第7話 川に住む妖怪

 僕は川の真ん中に飛び込んだ。


ドボォオオオオオオオン!


 耳子はどこだ!?


 すると、川の底の方に耳子が見えた。


『ブクブク! らいふけぇーー! らすへて、ひょん!!』


 【大助、助けてピョン】って言ってるんだ。

 早く引き上げないと死んじゃうよ!

 でも、その胴体には緑色の【何か】が抱きついていた。


 亀!? それともトカゲ!?

 全身が緑で魚みたいな鱗がついてる。

 顔は人間みたいだけど、口には鳥みたいなクチバシが付いてるぞ! 背中に背負っているのは亀の甲羅かな?


 この妖怪、見たことがあるぞ。昔話なんかで有名な妖怪──。


 頭の天辺には丸い皿が乗っていた。


 やっぱり!


  河童かっぱだ!!


 耳子は河童に引きずられていたのか!


 ああ、僕が泳げたらなぁ。

 夏休みの課題。

 僕は学校のプールで泳げなかったんだ。勢い勇んで川の中に入っちゃったけど、泳げないと河童と戦えない。


 どうする!?

 どうやって水の中で戦う!?


 僕が迷っていると、河童が僕の尻尾を掴んだ。


『ケケケ。美味そうなタヌ公だな。食ってやるからこっちさ来い』


「うわぁあ!!」


 水の底に引きずり込まれる!!


 手足をバタつかせても沈むだけだ。

 

 ああ、もっとクロールの練習をしておけば良かった……。


 ま、待てよ!?

 そうか、泳がなくてもいいんだ!


 葉っぱカードを頭に乗せて。

 

 ポンポコポン、と 腹鼓はらづつみ


 それからカードの漢字を読む!


いひ!」


 ちょっと、水の中だからごもっちゃったけども、どうだ!?


ズシィーーーーーーーーーーーン!


 よし、重くなった! 成功だ!


『ケケケ。今夜は子ダヌキの肉が食えるぞって……ん? な、なんだ!? 急の重いぞ!? どういうことズラ!?』


「ぼふは、いひになっらんら」


 僕は、石になったんだ、って言ったの。


 僕と河童は川の底まで沈む。

 すると、河童は僕の下敷きになった。


ドシィーーーーーーーーーーーン!


『ぎゃああああああああッ!』


 さぁ、降参するか?


『重いぃいいいいいいい!! どいてくれぇえええええ!!』


「ほうさんふるまへほかなひ』


 降参するまでどかないって言ったの。


『ぐ、ぐるしい……。わ、わかった。わかったズラ。オイラの負けズラ』


 よし、勝ったぞ!


 あ、でも、僕の息も続かないかも──。


 僕はそのまま気を失っちゃった。




「あれ?」


 青空が見える。


「ここどこ? もしかして天国??」


『良かった大助さん!』


「事典蝶……。君が助けてくれたの?」


『まさか。私は泳げませんよ』


「じゃあ、どうやって?」


『ふふふ。あなたが悪い河童を改心させたのです』


 え?


 僕の横には河童がいて、申し訳なさそうに頭をかいていた。


『へへへ。おめぇ強いズラね』


 河童の横には耳子が寝ていた。


「耳子は大丈夫なの?」


『気を失っているだけズラ。おめぇと一緒に陸に上げてやったズラよ』


 そっか。


「ありがとう。助かったよ」


『礼を言うのはこっちズラ。あのまま乗っかられてたらぺちゃんこになってたズラよ』


「ははは。そうかもね」


 僕の目の前に光るカードが出現する。

 

「おお! 新しい葉っぱカードだ!」


 河童を改心させたから 妖奉行あやかしぶぎょうがプレゼントしてくれる。


 カードには【水】と書かれていた。


 河童は水の中に住んでいるから水のカードか。


「どんな風に使えるのかな?」


『私の事典にはいつでも水を出すことができる、と書かれていますね』


「おお!」


 ふふふ。使うのが楽しみだな。


『あ……。あれ? あたし……。どうしてこんな所に寝てるピョン?』


「助かって良かったね」


『うわぁあ! 大助が助けてくれたピョンか!?』


「まぁ……。河童には勝ったよ」


『すごいピョン! 流石は大助だピョン! 助けてくれてありがとうだピョン!』


「ははは……」


 まぁ、僕も溺れちゃったけどね。


『ウサギ娘。おまえにも悪かったズラよ。これをやるから許してくれズラ』


 それは小さな石だった。

 日の光を浴びてキラキラと輝く。

 そんなのが三個あって、大きさはバラバラだった。


『うわぁあ! 綺麗な石ピョン!』


 女の子って綺麗な物が好きだよね。


『ケヘヘ。川底にあったんだ。オラの宝物なんだけどよ。やるよ。これで許してくれるかズラ?』


『仕方ないピョンね。許してやるピョン』


 耳子はその三個の石を太陽に照らしたりしていた。


『あは! ねぇねぇ大助。この石の大きさって耳子たちみたいだピョン』


「どういうこと?」


『この背が大きいのが耳子で、その次が大助だピョン。一番小さいのが事典蝶』


「ああ、なるほどね。たしかに見えるかも」


『ふふふ。宝物ができたんだピョン』


 耳子はそれを大切そうに耳の穴にしまった。収納した後もニコニコと笑う。よっぽど嬉しい物だったんだな。


 僕たちは河童と別れることにした。

 もちろん、もうイタズラはしないという約束だ。

 

「じゃあ、事典蝶の地図を頼りにドクロマークの所に行こうか。ここからだと岩山の絵が近いのかな?」


『そうですね。では、 鷹見山たかみざんに向かいましょう』


「うん!」


 僕たちは歩き始めた。


 昔の日本は車がないから空気が美味しいかもしれないな。

 周囲は自然豊かで眺めがいい。途中、紫色のアジサイを見つけてさ。綺麗だったな。

 他にも大きな花が咲いているんだけど、名前がわからない。


百合ゆりですね』


 そう言って、事典蝶は百合の絵が描かれたページを見せてくれた。


「へぇ……。やっぱり事典蝶はなんでも知っているんだね」


『でも、【げーむ】と【あにめ】はわかりませんよ。あと、【けいたいでんわ】も知りませんね。私の事典にも載っていないことです』


「ははは。だって、ここは昔の日本だもん。わかるわけないよ」


「大助さんは物知りですごいですよ」


「ははは。別にすごくないって」


 耳子はあちこち走り回って食材をゲットしていた。


『わは! ここにも美味しいキノコが生えているぴょん。大量大量♪』


 そう言って、キノコを耳の中に収納してしまう。

 あの耳ってどれくらいの物が入るんだろう?


『ねぇ、大助。もうお腹が減ったぴょん。お昼にしようだぴょん』


「うん。そうしよう」


『えへへ。じゃあ、さっき採ったキノコを使ってキノコ汁を作るんだピョン』


 耳子の手作り料理にワクワクが止まらない。

 僕もちょっとだけ手伝った。川の方まで行って鍋に水を汲んだんだ。

 採りたて新鮮なキノコをふんだんに使った、耳子特製のキノコ汁。

 案の定、すさまじく美味しい。あと、おにぎりも出たよ。おにぎりとキノコ汁ってすごく合うんだ。


 綺麗な景色に美味しい食事。

 もうピクニック気分かもね。

 楽しいや。ふふふ。


 そうこうしているうちに岩山に到着。

 さぁ、どんな悪い妖怪がいるんだ?


『え!? ちょっと、わぁああああ!! 助けてください大助さーーん!!』


 事典蝶が黒い物体に連れ去られて空高く舞う。


『大助! あいつ見たことあるピョン! 妖怪、鷹太郎だピョン!!』


 顔は鷹。体は人間の妖怪だった。

 背中に大きな羽を広げて優雅に空を飛ぶ。


 事典蝶を助けなくちゃ!

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