もいなかったな」

 みこっちがカラッと笑う。

 その目にはもう、涙は残っていなかった。

「ね、引いたでしょ。あたしって、ホントはこんなんなの」

 俺はどう声をかけるかわからず、固まってしまった。

 違う、引いたりなんてしてない。

 今までギャルのみこっちって、住む世界が違うとか思ってた。

 でも、親からの愛を求めて、でも本音を話すのは怖くて、悲しかったら泣く、普通の女の子なんだ。

「ほら、黙っちゃってる。やっぱあたしのこと引いて―――」

「違う!!!」

 みこっちが言いかける言葉を、俺は叫んで遮った。

 上手く伝えられなくても、伝えなくちゃいけない。

「みこっちのどこに引く要素があるんだよ! 親から嫌われている? 親だって人間なんだから好き嫌いがあるんだよ!本音を言うのが怖い?俺だってそうだよ! 相手の気持ちがわかる超能力者じゃない限り、相手の言葉の受け取り方なんてわかんない!」

「……っ!」

 みこっちが驚いた顔で俺を見る。

「そうだよ、俺だって怖いよ。今もこうやってみこっちを説得してるけど、俺の言葉のせいでみこっちは余計傷つくかもしれないし、モモやショージにはそれこそ考え方の違いで引かれるかもしれない。でも―――」

 俺は意見を言うのが苦手だ。

 だって陰キャだし、コミュ障だし、引かれるの怖いし、なんなら前世ではいじめられてたし。

 前世で先輩にそう言ったら、頭を叩かれたっけ。


『じゃあもし君が意見を持ってても言わないわけ? 心のなかで温めておくの? それで誰が得するの?

 私さ、もし自分の気持ちを言って引かれても、損得両方あると思うんだよね。言えたんだっていうスッキリとした気持ちとか、相手にとっても、そういう意見もあるんだっていう新たな考えが生まれるとか。もちろん、それで損する部分も多少なりとあると思うよ。でも、言わなかったら得なんて1つもないじゃん? もったいなくない? てか、別にいいんだよ、引かれても。考え方が人それぞれ違うのが人間だし、この世の全員と分かり合えるとかそっちのほうがキモいし。

 怖いんだったら私を練習台にしなよ。2人っきりなら言いやすくない? それに、私が君を裏切るとでも思う? あ、まってその顔裏切るって思ってるでしょ。ひどいなあ。ま、ゆっくりやっていきましょうや。君のペースでね』


 もし俺がみこっちに声をかけなかったせいで、みこっちがまた信頼できる人を失ってしまったら、みこっちはどう感じるだろうか。

 俺はそんなことになるくらいなら、引かれてでもみこっちを助けたい。

 その気持からか、仲間たちを信頼しきっているからか。言葉がスラスラと出てくる。

「でも、言えたら救えたかもしれないのに、言わないと後悔しそうじゃない?」

 頭の中で、先輩の言葉とハモる。

「俺、みこっちって今まで違う世界の人だと思ってたんだ。ギャルってなんか怖いじゃん。でも、なんか親近感湧いたよ」

 俺はみこっちに笑いかける。

「俺たち、仲間だろ。ガミガミうるさい犬もいれば、厨二病の猿もいる。テンション高い鶴もいれば、運動音痴コミュ障陰キャの俺もいる。信頼したんだから、幸せなんだから、いいじゃん」

「そうですよ! ガミガミうるさいは余計ですが……」

「うんうん! 僕たちは引かないよ。……まって厨二病は忘れてね? 引かないでね?」

 俺がそう言い切ると、モモとショージが賛同してくれた。

「あ……」

 みこっちが、段々笑顔になっていく。

「そっか、そうだよね。ガミガミうるさい犬と、厨二病の猿もいるもんね」

 みこっちが意地悪そうな笑顔になる。

 それを見たモモは怒りの顔に、ショージは半泣きの顔になった。

「あんたねぇ!!」

「う、うぅ……忘れてください恥ずかしいんですぅ……」

 モモはみこっちに飛びかかり、ショージは俺の足に頬をスリスリしてきた。

 みこっちはモモのタックルを華麗にかわし、ニヤニヤと笑う。

「あっれれ〜? 犬っち、そんなもんですか〜?」

「んなっ、この鶴め〜〜!!」

 モモが再びみこっちにタックルをするも、再びかわされ、ショージのおまんじゅう布団にダイブした。

「ぷっ……あははははっ!」

 みこっちが笑ったので、俺たちもつられて笑った。

「あははっ、うん、やっぱ桃っちに会えて良かった!桃っち、あざまる水産☆」

 みこっちが笑顔で、俺に向かってピースした。

 先輩。俺、自分の意見で誰かを救えたよ。

「あれ、そういえば鬼三朗さんって……」

 不意に、ショージがそう呟く。

 確かに、鬼三朗はどこに行ったのだろうか。

 昨晩は俺たちと同じ部屋で雑魚寝することになっていたはずだが……

「んー……父上ー……」

 鬼三朗の声がした。その方角を見ると……

「むにゃむにゃ……」

 鬼三朗が気持ちよさそうに寝ていた。



〜ひとくちmomo〜

【次回予告】

 5人で村に向かうと、そこにはある『噂話』をする村人たちがいた。しかしその噂話は、桃太郎たちにとって都合がいいものではなくて……

 次回、物語は急展開へ!!心の準備を……!


【お知らせ】

 「ぼっちちゃんと無口くん」もお読みの方々へ。

 ぼっちちゃんと無口くんの解答近況ノート、投稿するする詐欺しております。すみません。

 こちらについては、桃太郎が完結次第、投稿しようと考えています。桃太郎も関係しているので……。

 どうかあと1ヵ月ほど、お待ち願います……

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