ぼっちちゃんと無口くん

カボチャ

第一話

 私には、みんながどうやって友達を作っているのか、わからない。



 陰キャぼっちを、15年間貫いてきた、私には。



 ◇◆◇



 「おはよ」


 実は、そんな私にも、たった一人だけ、友達と言えそうな人がいる。


「……」


 私が挨拶をすると、彼は無言で会釈をした。

 そう、私の隣の、窓側の席に座る彼こそが、私の唯一の友人―――通称、無口くんである。


「今日はいい天気だね」

「……」


 無口くんが頷いた。

 きっと彼も同じことを考えているのだろう。


「あ、そういえば今日、古文の小テストがあったよね。勉強した?」

「……」


 無口くんが目を見開きながら、首を横にブンブン振った。

 ……どうやら、勉強していないようだ。


「もしかして、今日テストだってこと、忘れてた?」

「……」


 無口くんが首を縦にブンブン振った。


「あー、そっか。でも、それほど大変な範囲じゃなかったから、きっと今から勉強すれば間に合うよ。古典の授業、5時限目だし!」

「……!」


 無口くんが目を見開きながら、首を縦にブンブン振った。

 そして、カバンから古文の教科書を取り出し、机の上に置いた。


「……?」


 無口くんは、机に置かれた古文の教科書を開かぬまま、首をかしげて、見つめていた。


「あのさ、もしかして範囲わからない?」

「……!」


 無口くんが目を輝かせながら首を縦にブンブン振った。

 わからなくて固まってたんだ。かわいい。


 ……まあ、勉強してないのは私もなんだけどね。


「えっとね、確か37ページから46ページだったよ」

「……!」


 無口くんが私を見て、頭を何度も下げてきた。

 きっと彼なりの感謝なのだろう。


「ふふ、気にしないで」

「……」


 無口くんは、私に向かってもう一度頭を下げた後、机に向かい直した。

 時々、むむむ〜?っていう顔をしているのを見ているのが楽しくて、つい自分の勉強を忘れてしまった。



 ◇◆◇



 古典の授業が終わり、私は絶望していた。

 無口くんの表情に夢中になりすぎて、勉強しなかったせいで、全然書けなかった。

 それに対して、無口くんは、安心したような顔をしていた。


「ねえねえ、テストどうだった?」

「……!」


 無口くんが首を縦にブンブン振った。

 そして、私に頭を下げてきた。

 私のおかげだ、と言いたいのだろう。


「君の実力で解けたんだよ。凄いね!」

「……!」


 無口くんは、少し照れた表情で頬を掻いた。


「ところでさ、今日の放課後って空いてる?」

「……」


 無口くんが頷いた。


「ほんと?良かった!もし良かったらなんだけど、今日の放課後、一緒にゲーセン行かない?友達と行くの、夢だったんだよね!」

「……!」


 無口くんが、今度は大きく頷いた。


「じゃあ、放課後一緒に行こ!」

「……!」


 無口くんが嬉しそうに頷いた。



 ◇◆◇



 ゲームセンターで、私達は沢山遊んだ。

 2人プレイのゲームは全てやり尽くしたし、UFOキャッチャーは、(取れたかどうかは別として)全部トライした。


「あっはは!またミスってる〜!」

「……」


 無口くんがUFOキャッチャーをミスる事に、私は挑発した。

 それに対して無口くんは、頬を膨らませて私を睨んだ。


「ぷっ……何その表情?」

「……!」


 私がそう言うと、無口くんはそっぽ向いてしまった。


「あー、ごめんってば」


 ふと、壁にかかっている電子時計を見ると、時刻は20時をまわっていた。


「あっ、やば。もうこんな時間じゃん!ねね、最後にプリ撮ろうよ!思い出に!」

「……」


 無口くんが、少し迷った素振りを見せた後に、頷いた。



 ◇◆◇



 私と無口くんが、投入口にお金を入れると、プリ機が作動した。


『いらっしゃいませ!この〈かわプリ2〉では、〈かわプリ1〉より、可愛く、そして美しく盛れるようになっているよ!新登場のメイク機能と、髪型変更機能を使って―――』

「あーうるさいうるさい。そーゆーのいいから」


 私は画面を連打して、プリ機の新機能紹介をSKIPした。


『撮影人数を選んでね!』


 画面には、『1人』『2人』『3人以上』の3つのボタンが表示された。

 私は『2人』ボタンを押した。


『2人モード!』


 私は初めて友達とプリを撮るため、少し新鮮な気持ちだった。


『それじゃあ、撮影ブースに移動してね!荷物は、カメラ横の棚に置いてね!』


 私達は撮影ブースに入った。

 中は真っ白な空間だった。


「わっ、白っ…」


 私は過去に何度か、プリを1撮ったことがあるが、ここまで撮影ブースが白いプリ機は初めてだった。


「そういえば無口くん、Yシャツ白いじゃん。消えない?大丈夫かな?」

「……」


 無口くんは、少し悲しそうな顔で、首を傾げた。


「あれ、なんかしょんぼりしてない?」

「……!!」


 無口くんが首を横にブンブン振った。

 大丈夫らしい。


『間もなく撮影が始まるよ!準備はオッケーかな?』


 カメラの横のモニターに、10秒間のカウントダウンが写し出された。


「あっ、やば」


 私は急いで荷物類をカメラ横の棚に置いた。

 無口くんも急いで反対側の棚に置いた。


『それじゃあ、撮影スタート!』

「ふう。間に合った……」


 カメラ横のモニターに、お手本ポーズと、自分たちの体が写った。


『まずは、ギャルピース!』


 私はお手本に合わせて体を動かした。

 無口くんは初めてで戸惑っているのか、モニター画面を見て、固まっていた。



 ◇◆◇



『これで撮影終了だよ!お疲れ様!外のラクガキブースに移動してね!忘れ物のないようにしてね!』


 なんとか撮影が終わった。

 このプリ機が特別なのか、謎に12枚も撮られた。


「はー、流石に疲れたね〜」

「……」


 無口くんは、相当疲れているのか、下を向いて目を合わせてくれなかった。

 私達がラクガキブースに入ると、モニターが起動した。


『ラクガキブースにようこそ!この〈かわプリ2〉では、〈かわプリ1〉には無かった新機能が沢山!新機能は、新機能ボタンから使えるよ!夢かわリップからギャルメイクまで、様々なメイクができる他、自由な髪型に変更できる髪型変更ツール、そして今流行りの―――』

「あーはいはいわかりましたー」


 私は聞くのが面倒くさくなって、SKIPボタンを押した。


『さっそく、ラクガキを始めよう!ラクガキは、モニター横のタッチペンを使ってね!』


 私は、画面に表示された、私達の写真を見て、ゾッとした。



「私しか、写ってない……?」



 私は焦りながら、他の11枚の写真も確認した。

 しかし、どの写真にも、無口くんは写っていなかった。


「まさか、服が白いから?でも髪の毛は黒いし……」

「……」


 無口くんは相変わらず無口だった。


「ねえ、これってもしかs―――」

『ラクガキタイム、残り30秒!』

「……」


 私の声が、プリ機の音声によってかき消された。

 すると、無口くんが私の手を握ってきた。


「えっ?」

『残り10秒!』

「……」


 無口くんの手の力がグッと強くなる。

 私はなんだか怖くなって、目をぎゅっと瞑った。


『ボーナスタイム、スタート!』

「……!」


 無口くんの手の力が弱まった。

 私が恐る恐る目を開けると、そこには泣いている無口くんがいた。

 しかし、声は出さず、ただ涙を流しているだけだった。


「ふぇっ?」

「……」


 驚いた私は、変な声を出してしまったが、それでも無口くんは無口なままで、私の手を握っていた。

 私は気まずくなってきて、目を逸らした。


「……」


 無口くんの手を握る力が、段々強くなってきた。


「あの、無口く―――」

「ねえ」


 無口くんが、初めて口を開いた。



「君はともだち。だから――ずっと一緒」



 今まで一度も聞いたことのない、無口くんの低い声。

 私は驚いて顔を上げた。

 無口くんは、涙をボロボロ流しながら、笑っていた。

 口角が、人間とは思えないほどに上がっていた。


「え―――」

『カウントダウンスタート!』


 口角がありえないほど上がった彼は、いつもの無口くんではなかった。


『3……2……1……』


 無口くんの手を握る力が強まるのが止まった。


「……一緒、でしょ?」

「っ!?」


 無口くんが私の手を引っ張った。

 急に目の前が真っ暗になった。


『終了!お疲れ様でした!』


 プリ機の声だけが響いた。


 1人の少女しか写っていない、2人用のシールは、誰にも取られることなく、受け取り口に残されていた。




 〜ひとくちmomo〜

【ちょこっと解説】

 無口くんは人間ではありません。幽霊です。だから、写真には写りませんでした。

 ある日彼は、未練を持ったまま、不運な事故で死亡しました。

 そして彼は、の掟により、魂と体に分裂しました。

 魂は転生し、別の体へ引っ越しましたが、体は幽霊となって残ったままでした。

 その体を放置していても特にいいことはありません。転生した魂とは別の意識があるため、体側は、魂側とは違って、ただつまらない、永遠に続く幽霊生活を送らなくてはならないからです。

 そんな幽霊たちを救うためできた掟がもう一つあります。


『幽霊はの生きた人間を1人、道連れにすること』


 そうすれば幽霊たちは、永遠の幽霊生活から開放され、成仏できるのです。

 そう。無口くんは、『私』の命を狙っていたのです。

 ラクガキブースから消えた2人は、もう、この世の人間ではありません。

 また、無口くんが涙を流していたのは、道連れにするために仲良くした『私』に、『この掟を果たす上で必要のない感情』を抱いてしまったからです。

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