第17話 ハッピーエンド
「タヌキちゃん。みんなを助けてくれてありがとう」
お雪さんは僕をギュウっと抱きしめた。
彼女はお線香の香りがして、柔らかくて、なんだか落ち着く。
おっと、落ち着いている場合じゃなかった。
「耳子を助けてあげないと。あと火炎将軍とかさ」
二人は天狗の雷に撃たれたんだよね。
突然の違和感に目を疑う。
お雪さんの後ろに蛇のような細い何かが、うねうねと動いて迫っているのだ。
なんだ、あれ……!?
蛇……じゃない!
手だ!
真っ赤な手!
長い手がお雪さんの後ろにいる!
「危ない!」
僕の声は遅かった。
その手はお雪さんを掴んで引っ張った。
「きゃああッ!!」
その先は
あの赤い手は天狗が伸ばした手だったのか!
『おおっと……。動くんじゃないぞタヌキ……』
まだ動けたのか……しぶといな。
天狗は、体中がボロボロで傷だらけ。震える腕でお雪さんの首を締め上げた。
「やめろーーーー!」
『動くなと言っているだろうがタヌキよ! 天狗の雷ぃいいい!!』
バリバリバリィイイイイン!!
「うわぁあああああああッ!!」
モロに喰らっちゃったよ……。
うぐぅううう。
か、体が痺れて焼けるようだ……。
僕の全身からプスプスと煙り立ち上る。
『ああ! 大助さん!!』
『タヌキちゃん!』
ダメだ。
油断した……。まさか、檻の隙間から攻撃してくるなんて……。
『タヌキよ。よくもやってくれたな。
考えろぉ。
考えるんだ。
僕がお雪さんを助けるんだぞ。
僕の体は雷攻撃でボロボロだ……。
天狗の体を吹っ飛ばしてお雪さんから離すことができれば、あとは
天狗を吹っ飛ばす方法……。
そうだ。このカードを天狗に気づかれないようにこっそり頭に乗せて……。
『おい!
『むぅうう……』
『早よう出さんか! さもなくばこの娘の首を──』
ビチャァアッ!!
『な、なんだ!? 水!? 水だと?』
これは僕が口から出した水だ。
水の葉っぱカードを使った水攻撃。
でも、天狗の体を濡らしただけで吹っ飛ばすほどの効果はなかった。
ああ、ダメか。
もう力が出ない……。
『グハハハ! なんて弱々しい攻撃だ。タヌキめ、最後の力で攻撃してきたか! しかし、残念だったな。
「はぁ……はぁ……。ふざけるなよな。おまえだって僕に攻撃できないだろ。檻の中からじゃ、もう攻撃なんてできないはずだ」
『ふん!
バリバリバリィイイイイイイイイイイ!!
しかし、雷は天狗の体を感電させた。
『ぎゃあああああああああああああッ!!』
よし。
成功だ。
天狗は真っ黒焦げになって倒れる。
自分が雷を喰らって意味がわからない。
『な、な、なぜ……だ? なぜ雷が
「はぁ……はぁ……。教えてやろう。さっきの水攻撃は狙ってやっていたんだよ」
『ど、どういう……意味だ?』
「おまえを吹っ飛ばすために水攻撃をしたんじゃない。濡らすためにやったんだ」
『????』
理科の授業で習ったんだよね。
雷の正体は電気だって。
だからな。
「雷は電気なんだよ。水は電気をよく通すんだ。はじめに水で濡らしたのはおまえを雷の力で感電させるためだったのさ」
『そ、そんな……。で、では、わざと雷を撃たせるように仕向けたのか……』
「そういうことさ」
『グフ……』
天狗は完全に気絶する。
ふぅ。
今度こそ終わったな。
『あっぱれぇええええ!! 流石は大助じゃ! 見事、天狗を退治しおったぞぉおおお! 大義であったぁああ!!』
村のみんなは僕の周囲に集まった。
「すげぇえタヌキだぜ!」
「やりやがったな!!」
「ありがとうタヌキよ!」
「助かったぜタヌキ!!」
「すごいタヌキだわ!」
「タヌキちゃん! ありがとう!」
ははは……。
褒めてくれるのは嬉しいんだけどさ。
雷の火傷がひどくて僕も立てそうにないや──。
僕は気を失っちゃった。
どれくらい寝ていたかはわからない。
気がつくと、天井が見えた。
僕はフカフカの布団で寝ていた。
「あれ? ここどこだろう?」
「良かった。気がついたのね。タヌキちゃん」
「お雪さん……」
「3人とも天狗にやられて大怪我だったから、私が傷の手当てをしていたのよ」
部屋には布団が三つ並んでいて、僕、耳子、火炎将軍、がそれぞれ手当てを受けていた。
「えーーと、事典蝶は?」
「ああ、蝶々ちゃんなら、怪我を治す方法を探してくるとかで出かけたわ」
へぇ……。怪我を治す方法……?
と、思うや否や、部屋の天井に丸い円陣が現れた。
それは淡い光りを発していて、何度か見覚えがある。
転移の法だ……。
そこから出て来たのは事典蝶だった。
『あ、大助さん! 良かった。起きたのですね!』
「うん。心配かけちゃったね」
『天狗の雷を受けてしまいましたからね。でも、気がついて良かったです。今、怪我を治してあげますからね』
治す??
事典蝶がページをめくると、そこから緑色の袋が現れる。それは笹の葉で作られた袋で、中には緑色のお餅が入っていた。
「美味しそう。いい匂いだね」
『薬草餅です。ヨモギやオオバコ、カンゾウにショウガなどなど、色々な薬草を組み合わせた薬用お餅です。のっぺらばばあに作ってもらったのですよ』
転移の法で妖怪茶屋に行っていたのか。
『それを食べればたちまち傷が治ってしまいますよ。どうぞ、食べてください。耳子さんと火炎将軍の分もありますから』
「うん。じゃあ、いただきます」
ガブ……。
うん。甘くて美味しい。
ヨモギ餅の味をメインにして、様々な薬草の味がするね。
「おお! 傷が……。消えていく」
『さぁ、耳子さんと火炎将軍にも食べてもらいましょうか!』
と、いうことで、僕たちの傷はたった一日で治ってしまったのだった。
次の日。
村人たちは僕の見送りに来てくれた。
「タヌキよ。バカにして悪かったな。まさか、おまえさんが天狗を倒すとは思わなかったんだ」
「おまえはすごいタヌキだよ。あんなに強い天狗を倒しちまったんだからな」
「ありがとうね。タヌキさん。あんたのおかげでこの村は助かったよ」
「いつでも遊びに来てくれな。みんな歓迎するからな」
火炎将軍は村に残って新しいお寺を作るらしい。
古寺は僕が破壊しちゃったからな。
「素敵なお寺が完成するといいね」
『うむ。村人も手伝ってくれるらしい』
「仲良くするんだよ」
『うむ。ありがとう』
「ふふふ」
事典蝶は転移陣を描いた。
『さぁ、大助さん。
お雪さんは僕を抱きしめた。
「タヌキちゃん。本当にありがとうね。達者でね」
「お雪さんも元気でね」
「いつでも遊びに来たらいいからね」
「……………」
僕は未来の世界に帰るつもりだ。
お雪さんに会えるかはわからない。
僕たちは村人に温かく見送られて、転移陣に入って消えた。
みんな、元気でね。
瞬間移動をした場所は
そこは地下室で、
見張り番の
『お主……。本当に天狗を倒したのか? 屋敷ではその話しで持ちきりだぞ』
「あ、うん。なんとか」
『信じられん。こんな小さな化けダヌキが!? お主はすごいやつだな!』
「ははは……。じゃあ、お邪魔します」
『いやぁ、本当にすごい! まさか天狗を倒すとは……。あ、こら! 尻尾に泥がついておる! 拭き取って上がらんか!』
「あ、はい。ごめんなさい」
『
「みんなって?」
『行けばわかるよ』
僕たちは
すると、そこには妖怪たちの群れができていた。
なんでこんなに集まっているんだ??
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