第10話 天狗の次に強い妖怪

 村長は古寺に住む妖怪のことを話し始めた。


「そいつは武者のような格好でな。全身がガイコツなんじゃ。真っ赤な炎を身にまとっていて、その炎であらゆる物を焼いてしまうのじゃ」


 それは怖いな。


 事典蝶はペラペラとページをめくる。


『炎を操る、ガイコツの鎧武者……。あ、ありましたよ。火炎将軍ですね!』


「なんか、すごく強そうな名前だね」


『ええ。かなり強いですよ。きっと、天狗の次に強い妖怪かと』


 て、天狗の次……。

 天狗には一回負けてるからなぁ……。


 これには耳子もびびっていた。


『ひぃええ……。天狗の次ピョンか。そ、それは強いピョンね……。大助ぇ。やっぱり断るピョン?』


「いや、流石にそれはできないよ。みんな困っているみたいだしね」


『おお! 流石は大助ピョン! 勇気があるピョン!!』


 いや、ここまで話しを聞いといて、やっぱりやめます、は無理でしょ……。


 村長は続けた。


「その妖怪はな。村人の魂を抜いては人玉にして食ってしまうのじゃ。なんとか、みんなで退治しようとしたんじゃが、みんなは魂を抜かれて死んでしまったんじゃ」


『ひぃいええええ……。こ、怖いピョン』


 と、耳子は僕を抱きしめた。

 もう怖すぎて歯をガチガチと鳴らして震えている。

 僕だって怖いよ……。


『隣り村に立派な和尚さんがおってな。その人に妖怪を退治してもらおうとしたんじゃが……。条件を突きつけられて負けてしまったんじゃよ。ホレ、あれが和尚の姿だ』


 人だかりの奥に和尚さんが寝ていた。


『ひぃい! し、死んでるピョン!』


『大助さん。これは魂を抜かれてしまったんです』


「元に戻す方法はないのかな?」


『火炎将軍の邪妖気を絶てば戻すことは可能です。つまり改心。反省して良い妖怪にするということですね』


 それって、要するに、


「火炎将軍を倒すってことだね」


『はい』

 

 ……天狗の次に強い妖怪。

 果たして僕に倒せるのだろうか?


 そういえば、村長さんの話しでは和尚さんは条件を突きつけられたって言ってたな。


「あの……。条件ってなんですか?」


「うむ……。実は妖怪は嫁が欲しいらしくてな。村人の娘を嫁によこせと言って来たのじゃよ。和尚は断ったのじゃが……。そしたら魂を抜かれてあんな姿に……。うう……」


 結婚がしたいのか……。

 お嫁さんになる人は苦労しそうだな。


「村のためじゃからなぁ……。わしは自分の娘を出すことに決めたんじゃ」


 すると、人だかりの奥から赤い着物を着た女の人が現れた。

 モデルさんみたいな綺麗な女の人。


「お父さん。私が妖怪の嫁になれば、みんなが助かります」


「お雪。すまん……。ううう」


 お雪さんっていうのか。

 雪のように白い肌だもんな。見た目どおりの名前だな。


 村人は泣き出した。


「お雪ちゃーーん!」

「なんでお雪ちゃんがぁああ!」

「うわんうわん!」

「ひでぇええええ!」

「かいわいそうだろうがぁあああ!」


 そうか、みんなが泣いていた理由はこれか。

 こんだけ綺麗な人だもんな。みんなこのお雪さんが好きなんだ。


 なんとか助けてあげなくちゃ。


「ぼ、僕、がんばってみます」


「おお、そうか! ありがとう。 妖奉行あやかしぶぎょうのお墨付きならさぞかし強いタヌキなのだろう」


 天狗の次に強い妖怪だ。

 作戦は必要かもしれないな。


「お雪さんと妖怪の結婚式はいつですか?」


「うむ。明日の昼じゃ」


「わかりました。それまでに作戦を練りたいと思います」


「おお、頼もしいな。では今晩はわしの家に泊まってくれ」


 さて、どうやって戦おうか……。


 などと考えていると、僕の体はひょいと持ち上げられた。


 とても柔らかくて良い匂い。


 それはお雪さんだった。


「ありがとうね。タヌキちゃん」


「あ……。いえ、みんな困っているので……」


『ちょ、ちょっと! 慣れ慣れしいピョン! 大助もデレっとしてるんじゃないピョン!』


 なに怒ってるんだ?


 その晩。

 僕たちは村長の家で夕飯をもらった。

 豪華な食事だったので耳子は大喜び。


 そして、みんなが寝静まった頃。


 僕たちが寝ている部屋にお雪さんがやってきた。


「タヌキちゃん……。私のことはいいから逃げて」


「逃げるなんてできないよ。お雪さんが妖怪のお嫁さんになっちゃう」


「私はそれでいいのよ。私が嫁に行くくらいでみんなが助かるなら」


 優しい人なんだな。


「もしも、タヌキちゃんが負けちゃったら、ここに寝ている事典蝶も耳子ちゃんも魂を抜かれてしまうかもしれないんよ」


「…………」


 そうなんだよな。

 負けたら終わる……。


「だからね。無理はしなくていいから。さぁ、お父さんが寝ている隙に逃げて」


 どうする?

 このまま逃げるって選択肢もあるぞ……。

 強い妖怪を避けて、もっと弱い敵と戦って勝つ。

 勝てば葉っぱカードの強化があるから……。


 って、おいおい。

 そんな弱気でどうするよ。

 僕が逃げちゃったらお雪さんが辛い思いをしちゃうよね。

 村人だって大泣きしてしまう。

 よし!


「僕は逃げないよ。必ず勝ってお雪さんと村のみんなを助けてみせる」


「……でも、タヌキちゃんが負けたら、私は悲しいわ」


「寝る前にね。作戦を考えたんだ」


「作戦?」


「うん。火炎将軍に勝つ作戦ね。だから、僕を信じて」


「タヌキちゃん……」


「心配してくれてありがとう」


 必ずお雪さんを助けてみせるぞ!


 そして、次の日。

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