第11話 妖怪 火炎将軍

 お雪さんは結婚衣装に着替えていた。


 花嫁衣装は全身真っ白な着物。

 大きくて真っ白い帽子を被っているんだけどさ。

 事典蝶に聞いたら『綿帽子』って名前らしい。

 それは彼女の顔を隠すくらいに大きくて、影になって表情が見えなかった。

 悲しい顔をしているんだろうな。


 村のみんなは、そんな彼女をおもんばかって、おいおいと泣いていた。


 彼女は台車に乗っていて、一緒に積まれているのは大きな米俵と野菜の数々。

 結婚式の準備は万全ってことらしい。


 二人の村男が台車を引く。

 彼女を乗せた台車は古寺へと向かった。


 僕は米俵の中に事典蝶と一緒に隠れているんだ。

 ふふふ。これが僕の考えた作戦さ。火炎将軍を油断させて、魂を取られる前に攻め立てる。


 台車の動きが止まった。

 

「お、お雪よ。古寺に着いたで、オラたちは帰るからな」

「達者でなぁ!」


 二人の村男は足早に去って行った。


 さて、古寺ってどんな所だろう?

 

 僕は米俵の隙間から外を見る。

 そこは崩れそうな建物で、周囲には雑草がビッシリと生えていた。

 霧が出てるのかな? 昼だというのになんだか薄暗い。


『娘っ子よぉおおお。拙者の嫁になってくれるかぁああああああ』


 き、来た!

 とんでもなく低い声。うめき声みたいでかなり怖い。


ガシャン……ガシャン……。


 これは甲冑が擦れる音かな?

 社会の教科書に載っているようなさ。武士が着ている装備品だ。

 火炎将軍の足音だろうか。こっちに近づいてくるな。


 音はピタリと止まると、さっきより近くで声がした。


『娘っ子……。顔が見えんな……』

 

 僕には、米俵の隙間からしっかりと姿が見える。


 デカいな……。

 二メートルくらいはあるぞ。


 顔は人骨。

 

 甲冑を着たガイコツの妖怪だ!


『さぁ、娘っ子。拙者に顔を見せるが良い』


 火炎将軍はお雪さんの綿帽子を外した。


『な、なんだ!? その耳は!?』


『残念だったピョンね!』


 彼女の頭に生えているのは二本の長い耳。


『むむぅ! 貴様はウサギ娘か!?』


 そう!

 これが僕たちが考えた作戦さ。

 

『お雪は、ここには来てないピョン! 耳子がお嫁さんになっていたピョン!』


 そう言って、耳子は空高くジャンプした。


『ウサギ落下脚だピョン!』


 おお! 耳子の飛び蹴り攻撃だ!


 僕と事典蝶は米俵から体を出した。


『ふん。そんな攻撃! 簡単にかわしてくれるわ!』


 火炎将軍は耳子の飛び蹴りを素早くかわす。


 しかし、それだけでは終わらないのさ。


ポンポコポン!


「跳ねる」


ビョーーーーン!


 僕は空高く飛ぶ。

 火炎将軍めがけてぇえええええ!


ポンポコポン!


「石ぃいいいい!」


 タヌキ隕石の落下だぁあ!!


ボコォオオオオッ!!


 よし。背中に命中したぞ!!


『ぐぉおおおッ!』


 火炎将軍は倒れた。


『やりましたね、大助さん! 耳子さんの攻撃を囮にして、背後からの石攻撃! お見事です! 作戦大成功ですよ!』


『あは! やっぱり大助はすごいピョン! 空からお星様が落っこちたみたいピョン!』


 たしかに。

 本当に隕石みたいだったから、技名もタヌキ隕石にしよう。 


 石を解除っと!


「ふふふ。どうだ? 耳子と僕の連携攻撃!」


『な、なんだ……? こ、このチビダヌキはぁあ?』


「僕は大助だ。降参したら許してあげるよ」


『だ、誰が降参なんかするもんかぁあああああああ!!』


 あらら、まだまだ元気一杯ですか!?


 火炎将軍は起き上がって、口から炎を吐いた。


 ええええええええ!?


 僕の尻尾に火がついてしまう。


「熱ちちちちちちッ!」


『グハハハ! 焼きダヌキにしてくれるわ!!』


 ええい。

 そうはいくか!


 葉っぱカードを頭に乗せてぇ。


ポンポコポン!


「水!」


 僕は口から水を出す。

 尻尾に向かってブシャーーって吹きかけた。


 よし、消化完了。


『なに!? 水の術を使えるのか!? こしゃくな化けダヌキめ! だったら威力を上げてやるわ!! これでも喰らえ!!』


 それは、さっきより大きな炎だった。


 僕だって負けないぞ!!


ポンポコポン!


「水ぅううッ!!」


 さっきよりも強力な水流噴射だ!


『すごいピョン! 火炎将軍の炎と大助の水が衝突しているピョン! 二人の真ん中で湯気になってるピョン!!』


 湯気は辺り一面に広まった。


 見えないな?


 あれ?


 なんか手応えがないかも??


 僕の水流は何も無い場所にビチャビチャと散らばっていた。


「あれ!? いない!?」


『ガハハハ! 間抜けなタヌキめ! 拙者はこっちだぁああ!!』


 火炎将軍は耳子と事典蝶を捕まえていた。

 耳子は首を掴まれて声が出ないほど苦しそうにしている。


「ふ、二人を離せぇ!」


『クハハ! そうはいかん。拙者に逆らったことを後悔させてやらんとな』


「お、おまえが村人の魂を食べたりするから悪いんじゃないか!」


『バーーーーーーカ! 拙者は妖怪なんだぞ。人間なんてどうでもいいだろうが。妖怪は悪いことをして楽しむ生き物なのだ』


「違う! 耳子も事典蝶も良いやつだ! 妖怪には良い妖怪もいるんだ!!」


『ガハハハ! そんなことがあるわけがない。魂いただき!!』


「!?」


 耳子と事典蝶の口から青白い火の玉が出る。

 な、なんだ? あれが魂なのか!?


 火炎将軍はガイコツの口をあんぐりと開けた。


 ま、まさか食べる気か!?


「うわぁああああ! やめろぉおおおおおおおお!!」


パクッ!


 火炎将軍は二人の魂を食べてしまった。


「耳子ぉおおおお! 事典蝶ぉおおおおおおおおおお!!」


『グハハハ! 拙者に逆らうからこうなるのだ。おまえの魂も食ってやるわ!』


 魂は火炎将軍を倒せば戻るルールだったな。


 僕の持っている葉っぱカードは、石、跳ねる、水、飛翔の四枚だ。


 手持ちのカードを使って火炎将軍を倒す!


 待っててね、二人とも!


 必ず助けるからね!!

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