第4話 天使

「ありがとう!ハル!君は救世主だよぉ!」


「そんな、大袈裟な…」


すると今まで黙っていた男が突然手を差し出してきた。


「…?なにか?」


「仕事が決まったからには、握手!

俺、お前のサポートする天使だから」


「…え?」


まじまじと男を見る。

髪色は明るく染めたようでいかにも日本の大学生って感じの顔立ち。

それに…恰好もチャラチャラしていた。


「え、嘘?」


「残念ながら本当だよ」


神様もニコニコしながら頷く。


「天使って…頭に輪っかがついてて

白いワンピース着けて羽が生えてるんじゃないの?」


私がそう言うと男は困ったような顔をした。


「そりゃあ古いイメージだぜ?

今は天使だってアップデートしてるんだよ。

見た目は人間と変わらないし…

地上で気に入った服を着けたりしてるからな!」


ああ、だからこの人は革ジャンなんて着けてるのか…


「このライダースもカッコいいだろ?」


そう言って笑った顔は幼く見えた。


「あ、そうだ。俺はエリ。改めてよろしくな!ハル!」


「う、うん。よろしく」


そう言ったエリの笑顔はさわやかだった。


そんなやり取りを見て

満足そうに頷いた神様は突然手を振る。


「じゃ、後はよろしくね」


「おうよ」


「え!?」


それだけ言うと神様は可愛らしい幼女から

ポンッとツバメの姿になりどこかへ飛んで行った。


「ハ、ハトじゃないんだ…」


私はそう呟くのが精一杯だった。


「本当は神様も忙しいからなぁ。

多分この先、お前が転生するまで会えないと思ってていいぞ。

まぁ仕事に関しては俺がいるから問題ないけどな!」


そう言ってニカッと笑う。

一生会えない上司…


何だか大手企業の社長に突然ヘッドハンティングされた庶民の気分。


「えっと…

で、私は一体どうすれば…」


「ああ!そうだな!

まぁ依頼人が来るまではやることないから、この空間で好きに過ごして良いんだけど…


まずは…さっき砂糖を出したみたいに扉を思い浮かべてみ」


「う、うん」


戸惑いつつもドアを思い浮かべる。

すると音も立てずにいつの間にか扉が目の前に現れた。


そしてそのままドアノブに手をかけようとすると、エリがそっと私の手に自分の手を重ねた。


「んえっ!?」


驚いてエリを見上げるが、エリは気にせず淡々と業務説明するかのように話す。


「このドアから行ける場所は2箇所だけ。

ハルの部屋か、さっき説明があった仕分けの部屋。

どこに行くかイメージしながらドアを開けないといけない。

じゃないとどこにも繋がらない、ただのドアになるからな。

じゃ、まずは『自分の部屋に行きたい』って思いながらドア開けてみ?」


「わかった」


相変わらず手は重なったままだけど、何故か落ち着いた。

そして私は自分の部屋に行きたい…と、想像する。


そしてドアノブに手をかけると、問題なくドアが開いた。


「おっ!最初っから繋がるのすげぇよ!

ハルは上手だな〜!」


まるで歳の離れた子供を褒めるみたいに、そう言って私の頭を撫でる。


「ちょちょ、ちょっと!

イケメンにそんな事されて落ちたらどうすんのよ!私一応、失恋したばっかりなんだからね!?優しくされるとコロッといっちゃうよ!?」


そう言って優しくエリの手を払いのけた。

エリはきょとんとした後、笑い出す。


「あはは!ハル、良いじゃん!

思ったことがそのまま口から出るようになってきたな!その調子!」


そう言われて私はハッとした。

確かに、死ぬ前はあんなに言いたいことが言えない性格になってたのに…

やっぱり人は死ぬ気になると変われるのね。

私はもう死んじゃってるけど。


「あ、それと俺に惚れるのは構わないけど…結局ハルはいつか転生するだろうし、どうせ別れが来るだろうからオススメはしないぜ?」


平然とそう言ってのけるエリ。


「いやもうそれ『俺に惚れると火傷するぜ?』って事じゃん。チャラいな」


「ははは。本当容赦なくなってんなー!」


嬉しそうにそう返すエリを見てほっとする。


「…で、部屋の中見ようぜ〜!」


私はその言葉に自分がドアノブを掴んだままだということを思い出して勢いよく開けた。


「あれ?」


確かに部屋…ではあるけど、何も置かれてない。引っ越し前の新居同然だ。


「物は今からハル自身が増やすんだぜ?

願ったものがなんでも出るんだし。

あ、俺の為に来客用のソファは絶対置いて」


そう言われてソファか…と想像すると、すぐにソファが現れた。


「早速!サンキュー」


そう言ってドカッと座る。


「てか来客用って…ここ私の部屋なんじゃないの?」


「おう、そうだぞ!

俺はこの部屋にはハルが望んだ時しか入れないから安心しろ。

中にいる時だろうが、ハルが拒絶したら強制退出だ!便利だろ?」


なるほど。

それは便利だ。


1人になりたい時は、絶対にその空間が用意できるって事だし。


「んじゃ、部屋のレイアウトはあとで勝手にやってもらうとして…

次は仕分け部屋、行ってみるか?」


「え!いいの!?」


こんなにすぐ行けるなんて!

と思ったがすぐに躊躇する。


「あ、でも…

そこにいる人は亡くなった人…なんだよね。

知り合いが…大切な人が、もしいたらと思うとちょっと怖い…かな」


私はそう言ってお姉ちゃんの笑顔を思い浮かべる。


いつか会いたいと思ってるけど、そのいつかは今じゃない。

お姉ちゃんには結婚して子供が出来て、孫が出来て、それで幸せなまま大往生して欲しい。


だから、私が会うのはせいぜい50年ぐらい先…

ううん。もっと長生きして80年、90年、100年後だって良いぐらいだ。


「…ま、仕分けの部屋に連れてこられて転生するまで1ヶ月は最低でもかかるからさ。

面倒だろうけど1ヶ月に1回チェックすれば大丈夫だと思うよ」


私が言いたい事を汲み取ってくれたのか優しくそう言って笑ってくれるエリ。


私は首を横に振った。


「いや、大丈夫!やっぱり一度見に行く!」


私がそう返事をするとまたエリは私の頭をポンポンと撫でた。


「じゃ、行くか」


「…うん!」


そう言ってまた私の手を上から優しく握りしめてくれた。

そして仕分け部屋に行きたいと願いながらドアノブに手をかけようとした瞬間。



ピロリンリン♪



突然どこからかオルゴール音が聞こえた。


「え!?なに!?」


驚いてエリを見ると、少し困ったように笑っている。


「仕分け部屋はまた今度だな。

この音は、仕事の合図だ。

…依頼人が来るぞ」


そう言って私の手を握ったままドアから遠ざかる。

私が願って出したドアは音も無く消えた。


すると今度は綺麗な光が辺りを包む。


そして目の前に現れたのは…

とても綺麗なお姫様のような女性だった。

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