九章 これからどうしよう?
九章 これからどうしよう?
お隣さんからいただいたケーキをキーちゃんと食べながら、子犬の騒ぎで途中になっていた良いことをクリアするための話を再開した。もちろんアイルも一緒!
「琴葉、明日に備えて連絡先を交換しておかない?」
「えっ! いいの!」
「いいに決まってるじゃん! もうあたしたち友達なんだし! それに良いこと探しの仲間だもの!」
「うん。そうだよね!」
友達だなんて! 憧れのキララちゃんとスマホの連絡先を交換できるの? ウソでしょ? もう幸せすぎるんだけど!
「なんだよ二人とも! ぼくだけ仲間はずれみたいじゃないか」
スマホを出してお互いの連絡先を交換しているとアイルが不機嫌そうに声をかけてきた。
「そんなこと言っても仕方ないじゃない。アイルはスマホをもってないでしょ?」
「そうだけど、なんだか納得いかないなぁ。子犬のときだって協力してるんだぞ!」
「ごめんね。アイルくんも、もちろん仲間だよ!」
「そうだよ、ぼくだって仲間なんだぜ。わかってるならいいけどな」
「えー! なになに、キーちゃんのいうことには素直にきくのね」
「琴葉、うるさい」
そういえば子犬を捕まえたとき、アイルも協力をしてくれたわけだし、二つめの良いことをクリアしているかも? なんて思っていたけど、抱きまくらのプリントにはなんの反応も起きなかったんだよね。やっぱりわたしやキーちゃんが手を貸したらダメなんだ。
「あーあぁ、いまだに一つしかクリアできていないなんて。アイルだって子犬を捕まえるのを手伝ったのに! 神様もケチだよね」
「まぁ、あのときのぼくは琴葉に使われていただけなんだから、仕方ないかもな」
「ねぇ、琴葉。あのときアイルくんにできたことって、押さえつけるとか隙間をふさぐとかだったでしょ? そこになにかヒントはないかしら?」
「キーちゃん、それしかできないみたいな言いかたはやめてくれよな。ぼくができるのはそれだけじゃないんだぜ?」
「ごめんね。そういう意味で言ったわけじゃないの」
キーちゃんは両手を合わせてアイルに謝っているけど、ほかにアイルができることって、なにがあるんだろう?
「ねぇ、アイル。それじゃあ、具体的になにができるの?」
「琴葉までなんだよ。うーん。そうだな……ジャンプしたり……この身体をひねるとか」
アイルは言いながら動いてみせる。
「ねぇ……それって、ただ動いているだけじゃない」
「なんだよ、その動きがなにかのやくに立つかもしれないじゃないか」
「それは、そうかもだけど」
アイルはなんだか不機嫌そうな表情をしているけど、仕方ないわよね。なんだかピンとこなかったんだもの。
「ねね! あたし思いついちゃった! ベンチにアイルくんを置いてみるのはどう? 座布団として使ってもらえるかも」
「それいいかも! キーちゃん天才だね!」
「ダメだな」
「え? なんでよアイル」
「想像してみろよ。ベンチに抱きまくらが置いてあったら普通にあやしいだろ? それに人に座られるなんてごめんだね。ぼくは抱きまくらであって座布団じゃない」
「なによ、このあいだ自分は抱きまくらじゃないとか言ってなかった?」
「うるさいなぁ、とにかくその案はダメ」
「勝手ねぇ」
でも冷静に考えてみると、たしかに抱きまくらが突然ベンチに置かれていたら、あやしくて、だれも座ろうとはしないかも。それに忘れものだと思われてそのまま警察とかに届けられたら困っちゃうし。
「キーちゃん、やっぱりダメかも……」
「えー! いいアイディアだと思ったんだけどなぁ……でもアイルくんは嫌そうだし、仕方ないのかな?」
「でも、そういった感じでアイディアを出していけば、なにか見つけられそうだよね」
「うん。でも、どうしてもアイディアが浮かばなかったら、アイルくんは座布団にならなくちゃダメかもしれないよ? 返品まで時間もないんだし」
「えーと、明日が日曜日だからアイルの返品が月曜日……残り二日? まだ少しだけ余裕はあるかも」
「ねぇ、琴葉。アイルくんの返品って月曜日の何時にくるの?」
「あ……そういえば、聞いてない」
「もし、月曜日の朝にくるのだとしたら残された日数は、一日って考えたほうがいいかもしれないわよ?」
「そっかぁ……わたしお母さんに聞いてくる!」
「あ! ちょっとまって琴葉。その……」
キーちゃんはほおをかいて、なにか言い出しにくそう。
「どうしたの?」
「約束していたことなんだけど……ほら、あたしを泊めてほしいって言ったこと」
「あ! そうだった! それもお母さんに聞かなくちゃ!」
「ごめんね。お願いしてもいい?」
「いいよ! 約束したもの! 任せて!」
わたしがグッドマークをして見せるとキーちゃんも同じように返してきた。
お母さんにお泊まりのことを相談してみると、意外にもすんなりと許可を出してもらえた。キーちゃんのことを色々と聞かれたらどうしようと思っていたから正直ほっとしている。
そういえば、キーちゃんはどうして家に泊めてくれなんてお願いをしてきたのだろう? でも今は、アイルの返品の時間のほうが問題かもしれない。
結局、それに関してはわからないまま部屋へ戻ることになってしまった。とりあえずこのことを二人に話さないと……。
部屋に入るとキーちゃんはアイルを抱きしめながらスマホを見ていた。
「おかえりなさい琴葉。どうだった?」
「お泊まりしてもいいって!」
「本当! よかったぁ。ありがとう琴葉」
「ううん。でも、返品の時間のほうが結局わからなくて……」
「そうなんだ?」
「うん。お母さんが電話で話したときに聞いてくれていたの。でも、業者さんにわからないって言われたらしくて」
「それじゃあ、月曜日の朝もありえるってこと?」
「そうなるかも……」
返品の時間がわからないということは、キーちゃんが言っていたように月曜日はないと思って行動しないとダメなんだ……なんだかものすごく不安になってきた。
「琴葉。心配しなくても大丈夫だ! いざとなれば、ぼくは座布団にだってなるさ」
「そうだよ琴葉。まだ残り一日あるんだから心配ないよ! あたしも、頑張るし!」
「アイル……キーちゃん……」
そうだ、アイルができる良いことは何時間もかけてするようなものはないだろうから、見つけることさえできれば、一日あれば余裕でクリアできる。弱気になっている場合じゃない。
「そうだよね! 明日は、がんばらなくちゃ!」
ぐぅ〜。
「ん? いまの音はなんだ? 琴葉のほうから聞こえたような……」
「え? わたしじゃないよ」
「そうなると……」
キーちゃんは気まずそうに胸もとで小さく手を上げた。
「あ、あたしです……お腹なっちゃった」
「さっきケーキ食べたのにね? でも、もうすぐ夕ご飯になると思うよ!」
「べ、べつにお腹が空いているわけじゃないんだからね!」
「はいはい」
顔を赤らめてわたしの胸もとをポカポカやさしく叩いてくるキーちゃんは本当に可愛くてキュンとしちゃう。
夕ご飯を済ませてのんびりしていると、お母さんがお風呂をすすめてきたのでキーちゃんから先に入ってもらった。アイルはベッドの上で横になったまま動かないけど、もしかして寝ているのかな?
「ねぇ、アイル。起きてる?」
「なんだよ?」
アイルは跳ねるように起き上がるとベッドから降りてきた。
「キーちゃんのことなんだけど、どうして家に泊めてほしいなんてお願いしてきたのかな?」
「さあな。家出でもしてるんじゃないか?」
「家出っ⁉︎」
「突然、大きな声を出すなよ。びっくりするじゃないか」
「だってぇ……そうだとしたら大変じゃない」
「まだ、そうだと決まったわけじゃないんだし、そんなに心配なら本人に聞いてみたらいいじゃないか」
「そんなの、聞きづらいよ!」
「なら、黙っておくんだな。そのうち本人から話してくるかもしれないぜ」
抱きまくらのアイルは、言うとベッドの上へ戻ってしまった。
「ぼくは良いことをどうすればクリアできるかを考えすぎた。疲れたから寝る」
「えぇー! 人が悩んでいるのに冷たくない?」
「おやすみ」
「もう!」
アイルも返品のことで大変なのはわかるけど、もう少し話を聞いてくれたっていいのになぁ。でも、もし本当に家出だったらどうしよう……やっぱり本人に聞いてみたほうがいいのかもしれない。
そういえば、ニュースとかネットの反応はどうなっているのかな? もし家出とかだったら大騒ぎになっていてもおかしくないよね?
スマホでキララちゃんの情報を調べてみる――けど、それらしい話はどこにも見当たらない。
「うーん。わたしが気にしすぎなのかな……」
「琴葉?」
「え? わわっ!」
気がつくと、いつのまにかキーちゃんが部屋のドアを開けて立っている。スマホに集中していて気がつかなかった。いつからいたんだろう……アイルとの会話は聞かれていないよね?
「どうかしたの?」
「な、なんでもないよ!」
「そう? なにか気にしてるようだったから」
「えーと、キララちゃんのグッズが売り切れないか心配で……あはは」
「へー、どのグッズが人気あるの? ねね! あたしにも見せてよ」
キーちゃんがわたしのスマホの画面を見ようと顔を近づける。
「あぁあ! キーちゃん!」
「きゃっ! な、なに?」
「キーちゃん、大変! メイクが消えてる!」
「え? だってお風呂に入ったし……」
キーちゃんはことの重大さに気がついていないみたい。キララちゃんだってバレないようにするためのメイクを落としてしまったら意味がない。今のキーちゃんはノーメイクだと思うけど、星志野キララにしか見えない。
「キーちゃん、わたしの部屋にくるまでにお母さんには会ってないよね?」
「え……お風呂上がりにノドが乾いちゃったからウーロン茶もらった」
たしかにキーちゃんの手にはペットボトルが握られている。
「えぇええ! ダメじゃない! キーちゃん、お母さんにバレないようにメイクしたんだよ?」
「あ! そっか!」
もしかしてキーちゃんって、少し天然キャラなのかな?
「大丈夫かなぁ」
「たぶん大丈夫だと思う。なにも言われてないもの」
意外とお母さん鋭いところあるからなぁ……でも、なにも言われていないのなら気がついてないのかも。さすがにアイドルのキララちゃんがこんな場所にいるなんて思わないものね。
「髪の毛、乾かしたらまたメイクしなくちゃダメだよ」
「ねぇ、琴葉」
「なに?」
「それ、意味あるのかな? もう顔を見られちゃってるし……」
「せめて部屋を出るときはメガネをかけようね」
「はーい」
なんだか、わたしが先生、キーちゃんが生徒のような感じがして笑ってしまった。
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