第4話 天狗と初めての対決

『子ダヌキか……。今夜は美味そうなタヌキ汁が食えるかもしれんな』


 ひぃええええ……。

 僕を食べようっていうのか?


 突然、強風が吹き荒れる。

 僕は吹っ飛ばされてしまった。


「うわぁああ!!」


 そのまま草の茂みに落ちる。


 タヌキの体は小さいから、簡単に飛ばされちゃうな。


 茂みから出ると、杉の木にぶら下がった修験道の服を着た男が笑っていた。

 その肌は真っ赤。顔の鼻はグィンと長い。


 おおお、本当に天狗だ。

 ゲームや図鑑で見たことがあるよ。

 でも、リアルで見ると怖いな。本当に真っ赤な肌でさ。ザ・妖怪って感じだよ。


『ははは! 子ダヌキよ。焼いて食うても美味いかもしれんな。それ!』


 天狗が団扇を仰ぐと、それは炎を吹いた。

 僕の周りが大火事になる。


 うわぁ! 尻尾に火がついたーー!


「熱ッ! 熱ッ!」


『ハハハ! 逃げても無駄だぞ!』


 えええ!?

 強すぎませんか!?


『大助さん! 葉魔札を使ってください!』


 ああ、そうだった!

 背中のポーチから取り出してっと。


「どうやって使うの!?」


『頭に乗せるのです』


「うん! わかった!」


 僕は葉っぱ型のカードを頭に乗せた。


腹鼓はらづつみ打ってから、葉魔札に書かれている漢字を読んでください!』


 よし、んじゃいくぞ!


「石ッ!!」


しぃーーーーん。


「あれなにも起こらないよ?」


腹鼓はらづつみを打ってからですよ』


腹鼓はらづつみってなに?」


『タヌキの 腹鼓はらづつみです。ポンポコポンってお腹を両手で叩くんですよ』


「えええ……そんなことをしなくちゃいけないの?」


『化けダヌキは元来、そういう風に術を使うものなんです』


 天狗の炎攻撃が続く。


『ガハハハ! それぇ! 焼きダヌキにしてくれるわ!』


 尻尾の炎は更に激しさを増す。


「熱ちちちッ!」


『さぁ、早く大助さん! ポンポコポンと 腹鼓はらづつみを打ってから葉魔札に書いている文字を読むんです』


「う、うん! えっとお腹を叩いて──」


 すると、ポンポコポンとまるで太鼓でも叩いているみたいに軽快な音が鳴った。

 よぉし、あとはカードの名前だな。


「石ッ!!」


ドシン……!


 すると、尻尾についていた火が消えた。


 おお! 火が消えた。

 全身が石になったんだ!

 でも、なんだか体が重くて動かないぞ?

 足が全く上がらない。

 口も動かないから声も出ないし。

 もしかして、石だから動かないってこと!?

 これ、どうやって戦うのかな?


『それぇ! 子ダヌキを焼きダヌキにしてくれるわ!』


 しかし、天狗の炎攻撃は、石になった僕には効かなかった。


 おおおお!

 ちょっと熱いけど、体は燃えないぞ!

 石は強い!


『む! 石に化けよったか。ならば風じゃ。それぇ!』


 しかし、天狗の風攻撃でもビクともしない。ハハハ! こりゃいいや。石のカードって強いかもね!


 天狗は石になった僕を片手で持ち上げた。


『石では料理できんな。硬くて食えぬ』


 ……まいったな。攻撃は受けないけど、こっちから攻撃もできないんだよな。


『こんなもん、いらんわ!』


 天狗は僕を蹴り上げた。


ドン! 


 僕はサッカーボールみたいに空高く飛んでいった。


 ええええええええ!?


 そして、天狗の山から遠く離れた野原にドシーーンっと落下した。


 うーーむ。

 全然痛くはないんだけどさ。

 この石になってるの、どうやったら元に戻るんだろう?


『大助さーーん』


 ああ、辞典蝶が来てくれた。


『解除、って心で念じるんです。そしたら元に戻りますよ』


 わかった、やってみるよ。


 解除!


ドロン!


 僕は白い煙と共に元の姿に戻った。


「天狗、強すぎないかな?」


『ですね。とても強力な妖怪です。とても勝てそうにありませんでした。 妖奉行あやかしぶぎょうに応援を要求しましょう』


 すると、事典蝶はペラペラとページをめくって、その中に挟んでいる鏡を取り出した。


「それはなに?」


通信鏡つうしんきょうです。これで 妖奉行あやかしぶぎょうと連絡が取れるんです』


「へぇ……。携帯電話みたいなもんかな?」


『けいたいでんわってなんですか?』


「え? スマホだよ」


『すまほ??』


 そうか、ここは江戸時代だ。

 説明すると長いよね。


「……ごめん、余計なこと言ったね。今度説明するよ」


 事典蝶は鏡の周りを舞った。


『鏡よ鏡よ鏡さん。 妖奉行あやかしぶぎょうを呼んでたもれ〜〜』


 そんな呪文なんだ……。


 すると、鏡に大きな鼻が映った。


『私は 妖奉行あやかしぶぎょうぞ。私を呼ぶのは何者だ?』


 どうやら、顔が大きすぎて鼻しか入らないみたいだな。


『事典蝶です。こちらは大助さん』


『おお! 大助か! 調子はどうじゃ?』


「やっぱり僕じゃ勝てないよ」


『なんだ、負けてしまったのか?』


「だって、石は動けないもん。もっと他にも変身できるカードがあればいいんだけど」


『ふむ。では、葉魔札を集めよ。悪い妖怪を改心させることができれば、新しい葉魔札を一枚だけ贈呈してしんぜよう』


 え? ちょっと待ってよ。


「それって、この石の葉っぱカードで戦えってことでしょ? どうやって勝つんですか?」


『私は忙しくてな。どうしても無理なら戻って来てくれ。では失礼する』


 そういって鏡から消えてしまった。


「悪い妖怪っていわれてもなぁ……」


 この石のカードでどうやって勝てばいいんだろう?


 僕が葉っぱカードを見つめていると、草むらから声がした。


『ふふふ! それは葉魔札ピョンね! あたしがもらうピョン!』


 草むらからなにかが飛び出たかと思うと、それは僕のまえに着地した。


『ふふふ。さぁ、その葉魔札をよこすピョン』


 それは可愛い女の子。

 忍者みたいな服装なんだけど、ミニスカートで、和服のアイドルみたいな感じ。

 頭のてっぺんからは大きな耳が二つぴょこんと出ていた。


『大助さん、ウサギ娘です!』


「もしかして妖怪?」


『はい。この辺で、人間から金品を奪っている悪い妖怪です』


 ええええええええええ。

 こんなに可愛いのに?


『ふふふ。無理やりにでもその札を奪ってやるピョン』


 ああ、これは戦うパターンだな。


 石のカードでどこまでできるんだろう?


 うう、考えろぉおおおおおお。

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