第3話 了承

「えっと…何となくですけど、内容は分かりました。

でも、その…えっと…仕事をしたら輪廻転生出来ないって、

それって私はこの先一生その仕事をしなければならないって事…でしょうか?」


おずおずとそう聞くと、神様はわざとらしくウンウンと頷いた。


「そうだよねぇ。

その仕事をする以上、メリットデメリットは気になるよねぇ。

さて、こちらも簡単に説明しよう!


まずはメリット!

①この仕事をしていれば、私の直属の部下になる。

なので、『仕分けの部屋』にいつでも好きな時に行けます!


②さっきも言った通り、この空間では好き放題できます!

自分が食べたいもの、飲みたいもの、遊びたいゲーム…

想像すれば出す事が可能でっす!

依頼者が来ず暇な時は、好きな時間を過ごしましょう!


そしてデメリット…

①輪廻転生が遅れてしまいます!


以上~!」


そう言って神様はまた紅茶を飲んだ。


「質問はあるかい?」


そう聞かれて私は考え込む。

色々と聞きたい事はあった気がするけど…

まずは


「仕分けの部屋…って言うのは?」


当たり前のように言われたが、メリットとしてあげるぐらいなのだ。

何かあるのだろう。


「ああ!そうそう、そうだね!

仕分けの部屋って言うのは…

転生先を決める場所なんだ」


「転生先?」


「そ!

死んだら輪廻転生…つまり、別の人間として生まれ変わる…

って言うのは日本人の君なら馴染み深いと思うんだけど」


私は無言で頷いた。


「天国とか地獄っていうのは、残念ながら無いんだよねぇ。

死んだら次の転生先に生まれ変わって終わり!」


「…な、なるほど」


内心、天国と地獄が無いという事に衝撃を受けたが、一応話の内容は理解できた。


「でもどうして、それがメリットなんですか?」


「だって、会えるじゃない」


「?」


「死んだ人にさ」


「!?」


私は思わず息を呑んだ。

死んだ人に会える…?

それって…


私が口を開きかけた時に、神様は手でそれを制してきた。


「うん。ごめん。

これも言葉が足りなかったね。

既に転生している人とはさすがに会えないよ。

これから死んで、仕分けの部屋に来た人とは会えるよって事。


家族とかさ…あと何年待つことになるかは分からないけど…

会いたいんじゃない?」


同情するように言う神様の言葉に私はハッとする。

突然死んで、目の前には神様がいて、

現状にいっぱいっぱいだったけど…

そうだ、私には…


「お姉ちゃん…」


そう呟き私はまた涙を流した。


私には親はいない。

私が10歳の頃に亡くなってしまったから。


でも、たった一人のお姉ちゃんがいつも親代わりに私の面倒を見てくれた。

たった8歳しか変わらないのに、いつもしっかりと私を育ててくれた。

大学に行かずに就職して、それなのに私を大学まで行かせてくれたお姉ちゃん。


お姉ちゃんに会いたい…


「…弱みに付け入るように話してしまって、すまないね」


俯いていると、いつの間にか隣に立っていた神様が私の頭を撫でた。


「あと何年になるかは分からないけど、

私がお願いする仕事をしながら待つと良いよ。

勿論、疲れたらすぐにやめて転生したって良い。

…どうだい?」


私は顔をあげる。

お姉ちゃんにもう一度会いたい。

少しの時間で良いから、話したい。


もう心は決まっていた。

でも、聞きたい事があった。


「あの、1つだけ…

どうして私なんですか?

正直その条件なら、この仕事やりたい人はいっぱいいるんじゃ…」


そう言うと神様は突然私の手をガッと握ってきた。


「それがねぇ~!ダメなんだよ!

言いたい事を思いっきり言うっていうのが仕事内容だろ?

でも気の強い人は大体死に際には『もっと人に優しくすれば良かった』

なんて思っちゃって気の強さが無くなる事が多いし、

元々気が弱い人が君みたいに『言いたい事を言えばよかった』と思っても

元々気が弱いから、いざ憑依しても結局言葉に出来ないんだよぉ~」


早口で泣きそうになりながら私の手をギュッと握る。

そして目をキラキラさせながら続けた。


「その点、君はパーフェクトさ!

元々気が強い君が『言いたい事を言えばよかった』と思った!

きっとこの仕事に向いてる!絶対!保証する!

君がいないと後悔した子達は転生出来ない場合が多いからね!

本当、助かっ…」


「ええ!?て、転生できない!?」


私は思わず遮ってそう言う。

神様は目をパチクリさせた後、苦笑いをした。


「それも言ってなかったね…あはは。

そうなんだ。

そういう子達も一応仕分けの部屋には行かせるんだけど、大体の子が結局転生先が決まらず現世に戻されてしまう。

それが、君たちで言う所の『霊』ってわけさ」


という事は…

私がこの仕事を引き受けないと、未練や後悔を残した人が転生できない…?

それってすごく責任重大じゃ…


「ありゃ。大丈夫?

そんなに気負わなくて良いんだよ。

ただ…君が断ってしまうと、次の候補者が見つかるまでは成仏出来ない霊が増える事になるけど…

あ!でもそれはハルのせいじゃないんだから、気にしないで!ね?」


私の罪悪感を刺激するかのようにわざとそう言ってる気がする。


「…はぁ。私は…お姉ちゃんに会いたいです」


「ってことは!」


「やります」


私がそう言うと、神様はぴょんぴょんと跳ねながら喜んだ。

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