二章 ぼくの夢を叶えるため

二章 ぼくの夢を叶えるため


 わたしの家に届いたのが、運命だなんて、そんなことありえない! 抱きまくらは、きっと返品されたくないものだから、適当なことを言っているのかも。

「間違いに決まってるじゃない。わたしが注文したのはキララちゃんなんだから!」

「じゃあ聞くけど、そのキララちゃんはどこから送られてきたんだよ」

「それは、キララちゃんのグッズを売っているところに決まっているでしょ」

「ちゃんと確認したのか? ぼくが入っていた箱にシールが貼られていただろ? それを見たらわかるさ。送り主は不思議まくら屋って書いてあるはずだから」

「そんなわけないでしょ!」

「いいから確認してみなよ」

 抱きまくらは、ピョンピョンと跳ねるように箱の前まで移動した。

 たしかに家の住所とお母さんの名前しか確認してなかったけど……。

 言われたとおり箱に貼られたシールを丁寧に確認すると、そこには不思議まくら屋って書いてあった。

「え? えぇええ! どうしてぇえええ!」

「どうやら、ぼくの言っていたとおりだったようだ」

「ウソでしょ……」

 急いで机の上にあるスマホでキララちゃんのグッズを検索してみる。

 キララちゃんのグッズを売っているのは、やっぱり不思議まくら屋なんて名前じゃない。それじゃあ、どうして頼んでもいないものが届いているの?

「ねぇ、これってどういうこと?」

 聞いてみると、抱きまくらはピョンピョンとわたしの前へやってきた。

「不思議まくら屋は、ぼくみたいな抱きまくらの夢を叶えてくれるお店なんだ」

「夢? きみには夢があるの?」

「そうさ、ぼくはアイドルになるのが夢なんだ。だからそれを叶えるために、ここへ運ばれてきたってわけ」

 得意げに話しているけど、どう考えても一方的な理由だ。そもそもなんで、わたしの家なのだろう?

「夢は、わかったけど、どうしてここに運ばれたの?」

「だから運命だよ。抱きまくらが配達される場所は適当だろうし。まぁ、こうしてぼくと出会えたのはラッキーだったと思うけど」

 なにがラッキーなのかわからない。それよりキララちゃんの抱きまくらはどうなったんだろう。配達が遅れているのかな……。

「あぁああ、もう! キララちゃんの抱きまくらは届かないし、最悪!」

「まてよ……ここに運ばれたタイミングを考えると……うーん、いや、可能性はあるな……」

 抱きまくらにプリントされているイラストの男の子は目を閉じると、なにやらブツブツ言い出した。

「どうかしたの?」

「もしかしたら、この家に配達された原因は、ぼくがキララちゃんのまくらと入れ替わった可能性が……」

「え? それってもうキララちゃんは届かないってこと?」

「そうなる可能性はある。でも、解決する方法がないわけじゃない」

「え! 教えてよ」

「ぼくがアイドルになるための手伝いをすれば解決だ」

「手伝い? アイドルになるってどういうこと?」

「その前に……まずは返品を止めてくれないかな? ぼくが返品されてしまったらキララちゃんの抱きまくらは消えてしまうかも知れないよ? 詳しい説明はそのあとだ」

 キララちゃんの抱きまくらが消えてしまうなんてことになったら困る。もう一つ買うほどお小遣いに余裕はないし、誕生日は過ぎてしまっているからお母さんやお父さんにお願いはできない。

 お小遣いが貯まるのをまっていたら商品が売り切れてしまうし、そしたらもう二度と手に入れることができないかも……それは大変!

「わかった! お母さんに返品をやめてもらうように言ってくるね!」

 急いで部屋を飛び出してリビングへと向かうと、お母さんはソファに座りテレビを見ていた。

「お母さん! 抱きまくら、やっぱり返品まって!」

 いきなり大きな声で話しかけたものだから、お母さんは少しおどろいた顔をしている。

「もうっ、びっくりするじゃない。抱きまくらだけど、さっき連絡しちゃったわよ?」

「えぇええ! お願い、お母さん! それ、取り消すことできない?」

「そうしてあげたいけど、返品はあとから変更できませんって言われてるのよ」

「そんなぁ……」

「そういえば業者さんは土日がお休みらしくて、受け取りは三日後になるらしいわよ? 今日が金曜日だから月曜日になるかしら……あら、祭日なのね」

 お母さんはリビングの壁にかけてあるカレンダーを見て言った。

 三日後だなんて……とにかく、このことを部屋でまつ抱きまくらに伝えないと。

「お母さん、ごめん。ちょっとやることあったから部屋に戻るね」


 なんだか言い出しにくいなぁ……ドアを開けたくない。でも、ちゃんと伝えないとダメだよね。わたしの問題でもあるわけだし、なにかいい方法がないか話し合わなくちゃ!

 ドアを開けると、抱きまくらは部屋のはしに置かれているベッドの上にいた。まくらだから違和感なくなじんでいる――ってそんなことを思っている場合じゃなかった。

「戻ってきたな。返品は止められたのか?」

「その……」

「もしかして、ダメだったのか?」

「ごめんなさい! もう返品の連絡しちゃってたの。三日後の月曜日、受け取りにくるんだって……」

「三日後だって! もう一度、連絡して取り消せばいいじゃないか!」

「それが取り消せないらしいの」

「そんな……」

「本当にごめんなさい。どうしよう……」

 抱きまくらはショックを受けているみたいだけど、わたしも落ち込んでいる。だって、このままじゃキララちゃんの抱きまくらは届かなくなってしまうかも知れないんだもの。

「わたしも、ショックだよぉ」

「こうなったら……三日後までに、ぼくの夢を叶えるしかない」

「なんとかなるってこと?」

「ああ、たぶん大丈夫だ。このまま黙って返品なんてされてたまるか」

「どうするの?」

「ぼくが夢を叶えるためには、この世界で三つ良いことをしなくてはダメなんだ。だから三日以内にそれをすべてクリアすればいい」

 抱きまくらはベッドの上で、なぜかクルっと回転して見せた。

「そうしたら返品されないの?」

「ああ、それができれば、ぼくは抱きまくらから人間の姿となってアイドルになっているからな! 夢さえ叶えてしまえば返品は自動的に取り消されるし」

「そっか! そうだよね! あ……でもキララちゃんの抱きまくらは?」

「それならぼくがアイドルになれば人気は間違いないから、いくつでも買ってプレゼントしてあげるさ」

 なんだかすごい自信だけど、そんなすぐに人気なんて出るのかな? キララちゃんだって売れるまでに、ものすごく努力してきたのに。

「本当に人気が出る?」

「なんだよ。うたがってるのか? このぼくのビジュアルなら、大人気になるのは間違いないぜ!」

 たしかに見た目はかわいいと思うけど……うーん、信用してもいいのかなぁ……。

「本当に大丈夫?」

「しつこいなぁ。大丈夫、約束する! それに今回を逃したら、ぼくにはもう次のチャンスがないかも知れないんだ」

「どういうこと?」

「ぼくのように不思議まくら屋から出荷されたものは夢が叶えられなかったり、返品をされると次の出荷が、なん年さきになるかわからないんだ……さいあく処分されてしまうかも」

「そんな……処分だなんてひどいよ」

 抱きまくらは話しながら少し悲しげな表情をしていた。プリントされたイラストが幼い男の子だから、なんだか可哀想に思えてきてしまって同情してしまう。

「ぼくに協力してくれる?」

 可愛らしい大きな瞳で、わたしを見つめてくる……ダメ、そんな顔をされたら、キュンとしちゃう!

「わかった、協力する! まかせて!」

「本当か! ありがとう! そういえばまだ、自己紹介していなかったな。ぼくの名前はアイル。えーと……」

「わたし日向琴葉! 小学五年生! 呼び方は琴葉でいいよ!」

「そうか。琴葉、よろしくな!」

「こちらこそ!」

 わたしは返事をすると、握手のかわりに抱きまくらのはじっこをムギュっと握った。

 どうにかして、三日後までにアイルの夢を叶えてあげて、キララちゃんの抱きまくらも手に入れるため、がんばらなきゃ!

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