第2話

 ……と、ここまで話したのが、俺が桃太郎に転生した流れである。

 老夫婦と共に生活して早15年。俺は、原作の桃太郎では鬼退治に行く15才になった。

 15年も経てば、コミュ障でも村の人々とある程度は和解することができた。

 中でも俺を育ててくれた老夫婦との和解は早く、1年足らずでできた。今では前世の親以上に孝行している。

 また、俺は出会った時より年を取った2人のため、朝は川へ洗濯に、夕方には山へしば刈りに行っている。

 空き時間の昼間は、村の人々と交流したり、子どもたちと遊んだりしている。とはいえ、ここはとても小さな村なものだから、住民は大人16人、子供9人ほどといったところだ。

 中でもお隣さんの鍛冶屋の鉄次郎さんは、老夫婦とも仲が良く、俺にも良くしてもらっている。何度も採れたての松茸まつたけたけのこ、山菜類をおすそ分けしてくれた。めっちゃ美味かった。

 俺的に一番びっくりした、新しい村の友だちが、村一番の美女とも呼ばれる輝夜かぐやちゃんだ。

 輝夜ちゃんは透き通るような髪と瞳を持ち、村人たちの間では「あの子は将来、街へ行って良い身分の御方と結婚するのではないか」と噂されていた。

 俺と出会った当初は、緊張で喋れず俯く俺の顔を覗き込み、「あなたが桃太郎さん?これからよろしくね!」と手を差し出してきた。

 それでも陰キャの俺は手を握る事はできず、オロオロしていると、輝夜ちゃんは俺の手を握ってブンブン上下に振った。

 その後も輝夜ちゃんは一向に喋らない陰キャの俺と沢山遊んでくれた。

 村を散歩したり、鬼ごっこ(全敗)をしたり。時には他の村の子供達も誘ってみんなで遊ばしてくれた。

 みんな前世の人間クソ共とは違い、他人を思いやれる優しい人だと分かり、気がつけば村人の全員と和解することができていた。

 相変わらず運動音痴陰キャであることは変わりないが、コミュ障が少し改善されたかもしれない、と勝手に思っていた。


 そんな平和な生活が続いていたある日、この国の帝に使えるおえらいさんが村にやって来た。俺は「キラキラした鎧に包まれた馬に乗り、高貴な着物を着、腰に刀を差した男性で、老夫婦の家の在り処を村人に訪ねた」と、村人から聞き、老夫婦に危害が及ぶのではないかと心配になり、村の子供達と共に急いで家に帰った。

「この村に桃太郎という名の少年はいるか?正直に答えろ」

「し、しかし、何故?」

「正直に答えろと言っている。この村に…いや、この家に桃太郎という名の少年はいるか?」

 俺が家に着くと、老夫婦は地面に正座し、こうべを垂れていた。2人には刀が向けられていた。

「え…。おじいさん…?おばあさん…?」

「え、ええ。ええ。いますとも。わたくしめのたった一人の息子でございます」

 おばあさんが泣きながら答えた。

「…そうか。其の者を鬼ヶ島に行かせろ。帝が仰った」

 おえらいさんが刀を腰に差しながら言った。

「帝様が、でございますか。しかし、何故桃太郎めが…」

「ええ、ええ。桃太郎はさほど強くはありませぬ。鬼ヶ島に行かせたとて、果たして生きて帰れるか…」

「異論は認めぬ。これ以上逆らえば殺すぞ」

「っ…」

 老夫婦が必死に反論するが、再びおえらいさんが刀を抜き出したので、老夫婦は言葉に詰まってしまった。

「おじいさん!おばあさん!ご無事ですか!?」

 俺はたまらず老夫婦に向かって叫んだ。輝夜ちゃんが俺を止めたけど、それでも老夫婦が心配で、叫んでしまった。

 俺の声に驚いたおえらいさんが振り返り、俺を見た。

「…お主が桃太郎か?」

 おえらいさんの声は重く、冷たかった。

「……あ、えっと……あっ、あの、ははははいっ!」

 無事コミュ障発動☆

 老夫婦に刀を向けていたおえらいさんは、刀を腰に差し直し、俺の目の前に馬を歩かせた。

 間近で見ると、すごく迫力がある。

 馬だけでまだ15才の俺の身長よりも高く、その上に背が高い男性が乗って見下ろしているので、体感2m程あるのだ。

「桃太郎。お主は今すぐに鬼ヶ島へ行く準備をせよ。帝からの命令だ。」

「は、はあ…。」

「俺はそれだけを言いに、ここへ来た。やれるな。」

 おえらいさんが、俺を睨んだ。

 しかし俺は何が何でも鬼退治に行きたくない。

「あ、いや、あの、それは…」

「曖昧な返事をするなッ!」

「っ!」

「帝はこれ以上鬼が悪さをするのを望んでおらぬ。お主は選ばれたのだ。帝に選ばれるなど、貴重な機会を無駄にするとでも言うのか。」

 いや、確かに貴重な機会なのは十分承知の上なんですよ?でも……

「あ、あのー…俺…運動音痴で…」

「……お主まで反論するのか!この村にはろくな者がおらん。もう良い!」

 こう言っておえらいさんは踵を返し、馬を走らせていった。

 もしかして鬼退治せずに済んだのでは…!?そんな期待を持ちながら、まずは安否確認のため、老夫婦に駆け寄る。

「おじいさん、おばあさん!大丈夫ですか?」

 俺が駆け寄り声を掛けても、老夫婦は土下座状態のままだった。

「おじいさん?おばあさん…?」

「ああ、ああ。神さま、わたくしめに何を授けてくださんか。」

「え?」

「もう一時いっとき、授けてくださんか。」

「ちょっ…え?」

 老夫婦はよくわからないことを言いながら空に向かって何度も礼をした。

 後ろにいた村人たちは俯いていた。


 〜ひと口momo〜

【次回予告】

 なんとか桃退治強制イベント(?)を乗り切った桃太郎。しかしこの事件から数カ月後、今度は村の様子がおかしくなる。やけに賑やかな昼。やけに静かな夜。家には老夫婦もいない。夜が明け、家の戸を開けるとそこにいたのは……!9/3更新予定!お楽しみに!

【本文の一部変更について】2024.9.2.20:48

 本日、第1話拡張により、第2話冒頭が第1話に移動し、第3話に掲載予定だった内容が少し第2話に入っています。「無事コミュ障発動☆」の後の文章は第3話冒頭部分に掲載予定だった内容です。大きな変更となってしまい、お詫び申し上げます。

 また、第3話は今回の変更に想定以上の時間を要したので、9/3に更新とさせていただきます。0に限りなく近いであろう、最新話を楽しみにしていてくれた方々、申し訳ありません。

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