第6話
「え、猿……?」
木の下で、The・厨二病な呪文を唱えたのは、なんと猿だった。
「我は単なる猿では無い……」
そう言って猿は、左手は額に当て、右手は胸に当てた。
「……じゃあ、何なんですか?」
モモが聞く。
勇気あるなモモ……。
「フッ……それを聞いてしまうか……」
猿がニヤリと笑う。
「この新たな肉体に生を授けられし、闇の使者だッ!」
「「……」」
あっ、これ重症だな。
「そうだそうだ!我が姿を目に焼き付けて、恐怖に震えるが良い!ハッハッハ!」
猿が両腕を広げ、高らかに笑った。
厨二病ってこんな酷かったっけ?
「あのー、一応聞きますが……貴方も転生者だったりしますか?」
モモが聞く。
やっぱすげえよ、モモ。
「何?我が言葉に耳を傾けぬか!?」
「あっ、ですよね。先程言っていましたね。すみません、2度も聞いてしまって」
モモがてへっと頭に右前足を頭に乗せ、舌を出した。
え、それ煽ってますよね?モモさん?
「汝、我に反論するとは何事だ!?今こそ、闇の力を放つ時!痛い目に遭わせてやろう!!」
猿が今度は右手を右目に当て、左手をモモに向けた。
「我が眼に秘めし力よ、今こそ目覚めよ!」
そして、猿が呪文を唱えた!
「「……」」
……何も起こらない。
「……」
猿も、ポーズはそのままで、固まってしまった。
「……あの」
「うわあああああ!!くっっっそ恥ずかしい!!!」
勇者モモが声をかけたが、それを遮るように猿が頭を抱えて叫び始めた。
「異世界転生したらチート能力がつきもんなんじゃないのぉ!?普通そうでしょ!?だからイキっちゃったじゃん!恥ずいんだけど!!うわあああもうお終いだあああ!!」
「あの、お猿さん?落ち着いて下さい」
勇者モモが声をかける。
やっぱすげえ。
「え、てか犬喋って……!?」
猿がモモを見て驚く。
え、今更?
「はい。犬ですが喋れます」
「えええええ!?やっぱ異世界だからチート能力付くんじゃん!なんで僕だけ付いてないのさ!?」
「えっと……動物なのに喋るのは貴方も一緒ですよ?」
モモ。強すぎるよ。
「……確かに!?」
そこ『!?』なんだ!?
「あ、えと、その、取り乱してしまってすみません……」
猿が俺達の方を向いて、頭を下げた(5°程度)。
「本当ですよ。迷惑でしか無かったです。ね、桃太郎さん。桃太郎さんもなんか言ってやって下さい」
モモが俺を見て、鼻を猿の方向にクイッとした。
それ顎でやるやつでは?
「え、いや、えっと……」
俺がコミュ障発動して何も喋れないのを悟ったのか、猿が自己紹介を始めた。
「えと……僕、お猿の
「お猿のショージ……?なんか、どっかで聞き覚えがあるような……?」
俺は現世での生活を思い出そうとした。
「き、気のせいですよ!きっと!!」
ショージが必死に俺の思考を止めてきた。
「所で、ショージ、貴方、いじめられる方の猿って言ったわよね?どういうこと?」
モモがショージを睨みながら言った。
「あれ、モモ、口調変わってない…?てか、所でショージって、また聞き覚えあるような…?」
「「気のせいですよ多分!!」」
今度は2人揃って、必死に俺の思考を止めてきた。
「そ、そっか……ソウダヨネ……」
「で?ショージ、さっきの私の質問に答えなさい?」
またモモがショージを睨んだ。
「え、えっとですね、これには深ーーい……いや、深くはない
「ど、どういうこと?」
俺も気になって、今度は俺から質問してみた。
すると、ショージは俺を見て少し安心したような表情を浮かべた。
「さるかに合戦、お2人知ってますか?」
もちろん、俺もモモも知っていた。
「さるかに合戦って、猿が蟹の母親を未熟な柿を落として殺すじゃないですか。あれ、僕じゃないんです」
僕じゃない?ショージは確かに、さるかに合戦の猿に転生したと言っていたのに、どういうことだろうか。
「猿が蟹の母親殺した後、子供たちが色んなモノや生き物達の協力を得て、猿をいじめるじゃないですか。あのいじめられる猿が、僕なんです」
「えっと、つまり……?」
「さるかに合戦のいじめ役の猿と、いじめられ役の猿は、別物ってことです」
「えっ!?でも昔話にそんな描写なかったような……?」
モモが言った。確かに、昔話では、猿は1匹しか出てこなかったはずだ。
「さるかに合戦の猿って、実は双子だったんですよ。僕が双子の弟で、いじめられ役、双子の兄が、いじめる役なんです」
「「ええええ!?」」
俺とモモの声がハモった。
衝撃だった。あの物語を読んで、俺は『悪者の猿が罰を受けてよかった!』とか思って清々してたけど、実は関係ない弟が罰を受けてたのか!?
「じゃあ、貴方は、悪いことしてないのに、あんな罰を受けたの……?」
モモが今度は心配そうな目で聞いた。
「はい。まあ、そういう
ショージがカラッと笑った。
「僕、昨日、何も分からぬまま、兄ちゃんに『ちょっと遊びに行ってくる。お前もどっか外で遊んでおゆき』って言われて、川に遊びに行って。それで、家に帰ったら、こてんばんにやっつけられて。流石は親の仇だなーって思いましたよ。いやー、命だけは助けてくれてありがたいですね」
ショージが頰を掻きながら言った。よく見ると、ショージの体は傷や痣だらけだった。
「そんな……お兄さん、なんて酷い!ショージ、大変だったわね……」
「はは……」
ショージが苦笑いをした。
「そういえばショージ。さっきはどうして厨二病キャラだったの?」
モモが聞いた。
しかし、俺はなんとなく検討はついていた。
「……これには深ーーーい
「あのさ、もしかして、素で話すと初対面で緊張して、固まっちゃうからじゃない?」
「うっ……」
俺がそう言うと、ショージは唸り声をあげて、俯いた。
「あ、図星なのね。流石です!桃太郎さん!」
モモがショージには冷たい目線を送り、俺にはキラキラした目で褒めてきた。
「さっきから思ってるんだけど、モモ、お前、俺とショージで態度変わり過ぎじゃない……?」
「でも、どうして厨二病なの?」
俺の疑問などお構いなしに、モモが聞いた。
「いやー、前世で厨二病キャラとしてアイドル活動してたものでね……その癖が抜けなくて……ははっ」
ショージが苦笑いをした。
「これ嘘だね」
「ええ、私も同感です。かわいそうに……」
俺がそう言うと、モモが同意してくれた。
「うぅぅ……そんなこと言わないでぇぇ……」
ショージがその場でしゃがみこんで、顔を隠した。
「あっ、ちょっ、ショージ!ごめんって!」
モモが声を掛けたが、ショージはこちらを見ない。
「ね、ねえ、ショージ。俺も実は陰キャで、中学んときそんな時期も―――」
グウゥゥゥ………
ショージの腹の音が、俺の言葉を遮った。
「プッ……あはははは!!」
俺はつい、吹き出してしまった。
「あはっ……はははっ!!ショージ、面白すぎ!」
モモも笑っていた。
「ちょ、お2人さん……そんな笑わないでよ!」
ショージが立ち上がり、恥ずかしそうに言った。
俺は、きびだんごの存在を思い出し、ショージにいくつか与えた。
「え、これ……」
「あ、その、きびだんご。よかったら食べなよ。お腹空いてんでしょ?別に食べたからって家来になる必要ないし」
「いえ……!!ありがとうございます!」
ショージが目をキラキラさせてきびだんごを食べた。
「お、美味しい……!!」
「ま、おばあさんの料理の腕前はなかなかだからね」
俺は、そんなおばあさんの元で育ったことが誇らしくなった。
「あ、あのさ。さっきの厨二病、俺らそんなに気にしてないから。なんでだろ?とは思ったけど。誰だってそんな時期あるし、俺もそうなる気持ちわかるし」
「あ……」
俺なりにショージを励ましたつもりだった。
「そーそー。別にキモいとは思ってないよ」
モモも励ましてくれた。
「ありがとうございます…!」
ショージが両手にきびだんごを持って言った。
猿もかわいいもんだな……。
「というか、桃太郎さんもそんな時期あったんですね!」
モモがニッコニコの笑顔で俺を見た。
「うっ……黒歴史だから触れないで……」
ショージがきびだんごを食べ終わると、すぐに俺に駆け寄ってきて、手を握った。
「えっ?」
「桃太郎さん!是非、僕を家来にして下さい!蜂に刺されても、臼に潰されても、蟹に切り刻まれてもこの通り!生きてるような猿なので!!」
ショージが自信満々にそう言った。
いや確かに凄いけどね!?
「え、で、でもいいの?俺、多分まともに鬼退治しないよ?」
なんたって俺は、まだ鬼退治をする気は起きていない。
「いいんです!桃太郎さんのお陰で、あの件、立ち直れたんですから!」
ショージがそう叫んだ。
「そ、そっか。じゃあ、お願いします!」
「ねえ、私は?私もショージのこと励ましたよ?」
モモが何か言っていたが、気のせいだろう。
こうして、俺の家来が1人、増えてしまった。
〜ひとくちmomo〜
【次回予告】
またまた家来が増えてしまった桃太郎。残すはキジのみ。3人で並んで歩いていると、広い草原につく。そこにいたのは、キジではなく……鶴!?次回、9/8更新予定!お楽しみに!
【注意】
私は厨二病に会ったことがありません。よって、厨二病の話し方がわかりません笑。もし違うよーとか、こっちの方がいいんじゃない?っていう人がいたら、そしてそれを教えてくれる親切な方がいれば、教えてほしいです。お願いしますm(_ _)m
ちなみにショージの厨二病キャラ、今後も出てくるので……。
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