第3話 妖奉行に会っちゃいました
事典蝶の話しだと、悪い妖怪を取り締まる、良い妖怪ってことみたいだけど……。
僕が入ったのは広い和室だった。
畳が大きいんだ。一枚が学校のプールみたいな大きさ。
そこには大きな掛け軸もあってさ。デッカイ字で『悪業成敗』と書かれていた。
その部屋には大きな山が一つあった。
三十メートル以上はあるかな。
こんな所に山?
などと思っていると、それは大きな男の人で、頭にはちょんまげがついていた。
あぐらをかいてずっしりと座っている。
その顔はまるで怒っているようで、鋭い目つきでこちらを睨んでいた。
怖すぎる……、なんて思っていると、大きな声が部屋に響いた。
『事典蝶か。なんの用だ?』
うひゃぁ……。体も大きいけど、声もデカいなぁ。
僕の毛がゾワゾワーーって逆だっちゃうよ。
『
僕は事典蝶に言われるがまま、
あぐらをかいたら怒られそうなので、きちんと正座したよ。
『事典蝶、なんだその子ダヌキは?』
『神降ろしの儀式で間違って未来から来てしまったようです』
『ほぉ……。おそらく、その子供の先祖が儀式の中におったのだろうな。想いが時を超えて魂を移動させたのだ。それにしては子ダヌキとはどういうことだ?』
『神鏡の前に子ダヌキが死んでおりまして、おそらく、お供え物のまんじゅうを喉に詰まらせたのだと思います』
『ははは。なるほど。子ダヌキの体に宿りよったか』
『私が
ひぃええ……!
声が大きすぎてタヌキの毛が逆立って飛ばされそうになったよ。
『さぁ。大助さん。自己紹介を』
「う、うん……。
『私は日本全国にいる悪い妖怪を取り締まる仕事をしておるのだ』
「へぇ……」
いわゆる、妖怪の警察みたいなもんかな。
『大助が呼ばれた地域では悪い天狗がおってな。私が懲らしめてやらねばならんかった。それが、大助の魂が呼ばれるとはとんだ災難だな』
「ははは。そ、そうかもしれません」
『大助よ。
「は、はい……。ではお願いします」
『それがそうもいかん』
「え?」
『私は仕事が多くてな。ほれこれを見よ』
と、
そこにはびっしりと文字が書かれている。
『これは日本全国にいる悪い妖怪の一覧なのだ。多いだろ?』
「う、うん」
『これを私一人で取り締まるのは大変なのだ』
たしかに仕事が多そうだな。
『そこでだ! 天狗退治を
「え!? で、でも、僕はタヌキですよ?」
『化けダヌキならば妖怪にも勝てよう。これヤカンヅルよ。大助に
すると、天井からスイカみたいな丸い球体がゆっくりと落ちて来た。
それは、やかんの形をしていて黄色い目がついている。なんだか、すごく不気味。
やかんの体からは紐が伸びていてそれが天井とつながっているみたい。僕の目の前でピタリと止まった。
『大助よ。そのヤカンヅルの中を見てみよ』
やかんの上には蓋があって、僕はそれをパカっと開けて中を見た。
すると、中には一枚のカードが入っていた。
なんだろう?
取り出すと、葉っぱ型のカードだった。
カードの真ん中には漢字で『石』って書いてある。
『化けダヌキ専用の
「へぇ……」
妖術……。
ゲームというところのスキルとか魔法とか特殊能力ってことだな。
石って書いてあるから石属性の技なのかな?
なんだか面白そうだぞ。
『その葉魔札を使って天狗を懲らしめてくれんか?』
「うーーん。僕にできるかな?」
『できますよ! だって、大助さんは未来のことをたくさん知っているんですから。げーむ、とか、あにめ、とか、私の知らないことを知っているんですよ!』
『ほぉ。物知りな事典蝶が知らないことを知っておるとは、なかなかやりおるわい』
いや、全然大したことないよ。
『して、その、げーむ、とはなんなのだ?』
「テレビにつないで遊ぶ、機械かな?」
『ほぉ……。てれび、とはなんだ?』
「…………」
これは説明が難しいぞ。
とりあえず、身振り手振り。ジャスチャーでテレビとゲームのことを伝えてみた。
『ふほぉ! 未来とは豊かなのだな。それにしても、我々が知らないことを知っているなんて、大助はすごいやつだ』
『本当です。私が知らないことを知っているなんて、大助さんはすごいです』
……まさか、テレビゲームで褒められるとは思わなかったな。
『どうだろうか? 天狗退治。やってもらえんだろうか?』
うーーん。
まぁ、やるだけやってみるか。
なんかちょっと面白そうだしね。
『この世界のわからないことは事典蝶に聞くがよい。
ヤカンヅルは小さなポーチを持って来た。
カードが入るくらいの小型のポーチ。人間なら腰にまくタイプだけどさ。今はタヌキだから背中に背負う感じになるかな。
ポーチを肩から斜めがけにして、その中に葉っぱ型のカードを入れた。
『では、天狗のいる山まで送ってしんぜよう。むん!』
すると、鏡から光が出て、僕と事典蝶はその鏡に吸い込まれた。
「うわぁあああああああ!」
『安心してください。転移の法ですから』
転移の法といえば、事典蝶が使っていた術だな。
一瞬で違う場所に移動する便利な技。
気がつくと、そこは山の中だった。
昼間なのにずいぶんと薄暗い。
杉の木がうっそうと生えていて、日の光が入らないんだ。
「こんな所に天狗がいるの?」
突然、不気味な人影が木々の隙間から見え隠れした。
そして、野太く低い声が聞こえて来た。
『こんな所にタヌキがなんの用だぁ〜〜?』
ひぃいいいいい!
なんか怖いかもしれない。
『大助さん! 天狗です』
よ、よし。
天狗退治の始まりだ!
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