第6話 耳子の手料理

 ウサギ娘の耳子は鍋で米を炊いていた。その間に川に入って魚をとる。器用に脚を使って、魚だけを蹴り上げる。


『ほれほれ! ドンドン魚を獲るんだピョン!』


 すると、岸の方に魚が上がる。


「うわぁ、すごい。これはなんて魚だろう?」


 この質問には事典蝶が答えてくれる。


『鮎ですね』


 ページがめくられると鮎の絵が載っていた。

 説明文が書かれているけど難しい漢字だから読めないな。


「鮎なんて魚。僕、初めて見たかも」


『塩焼きにするととても美味しい、と事典には書かれていますね』


 耳子は細い枝を鮎の口から突き刺した。そして、耳の中から小さな瓢箪を取り出す。どうやら、その中には塩が入っているらしい。


『ふふふ。こうやって鮎に塩を振りかけて焼くんだピョン』


 鮎を焚き火の横に刺して焼く。

 魚の焼けた香ばしい匂いが鼻の中に広がった。


 うう、良い匂いだな。


 すると鍋のフタがグツグツパカパカと動き始めた。


『もうそろそろだピョン』


 鍋を開けると真っ白いお米。同時にフワァって白い湯気が上った。

 ご飯の良い匂い!


『ふふふ。まだ待つピョン。手に水と塩を付けてっと』


 耳子は炊き立ての米を手に乗せて握り始めた。


『熱っ熱っ! 熱いピョン!』


 もしかして?


 彼女は笹の葉を皿に見立てて、その上におにぎりを置いてくれた。


 やっぱりだ! 

 炊き立てご飯のおにぎり!


『今日はおにぎりと鮎の塩焼きだピョン』


 うわぁ、美味しそう!


『召し上がれだピョン』


「うん! いただきます!」


 おにぎりはまだ熱かった。


「熱、熱!」


『ふふふ。火傷しないように気をつけて食べるピョン』


「ハフハフ! フーフー!」


 冷ましながらね。

 口に入れると、塩気がする。そこにお米の甘みがブワァって広がるんだ。


「美味しい!!」


 おにぎりって美味しいよね。

 んじゃ、少しばかし口の中にお米が残っているうちに……。


 焼きたての鮎をパクリ。


 モグモグ。


「うん! 美味しい!! 最高!」


『フフフ。良かったピョン』


『良かったですね。大助さん』


 あ、そういえば、事典蝶は何を食べるんだろう?


「君はおにぎり食べないの?」


『ははは。私は一応、蝶ですからね』


『事典蝶にはこれを用意したピョン』


 耳子は耳の中から瓢箪を一つ取り出した。


『蜂蜜を川の流水で溶かした飲み物だピョン』


『耳子さん、ありがとうございます』


 事典蝶はストローみたいな口を瓢箪の中に入れてチューチューと吸っていた。


『とっても美味しいです』


『えへへ。良かったピョン。あ、大助、口の横に米粒がついてるピョンよ』


「え? どこどこ?」


『あははは! そっちじゃないピョン。反対方向だピョン』


「あ、本当だ。ん? 耳子のほっぺにも米粒が付いてるよ」


『え? どこどこ? どこだピョン?』


「あはは! 逆だよ。そっちじゃないって」


『えへへ。お腹が空いてたから夢中で食べちゃったピョン』


「あははは!」


 楽しい夕食だな。

 僕たちは笑いながら美味しい料理を食べた。

 僕はおにぎりを三個も食べちゃったよ。


 お腹が一杯になると眠くなる。


『大助はフカフカだピョン』


 耳子は僕の尻尾を枕にして寝はじめた。

 事典蝶は僕の背中に寄り添って寝ている。


『大助さんの体はモフモフです』


 まぁ、タヌキだからね。


 フワァ……僕も眠いよ。


「おやすみ。耳子、辞典蝶」


 僕たちは眠った。

 

 次の日。


 空は快晴。


 朝日が眩しいね。


 グッスリ寝たから元気一杯だよ。

 事典蝶は自分の体をめくって地図を出した。


『この地図は 妖奉行あやかしぶぎょうが使っている物です』


「へぇ」


 所々、ドクロマークが記されているな。


『このガイコツの印が、悪い妖怪が潜んでいる場所です』


「僕たちはどの辺にいるのかな?」


『だいたいここですね』


 事典蝶はストローみたいな口で僕たちのいる場所を差した。

 そこにはドクロマークがしっかりと記されていた。

 

「え!? もうここにいるじゃん!」


 そういえば耳子はどこに行ったんだ?


『だ、大助さん! あれを見てください』


 事典蝶の羽は川を差す。

 すると、川の真ん中で白い手がバチャバチャと水をかいていた。その手の主は耳子だった。顔を出して助けを求める。


『大助ぇえええ! ゴボゴボ! ピョン!!』


 耳子が溺れてるんだ!


「助けなくちゃ!」


 すると、耳子の顔を緑の手が掴んで水の中に引き込んだ。


「な、なんだあの手!?」


 緑色で魚みたいな鱗があったぞ!?


「もしかして、悪い妖怪!?」


『ええ! 正体はわかりません。気をつけてください!』


 うう……! で、でも、どうしよう?


「事典蝶……。僕、泳げないんだ。あんな遠くに行けないよ」


『こ、困りましたね。私も水の中には入れませんし……』


 そうなると、彼女を助けられるのは僕だけか。


 ビート板があってもあんなに遠くには泳げないぞ。

 考えろ〜〜。

 仲間を助けるんだ!


 えーと、えーと。


「そうだ! 葉っぱカード!」


 僕はポーチの中から二枚のカードを取り出した。


 【石】と【跳ねる】だ。

 このカードを利用して……。


『ああ、そんな葉っぱかーどじゃ泳げませんよ! 私が植物のつるを探して来ますので待っていてください!』


「いや! 蔓じゃ、悪い妖怪は倒せないよ!」


『で、でも耳子さんが!』


「耳子は僕が助ける!」


『ど、どうやって!? 泳ぐ葉っぱかーどはないのですよ!?』


「いや、泳がなくても『行く』ことはできるよ!」


『ふ、不可能です!』


 いや、これならいけるよ。

 頭にカードを乗っけて。

 お腹を叩く。


ポンポコポン!


 それからカードの名前だ!

 えーーと、この漢字の読み方はぁ、


ねる!」


ピョーーーーーーーン!


 うわぁあああ!!

 めちゃくちゃ高く飛んじゃったよぉ!


『そうか! ウサギ娘の跳躍力を使ったんですね!! 流石です大助さん!』


 高さと距離は十分だ!

 このまま川の真ん中に行く!


「耳子ぉ! 今、助けるからねぇええ!!」

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