第5話 アネット

「…ここが、相談所?ですの?」


綺麗なお姫様はそう呟く。

あまりの綺麗さに私は思わず口をパクパクとしていた。


「あなた達は?

あ………!ま、まぁ!」


私達を見て首を傾げた後、何故か顔を赤らめるお姫様。


「あ、ど、どうしたんですか!?」


緊張しながら私がそう言うと、ニコリと笑顔を返される。

笑顔は更に綺麗だ。


「申し訳ございませんわ。

わたくし、あなた方のお邪魔をしてしまったみたい…

相談所の場所を教えてくださる?」


その言葉に今度は私が首を傾げる。


「お邪魔…?」


何の事だ?と思い、エリを見ようとして気付く。

先程から、手を繋いだままだった。


「あ、ああああ!?これか!!?」


驚いて私は手を繋いでいる方の手を高らかにあげた。


「は、はい。あの、デート中、でしたのでしょう?」


照れたように笑うお姫様に、私は首をブンブンと振った。


「違います違います!

離すの忘れてただけなんで!

お気になさらず!」


そう言って手を離すとエリが笑った。


「離すの忘れてたな」


ツッコみたくもなるが私も忘れてたので何も言い返せない。

するとお姫様は困ったようにまた声をかける。


「あの…何度も申し訳ないのですが…

相談所の場所を教えてくださいます?」


そう言われて私はエリを見る。

相談所とは何の事なのか…

するとエリはパチンと指をならしソファを出した。


私がこの空間に来た時と同じような状態だ。

真っ白な空間にソファだけが向かい合ってポツンと置かれている。


「まぁ!」


お姫様が驚いていると、エリがお姫様の手を引いてソファに座らせた。

私とエリは向かい側のソファに座る。


「改めまして…私は天使のエリと言います。

そしてこっちが、相談員のハルです」


「えっ!?」


突然紹介されて私は驚いていたが、エリは気にせず話を進めた。


「相談所…というのは、仕分け部屋で?」


「ええ。わたくしの未練のせいで転生出来ないと言われてしまいまして…

相談所に行って、未練を無くして来いと言われましたの。

それで気付けばここに」


なるほど。どうやら相談所とはここの事だったらしい。


「その未練、聞かせてもらえますか?」


エリのその言葉に、ためらいを見せるお姫様。

そりゃ、会ったばかりの私達に突然話しづらいだろう。


でもエリはどうして話し始めないのか分かっていないようで

ニコニコとずっとお姫様の言葉を待っている。


「…あの、その」


どう言葉にして良いか戸惑っているのだろう。

私は見ていられなくなり、テーブルと温かい紅茶を思い浮かべた。


…だけど、焦っているからかうまく出せない。


「ちょ、ちょっとエリ!思ったのが出ない!」


私がそう言うと、エリはうーんと少し考えてから言う。


「俺の指パッチンみたいに、何か合図を作るとやりやすいぞ?」


その言葉を聞いて私は頷いた。


目の前にテーブルと…

お姫様の心を少しでも落ち着けるために、紅茶のセットを。


そう考えてから両手をパンッと小さく叩いて音を鳴らす。

すると、目の前にはテーブルと紅茶のセットが出てきた。


やっとうまくいって、私はホッとする。

でもお姫様は驚いたように目をパチクリさせていた。


「あ、ごめんなさい!驚きましたよね?

少しでも落ち着ければと思って出したんですけど

お姫様のお口に合うかどうか…」


私がそう言うと、更に驚いた顔をして私を見る。


「お姫様って…私の事ですの?」


「え!?あ、すみません!

一目見てお姫様みたいに綺麗だから、てっきり…違うんですか?」


私のその言葉を聞いて、クスクスと笑い出した。

笑い方も声を上げずに上品だ。


「ごめんなさい。まさか、私のような者をお姫様と言って頂けるなんて…

ふふ。自己紹介がまだでしたわね。私、アネットと申しますわ」


「アネットさんは、お姫様じゃないんですか?」


私がそう聞くと、アネットは楽しそうに首を横に振った。

そして紅茶を口に運ぶ。


「お姫様…誰もが憧れる響きですわね。

あなた…ハルさんといったかしら?」


「あ!全然、ハルで良いです!」


「あら。なら私もアネットと。

…ハル、私の話を聞いてくださる?」


「勿論、聞かせてください」


私のその言葉を聞いて、安心したようにアネットは紅茶を口に運んだ。


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