言いたいことは言うって決めたの

くるみりん

第1話 後悔

ハル。大学生。

私はいつも後悔してばかりだった。


「ハルちゃん、何でそんなこと言うの!?」


「言い方がキツイって自覚ある?」


「思ったことをすぐ言うのやめてよ」


そうやって友達が離れていく。

大概、思った事を言った後に相手の顔を見て『しまった』と思うのだ。

でも後悔した時にはもう遅くて、私の周りには誰も寄り付かなくなっていた。


それがトラウマで高校生になる頃にはあまり人に意見を言わなくなっていた。


たまにモヤモヤする事もあるが、そのほうが周りと上手くやっていける。

それを実感してからは意見を飲み込む事が苦じゃなくなっていたのだ。


そう、思っていたのに…


「ハルごめん。もうお前のことは好きじゃないんだ」

「ごめんね、ハル…グスッ。私、彼のこと諦められ無かったの!」


突然の彼氏と親友の裏切り。

目の前にいる2人は申し訳なさそうに私に別れ話を切り出したくせに、仲睦まじく手を繋いでいる。

上手くいってると思っていた人間関係は、思い過ごしだったのだ。


「そっか…お互いが好き同士なら、仕方ない、もんね」


精一杯、それだけ言ってその場を逃げ出した。

目に涙を溜めながら、逃げたい一心で走り出す。


「なんで…なんで」


視界がボヤける中、大学の部活生が集団で走り込みをしているのが見えた。


「あ、ヤバ。邪魔になっちゃう…」


ただ私は向かい側から来る集団を少し避けただけのつもりだった。

避けた先が階段だって言うことも気付かずに。


「え…?」


気付いた時には全身に痛みが走って、空が見えた。相変わらず視界はボヤけている。


「…大丈夫ですか!?」

「…おい、救急車…」


駆け寄ってきた人達の表情が強張っている。

私、死ぬのかな。

そう思った時に私が後悔したことは…


「どうせ死ぬなら言いたいことを言えば良かった」


だった。



次に目を覚ますと、知らない空間にいた。

私はベッドに寝かされていたらしい。

ベッドから降りてキョロキョロと辺りを見回す。


「病院…?にしては…」


何だか生活感が溢れている。

それに、体のどこも痛くない。


「あんだけ打ちつけたのに…」


そして自分の体を確認するが、服がいつもの私服だと気付いた。


「破れたり汚れてもいない…?」


これだけ綺麗な状態でいられるはずがない。


「もしかしてこれ、夢?」


そう声に出した所で突然ガチャリと部屋のドアが開いた。


「ひゃあ!」

「うわぁ!…あ。起きた?」


私の驚いた声に逆に驚いた声を出した後、冷静にそう聞いてくる。

私と同じくらいか年上に見える男の人だ。


「あ、あの…」

「説明は神様がしてくれるから、こっち」


そう言って手招きした後、男はそのまま部屋から出て行った。


「神様…?」


え、もしかして私って死んだ?

そう考えると納得…


なんて冷静に死を受け止める。

よく分からないまま男の後に続いた。


すると真っ白な部屋に真っ黒のソファが向かい合う形で置かれている。


突然の空間に驚き振り返るが、ドアはもう消えていた。


「うわ。まじかよ」


ボソリとそう呟きソファにまた目をやると、さっきの男と…めちゃくちゃ可愛い幼女が座っている。


幼女と目が合うとニコリと笑って手招きされた。

向かい側のソファに座れということらしい。


「めっちゃかわ」


思わずそう声が漏れたので慌てて口を押さえながらソファに座った。


「…ふむ。ハル」


幼女がそう言って私の顔を覗き込む。

なんとなくだけど、この子…いや、この人が…


「ふふ。こんなに簡単に死を受け入れるなんてね。そうだ、私が神様ってやつだよ」


まるで私の心を読むかのように笑ってそう言う。


「や、やっぱり私死んだんだ」

「うん。それはもう完璧に」


そう言って目の前のティーカップを持ち上げた。

いつのまに、お茶なんて用意されてたのだろう。


「ここは願えば何でも出るからね。あ、何でもって言っても私が許した範囲でね。ハルも念じてごらん。砂糖が欲しいだろ?」


「え…」


戸惑いつつも声には出さずに心の中で念じた。『紅茶には砂糖が欲しい』と。


するといつの間にかティーカップの側に角砂糖が入ったカップが出てきた。


「ラッキー!俺も砂糖が欲しかったんだー」


そう言って男が砂糖を自分の紅茶に入れる。

私も無言で砂糖を入れた。


「さて。ハル。

死んだわけだけど、何を思う?

後悔してることがあるはずだけど?」


「え…?」


「だから、私は君をここに連れてきたんだよ」


私が後悔した事。それは…


「そう、ね…」


「ほらほら!言葉遣いとか、言葉選んだりしなくて良いからさぁ!思ってること言っちゃいなよ!」


どう伝えようか考えていると、男性が茶化すようにそう言ってきた。


「で、でも…」


そうは言っても、思ったことを言えば相手を傷つけてしまうかもしれない。

私は人一倍、考えて考えて発言しなければいけないんだ。


そう思っていると、男性は笑った。


「何を迷ってるのさ。もう死んでるのに」


それを聞いた私はハッとする。

そうだよ。

どうして死んでまで気を遣わないといけないの?


というか、誰に気を遣っているのだろう。

目の前にいるのは神様とよく知りもしない男だけだ。


「そうそう。とにかく一度、言いたい事をぶちまけな」


そう言って神様は紅茶を飲んだ。

それと同時に私も口を開いた。

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