第16話 小さなタヌキの天狗退治

『ええい! これでも喰らえ! 天狗火炎の術!』


 天狗は団扇から炎を発生させた。


 うわっと。危ない。

 ギリギリ避けれたぞ。


 だったら、この葉っぱカードだ。


ポンポコポン!


「水!」


 僕は口の中からプシューー! って水を吐いた。

 消防車の消火ホースみたいな感じ。


 僕の水は天狗の火炎の術を消火する。


『たぁーーーーーー! ウサギ落下脚だピョン!』


 お! 耳子の空中からの飛び蹴りだ。

 天狗は火炎の術を使っているから逃げ遅れた。


ガン!

 

 よし、命中!


『ぐぬう!』


『戦うのは大助だけじゃないピョンよ!』


『お、おまえは弱虫なウサギ娘』


『弱虫じゃないピョン!』


わしに山を追い出された泣き虫ウサギ妖怪がぁああああ!!』


『耳子は、もう泣かないんだピョン! 大助と一緒に戦うんだピョン!』


 だったら僕も戦うぞ!


ポンポコポンで、ファイヤータヌキ! からの、


「火の玉攻撃だ!」


 天狗は耳子に注意が向いていた。

 だから、気が付くのが遅れる。


 よし、命中だ!


ボボボン!


『ぐぬぅうう! 天狗水流の術!』


 水を吐いて消火したな。


『たぁーーーーーー! ウサギ落下脚だピョン!』


ガンッ!!


『ぬぐぅうううううううッ!』


「そろそろ降参したらどうだ!?」


『調子に乗るなぁああああああああッ!!』


 天狗の叫びとともに、辺り一面に雷が落っこちた。


バリバリバリィイイイイイイイイイン!!


 す、すごいパワーだ。

 まだまだやる気満々か。

 もっと強烈なダメージを与えないと倒せない。


『天狗雷落としの術!!』


 わわ!

 雷攻撃か!


ポンポコポン!


「石!」


バリバリバリィイイイ!!


 ぬががががががががが!


「し、し、しびれる……」


 石になってもビリビリくるぅうう!


 で、でも、なんとかギリギリ助かった!


『大助を助けるピョン! ほぁああああ! ウサギ落下脚ぅう!』


『しゃらくさい! 天狗雷落としの術!』


バリバリバリィイイイイ!!


『きゃぁああああ!!』


 ああ、耳子がやられた!


『こざかしいタヌキめが! 蹴り飛ばしてくれるわ!』


 しまった!

 石のままだから動けない!!


『飛んでけ!!』



ドガッ!!



 うわぁああああああああああああッ!


 蹴り飛ばされたぁああ!!


 あの時と一緒だぁああああ!!


 初めて天狗と戦った時。僕は遠くに飛ばされたんだ。


 今はあの時と全く一緒だった。

 いや、なんならこの前よりも高く飛んでいるかもしれない……。


 終わったぁああ……。


 これじゃあ、みんなを助けられない。

 

 天狗強過ぎだよぉ……。


 ああ、やっぱり僕はなにをやってもダメだったのか。

 夏休み中にさ。二十五メートルのプールを泳ぐことができなかった。

 僕に泳ぐ才能なんてなかったんだ。


 耳子は雷に撃たれて大ダメージだ。

 友達なのに……。大切な仲間なのに……。

 助けることができなかった。

 それもこれも、全部僕が弱いからだ。


 みんなやられちゃう。


 完全に負け。


 僕の負けだ。


「うううう……。うううううううううう!」


 目から涙がポロポロ出てきた。


 くやしい。


 でも、僕じゃダメだったんだ。

 しょせんは小さなタヌキ。

 タヌキじゃ天狗に勝てなかったんだよ。

 小さなタヌキが、あんなに強い天狗に勝てるわけないじゃないか。

 化けタヌキに才能なんてないんだよ!

 もっと強い妖怪になれてたら勝ててたのにさぁああああ!


「ああああ、ダメだぁあああああああ!!」


 僕がくやしくてボロボロと泣いている時。


『──さん。──さん……』


 かすかな声が聞こえてくる。


 風の音?


 いや、それにしてはどこかで聞いたことがあるような?


 それは遠く、何十メートルも離れている。


 小さな点。


『大助さぁああああん!! 今助けに行きますからねぇえええええええ!!』


 それは事典蝶だった。

 空にぶっ飛ばされた僕を必死になって追いかけてくれているんだ。

 目には涙を一杯ためて、必死になって、僕を助けようと追っかけてきてくれている。


「事典蝶……。事典蝶ぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 気づけば僕も叫んでいた。


『大助さぁあああああああん!!』


 ああ、そうだよねぇ!

 僕たちは友達だもん!

 妖怪退治の旅をした仲間だもんねぇえええ!


 そうだ!

 僕たちは大切な仲間なんだ!!


 僕が諦めたら耳子がどうなるかわからない!


 天狗にまた泣かされるかもしれない。


 そんなことさせちゃダメだ。


 耳子を助けなくちゃ。


 そして、村人を。お雪さんを助けなくちゃならないんだ!


 こんな小さな化けタヌキだってさ。


 諦めちゃダメなんだ!


 考えろぉおおおおおお!


 考えるんだ……!


 僕はゲームが大好きだ。

 ゲーム感覚で妖怪を倒せるはずだ。

 今までだってそうさ。

 どんなに強い妖怪だってさ。

 工夫とアイデアで倒してきたじゃないか!


 僕ならやれる!




考 え る ん だ !


 


 今は空高く飛ばされている……初めて天狗と戦って負けた時みたいに……。

 でも、今の飛ばされ方は圧倒的に、この前より高い。


 高い。


 この高さ。


 ………………そうか!


 初めて戦った時と今とではまったく状況が違うんだ。


 僕には葉っぱカードがあるんだった!


 ふふふ。この高さを利用すればいいんだよ!


 まずは石を解除して、このカードだ。


ポンポコポン!


「飛翔!」


 尻尾をプロペラみたいにぶん回して空を飛ぶ。

 もっと高く飛んでやるぞ!


ギュゥウウウウウウウウウウウウウン!


 うわぁ、もう地上から何百メートルだろ?

 東京タワーが三百三十三メートルだったよね。

 それ以上に高いかも!?

 とにかく、もう、めちゃくちゃに高い!

 よぉし、もうここからは落下するぞ。

 それ!


ギュゥウウウウウウウウウウウウン!


 うぉ! 速い!


ギュゥウウウウウウウウウウウウン!


 落下先は天狗のいる古寺だ。

 尻尾のプロペラで方向を調整してぇ……。


 落下の途中で事典蝶とすれ違う。


『だ、大助さん……!?』


「ありがとう! 勇気をもらったよ! 耳子を助けに行ってくる!!」


 今度はこのカードだ!


ポンポコポン!


「石!」


 からの、二枚目!


ポンポコポン!


「炎!」


 これで火をまとった石になった。

 名付けて、ファイヤータヌキ隕石だ!


「いっくぞぉおおおおおおお!!」


ゴォオオオオオオオオオオオ!!


 すごい音だ。

 本当に宇宙から落っこちてる隕石みたい。


「僕の名前は『大助』だ! 父さんと母さんが、『勢の人をけるように』って名付けてくれた名前なんだ!」


 僕が耳子を!


 村人を助けるんだ!!


 天狗めがけてぇえ──!



「いっけぇええええええええええ!!」



 天狗が僕に気がついた時には遅かった。


『な、なんだ……あれは──!?』


 避ける時間なんてない。

 それほどまでに速いんだ。空から僕の姿が見えた時には天狗の体にめり込んでいた。


ドゴォオオオオオオオオオオオオオオッ!!





『ぐぉおおおおッ!!』




 

 僕の攻撃は大爆発を起こす大きな威力だった。

 古寺を破壊して、大きなクレーターを作った。

 火炎将軍を倒した時なんかより、もっと大きな穴だった。


 その凹んだ穴の真ん中には天狗がいて、ピクピクと痙攣しながら白目をむいていた。

 

 完全に気絶してるぞ。


 やった!


 僕、やったんだ!


 天狗をやっつけた!!


 瞬間、空が明るく輝いて大きな手がニューーっと出てきた。

 奈良の大仏様みたいに大きな手だよ!?


 それは気絶している天狗を指で掴んで持ち上げた。


『大助よ。よくやってくれた』


 こ、この声は!?


妖奉行あやかしぶぎょう!?」


『うむ。私の仕事をよくぞ代わりに達成してくれた! 礼をいう! ありがとう!!』


  妖奉行あやかしぶぎょうは大きな檻を取り出して、その中に天狗をポイっと入れてしまう。

 まるで、セミを捕ってそれを虫カゴに入れるみたいな感じだ。


 これで全てが終わったんだな。


「タヌキちゃん!」


 あ、お雪さんだ。


 彼女は僕の顔を見るなり、こっちに走ってきて、ギュウっと抱きしめた。


「タヌキちゃん! 怪我はない!? 大丈夫!?」


「うん」


 ふふふ。お雪さんが助かって良かった。 




 

 

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