第5話 妖怪 ウサギ娘

『さぁ、その葉魔札を渡すピョン!』


「嫌だ。これは大切なアイテムなんだ」


『タヌキのくせに生意気だピョン! 泣かせてやるピョン!!』


 ウサギ娘は空高くジャンプした。


 た、高い……。

 十メートルは飛んでいるよ。


『大助さん、気をつけてください。ウサギ娘の能力は、あの高く飛び上がる跳躍力にあります。落下の速度を使って攻撃してくるはずです』


「そういうことか!」


 案の定、ウサギ娘は上空から蹴りを放って来た。


 わわわ!

 このままじゃぶつかっちゃうよ!


 僕は走った。


ドカーーーーン!


 ウサギ娘の蹴りは大地をえぐる。

 風呂場の浴槽ほどの穴を開けた。


「す、すごい破壊力……」


『大助さん走って! あの蹴りが当たると全身の骨が砕けてしまいますよ!』


 えええええ!

 そ、それって死ぬってことですかぁ?


『ふふふ。上手くかわしたピョンね。次はそうはいかないピョン!』


 また跳んだ!


 再び急落下!


ドカーーーーン!


「ヒィーー!」


 なんとかかわせたけど、次は当たるかもしれない!


『大助さん、逃げましょう! 今はとても敵いませんよ!』


 いや、待てよ。


「僕には葉っぱカードがあったんだ!」


『葉っぱかー……、ああ、葉魔札のことですか。でも、石になったら動けませんよ。どうやって攻撃するのですか?』


「ふふふ。攻撃なんてしなくていいんだ」


『ど、どういうことですか??』


 ウサギ娘は再び空に跳び上がった。


『ぬふふ。次は当てるピョンよ! 覚悟しなさいピョン!』


 僕は背中のポーチからカードを取り出した。


 葉っぱカードを頭に乗せて、お腹を叩いて 腹鼓はらづつみだ!


ポンポコポン♪


 それからカードの漢字を読み上げる。


「石ッ!!」


 すると僕の体は石になった。


あたしの攻撃を喰らうピョン! その葉魔札はもらったピョーーン!』


 ウサギ娘の蹴りが、僕の体に命中する。通常の体だったら骨が折れちゃう攻撃でもさ。石の体なら──。


ガン!!


 ほらね。

 全然痛くないよ!


『あぎゃあ!!』


 そればかりか、蹴りを放ったウサギ娘の脚がゴキッ! って音を立てたかも。


『痛つつつつつつつつつピョン!』


 ウサギ娘は脚を抑えてゴロゴロと転がった。


『なるほど! 石になれば防御ができたんですね! その上で、攻撃も兼ねている! すごいです大助さん。私では思いつかない作戦でしたよ!』


「ふふふ。僕はゲームが好きだからね。その感覚で戦ったんだ」


『へぇ……。げーむはわかりませんが、流石は大助さんです!』


 よし、それじゃウサギ娘はどうかな?


『あううう。ごめんなさいだピョン。降参だピョン』


 彼女は大粒の涙をこぼして泣いていた。


「反省しているなら許してあげようかな。もう悪いことはしない?』


『うぇええん。もうしないピョン!』


「よし、うんじゃ。許してあげるよ」


 その瞬間。僕の目の前に光る葉っぱカードが出現した。


「なになに!? どゆこと!?」


邪妖気じゃようきが絶たれたので 妖奉行あやかしぶぎょうからの贈呈が始まりました』


「うわ! 新しいカードだ!」


『ウサギ娘を改心させたから葉魔札……葉っぱかーどが出現したのです』


 妖怪を倒してアイテムをゲットするなんてゲームみたいだな。

 ふふふ。さて、この葉っぱカードはどんな効果があるんだろう?

 そこには、


【跳ねる】


 と、書いていた。


「これなんて読むんだろう? 習っていない漢字だよ」


『これは【ねる】と読みます。大地を蹴って空に跳ぶことですね』


「おお! すごいな。じゃあ、僕もウサギ娘みたいにジャンプできるのかな?」


『ええ、空高く跳び上がれますよ』


 やった! 

 これは強力なカードを手に入れてしまったぞ。使うのが楽しみだな。


『うう。おまえ、タヌキのくせにめちゃくちゃ強いピョン。名前を教えて欲しいピョン』


「僕は大助」


『カッコイイ名前だピョン。あたしはウサギ娘の耳子だピョン』


「じゃあ、耳子。もう悪いことはしちゃダメだよ」


『わかったピョン。耳子は悪いことはしないピョン』


 よし。


「じゃあ、次に行こうか、事典蝶」


『どこに行くんだピョン?』


「悪い妖怪を倒しにね」


『おお! それは良いことだピョン』


「僕の目的は悪い天狗を倒すことなんだ」


『えええええええ!? て、て、天狗ぅうう!?』


「あれ? 知ってるの?」


『し、知ってるもなにも。耳子がこの野原にいるのは、元々住んでいた山を天狗に追い出されたからだピョン』


「ああ、そんなことがあったのか。住処を追い出されたのは辛いよね」


『あんなに強い妖怪はいないピョン』


「うん。僕も投げ飛ばされてこの原っぱに来たんだよ」


『ははは。あたしたちは似た者同士だピョン』


「ふふふ。かもね」


あたしも天狗には恨みがあるんだピョン。大助の天狗退治。一緒に行ったらダメピョンか?』


「え? 一緒に??」


『耳子は料理が得意なんだピョン。一緒に旅をするなら必ずお役に立ってみせるピョン』


 へぇ……。

 耳子の料理か。


「よし。じゃあ一緒に天狗を退治しよう!」


『あはは! ありがとうだピョン! 大助はいい奴だピョン!』


 こうして、僕は事典蝶とウサギ娘の耳子を連れて旅をすることにしたんだ。葉っぱカードをたくさん集めて、天狗を倒してやるぞ。


 日が暮れて来たので、川辺の近くで寝ることにした。

 耳子は焚き火をおこしてから、ウサギ耳をピコピコと傾ける。


『ふふふ。お米を炊くから待っててピョン』


 そう言うと、耳の中から鍋とお米が出て来た。


「すごい所に入れてるんだね」


『ふふふ。ウサギ娘は耳の中に色々と収納することができるんだピョン』


 鍋でお米を炊くと良い匂いがした。

 耳子の手料理か。楽しみだな。

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