第2話 仕事

「後悔してるって言うなら…

どうしてあの2人にもっと色々言ってやらなかったんだろうってこと」


「うん」


私の言葉に神様は嬉しそうに相槌を打つ。


「今までずっと我慢してきた。

そのほうがうまくやれるから。

でも…うまくやれるどころか、彼氏にも親友にも裏切られた。

じゃあ、私が我慢してきたことは何だったの!?」


「そうだね。君のこと、気が弱いって周りは思ってたみたいだけど?」


「…ふん。気が弱い?

気が強すぎて周りを傷つけちゃうから弱いフリをしてただけだよ!!

こんな事になるならアイツらにひと言でも言ってから死ねばよかった!!」


「ふふふ」


「あーーー!!もう!腹立つ!

ふざけんじゃねぇよ!アイツら!

何被害者ぶってんだ!

被害者はこっちだっつーの!!

絶対幸せになるな!

この先一生不幸でいろ!」


そう言ってからハッとする。

恐る恐る顔を上げるが、神様はニコニコと笑ったままで男は何故だかキラキラした目でこちらを見ている。


「な、なに…」


「良いじゃん良いじゃん!

こんなに自分の意見をハッキリ言えるのって長所じゃん!

なんで今まで隠してたんだ?」


男が無邪気にそう言ってくる。


「げっ!なんで!?ご、ごめん!」


男の言葉を聞いた私は、いつのまにか涙が流れていた。


今までこうやって言ってくれた人なんて誰もいなかった。

文句を言われるばかり。


この人が言う私の長所は

私にとっても、周りの人にとっても短所だったからだ。


「違うの…うれ、嬉しくてっ…

今までそうやって言われたことっ…

なかった、からぁ…うえええん!!

ありがどぉぉ!!」


「ええ…」


男が戸惑っている。

すると神様は見透かすように笑った。


「この子は元々正義感が強くて素直な子でね。

確かにキツく聞こえることもあるかもしれないけど、それは相手にとって図星だったり後ろめたいことがあった時だよ。


それに…ハルはただ素直なだけだからね。

人を褒めたい時はまっすぐ褒めるし

お礼だってすぐ言えるし

自分が間違ってたと思えば、すぐ謝れる。


言葉がキツイ以上に、素敵な所がたくさんあるんだよ」


その言葉に私は余計に泣くのだった。


そしてしばらく。


「ず、ずみません…

取り乱しちゃっで…」


まだ涙声のままそう伝えると神様は笑った。


「いいの、いいの。

いっぱい泣きなさい。

でも、そろそろこちらのお願いも聞いてほしくてね」


「お願い…?」


「そう。単刀直入に言うね。

ハルには輪廻転生りんねてんせいせずに、働いて欲しいんだよね」


「んっ!?」


転生できずに働く…?

それって…


「う、うまく人生を歩めなかった私への罰という事ですか?」


また泣きそうになりながらそう言うと、神様は声を上げて笑った。


「あっはっは!!違う違う!

別に断ってくれたって良いんだけどね。

まぁ、まずは仕事内容から伝えるけど…

仕事と言っても、色々な人の人生に介入して欲しいって事なんだよね」


「人生に介入?」


「そ。ハルと同じように『あの時にああ言えば良かった』と思いながら死ぬ人って結構多くてさ。

それでも大抵の人は自分の中で折り合いをつけて成仏出来るんだけど…

怨みや後悔が大きいと、成仏できないんだよね」


今度はどこからか出したお菓子を食べながら神様は続ける。


「だから、ハルにはその人に憑依して、言いたい事を代わりに言ってあげて欲しいんだ」


「は、はぁ…

それって別に本人に言わせれば良いんじゃ…」


私がそう言うと、神様の動きがピタリと止まった後ため息をついた。


「私もそうしてあげたいんだけどね。

でもダメなんだ。

自分の人生をもう一度やり直させるような事をしては世界が崩壊しかねない。

…考えてみて。たった1人をやり直させるならまだしも、同じ世界で100人や1000人をやり直させるとどうなると思う?」


「何?どうなるの?」


私よりも先に男が神様に尋ねた。

この人はその仕事と関係ある人なのだろうか。


「人間ってのは欲深い生き物だからね。

自分の人生を豊かにするために取る行動が、誰か別の人の恨みを買いかねない。

そしてその恨みを買った人をまたやり直させたら、また別の人…

これじゃ大変でしょ?」


「ふーん。負の連鎖ってやつか」


興味が無さそうにそう答える。


「で、でもそれって私が介入しても一緒なのでは?」


「ハルの場合はその人の人生に介入するだけだから…

言いたい事を言ってやろう!と思ったとしても、別に命をかけてまでその人の人生を変えてやろうなんて考えないでしょう?」


う…。確かに。

私はそこまで他人の事を思いやれる性格ではない。


私の苦い顔をみて神様はまた笑う。


「だから、君にやってもらいたい事っていうのは…

そうだな。分かりやすく言うなら

依頼者の魂に乗り移って、言いたい事を言ったら

またここへ戻ってくる。

ってことなんだよね」


何とも分かりやすい説明だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る