第13話 イレギュラー

「えっ!?神様!?」


エリの話では、もう二度と会えないであろう忙しいはずの神様が何故ここに…

エリを見上げると、エリにも予想外だったようで

不思議そうに神様を見た後、私に首を振って『分からない』とジェスチャーする。


「ハル!一体アネットに何をしたんだい!?」


そう言って私に詰め寄る。

怒っているわけではなさそうだけど、私は困惑した。


「え。何って言われた通りに…」


困っているとエリが神様から私を守るようにして抱き寄せてくれた。


「とりあえず落ち着けって。

何があったんだよ?

って言うか『何をした』って…

神様だってさっきのハルの仕事っぷりが見れるんだから

どう対応したか分かるはずだろ?」


私を後ろから抱きしめたまま

私の頭に顎を乗せながら溜息をつくエリ。


「あの、ちょっと…」


私が放してもらうよう言おうとするが

神様は続けた。


「いや、見てた!見てたんだよ!

ごめんね。取り乱しちゃったんだ。


…ふう。

普通なら、こんな事ありえないんだけどね。


ハルが発言した事に影響が出ちゃったせいで

…アネットの死が無かったことになったんだよ」


神様が困ったようにそう言う。

私はポカンとした後、エリを見上げる。

エリもポカンとしていた。


「えっ…えっ?どういう事?」


私がそう聞くと神様は頭を抱えながら溜息をついた。


「見て貰った方が早いね」


そう言うとソファの目の前にモニターが現れた。


「モニター?」


私がそう聞くとエリが頷いた。


「ハルが仕事している時、俺とアネットはこれでハルを見ていたんだ」


そう言いながら私達はそのままソファに座る。


すると、モニターに映し出されたのは…

アネットだった。


***


「支えますわよ。婚約者ですから。

でも今回の件、私は一生忘れませんわ。

あなたと結婚して子供が出来て、王妃として過ごしたとしても

一生、あなたの事を愛する事はありませんから。

それだけは覚えておいてくださいまし」


私が言った言葉だ。

こうして客観的に見ていると、ちゃんとアネットが発言しているようにしか見えない。


私はこの後、この場所に戻ってきたけど…


その直後、恐らくアネットの魂が戻った後だろう。

会場の扉がバンッと開いた。


「国王陛下御一考の入場でございます!」


扉で番をしていたであろう人がそう叫ぶ。


アネットだけではなく、その場にいる全員が驚いて入口を見ていた。


するとゆっくりと、国王陛下が入場しその後をゾロゾロと従者が続く。


「お父様!?」


アネットがそう驚くと、陛下のすぐ後ろについていた紳士がアネットに手を振った。

アネットに似て美形だ。


そんな事を考えていると…


「こちらにいる教師から、連絡を貰ってね。

すぐに飛んできたのだが…」


陛下がそう呟き、王子を見る。

崩れ落ちたままだった王子は慌てて立ち上がり、陛下を真っすぐ見ながら笑顔を取り繕った。


「ち、父上!

突然の訪問で驚きを隠せませんでした。

一体、どうし…」


「ふむ。全て聞いておるぞ」


その一言だけだが

その場にいる全員が凍り付いたのが分かった。

アネットも体を震わせている。


「アネット。何か言いたい事はあるか?」


陛下のその言葉にアネットはすぐに跪いた。


「申し訳ございません!

私もカッとなってしまい、事もあろうに王子に失礼な発言を…

謹んで、罰をお受けいたしますわ」


その言葉に私は血の気が引いた。

私が言ってしまった言葉で、アネットの立場が悪くなった?


すると、考えを見透かすように

エリが私の手をそっと握り、ニコリと笑った。

大丈夫だ、とでも言いたげに。

私は黙って続きを見る。


「アネット。私は全てを聞いたと言ったのだ。

…この愚息が行った愚かな行為も、何を発言したのかも、な」


そう言ってジロリと王子を睨みつける。

その視線だけで人を殺せそうな、迫力のある人だ。


「あ…う…」


王子は何も言えずに立ち尽くしている。


「アネットよ。立ち上がるが良い」


「は、はい。ありがとうございます」


手を差し出されてアネットはすぐに立ち上がる。

すると、王様はアネットの肩を抱きながらこの場の全員が聞こえるように大声で発言した。


「此度の件、我が愚息とそこにいるマリーがしでかした事!

このアネットに何も罪はない!


…私は、息子を甘やかしすぎてしまったようだ。

本日!私の決定権により

この息子の王位継承権おういけいしょうけん剥奪はくだつする!」


その言葉に全員がざわつく。

王子は青ざめながらすぐに跪いた。


「ち、父上!考え直してください!

わ、私は、幼い頃から王になろうと必死に努力を…!」


その言葉に陛下はピシャリと冷たく言い放った。


「お前の努力など、努力では無い。

お前が遊び惚けている間に、お前の弟は3ヵ国の言葉をマスターしたぞ?

お前はどうだ?何が出来る?」


その言葉に王子は青ざめる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る