第11話 アネット#7

≪ねぇ、アネット。

あなたが今まで誰にも言っていなかった秘密…

ここで暴露しちゃても良いかな?≫


ダメ元でそう聞いてみると、驚いたようなアネットの声が脳内に響く。


≪え、ええ!?

もしかして…あの事を言っていますの?≫


≪うん。多分、その事だと思う≫


私がそう言うとアネットは暫く黙り込む。


≪え、なになに?何の事だ?≫


エリの声も響いたが、そっちは無視することにした。


≪…分かりましたわ。

恥ずかしいですけれど、ハルに何か考えがあっての事なのでしょう?

ふふ。どうせ死んでいるのですし、もう良いですわ!

お好きになさって!≫


清々しくそう言ったアネットに私は≪ありがとう≫と呟いた。


「う、浮気だと言うが…私達は本気だ!

お前との婚約は親同士が決めたもので

愛が無いと、先程お前が言ったではないか!」


呆れる程に開き直る王子。

今までのアネットの苦労を考えて頭が痛くなる。


「本気であれば婚約者以外の者に手を出しても良い、という事でしょうか?」


「私だって人間だ!

王子と言えど、自分が愛した者と一緒になりたいと思って何が悪い!」

「殿下…」


マリーが頬を赤らめながら殿下を見上げる。

何だこの茶番は…とも思ったが

案外純粋な愛として受け入れられそうで

周りを見ると、殿下に寄り添い頷いている者もいた。


でも逆に私はチャンスだと思いニコリと笑った。


「その気持ちは痛いほど、分かりますわ」


「な、何ですか!今更、共感したふりなんて…」


「いえ。本当に。

私だって本気で愛したお方はいらっしゃいますもの」


マリーの言葉を遮りそう切なげに言ってやる。

するとマリーは嬉しそうな顔になったかと思えば

王子は絶望したような表情をしていた。


「な…お、お前…

私と言う者がありながら、ほ、他の男を愛していると言うのか!?

う、浮気だ!私という王子の婚約者の癖に…恥を知れ!」


どうやらこのバカな男はアネットが自分を愛していると本気で勘違いしていたらしい。


「殿下、その発言はそっくりそのままあなたに返りますけど…大丈夫ですの?」


私がそう言うと王子は顔を真っ赤にしながら首をブンブンと横に振った。


「う、うるさい!

お前は私の婚約者だろう!?」


「ええ。ですからちゃんと身の程を弁えて

婚約者としての責務を果たしておりましたわ。

あの方に近付きもせず、それどころか

この想いを今まで誰にも話さずに

胸の内にしまっていたのです。


…ですが『本気であれば婚約者以外の者に手を出しても良い』

という事なのでしたら、私も我慢せずにあの方に想いを伝えるべきでしたわ」



私がそう言うと、生徒だけではなく教師までもが

私の味方だという空気が出来上がった。


「そうよね。誰しもが婚約者を好きなはずないもの」

「だからって浮気をしても良いなんて、今まで聞いた事もなかったものね」

「アネット様の話を聞くまでは

王子とマリー嬢の真実の愛を応援しようと思っていたぐらいだ」

「そうよね。でも冷静に考えてみても…結局これって浮気だものね」

「不誠実だ!」


私は口元に笑みを浮かべた。

王子は放心し、マリーは王子を揺さぶっている。


「で、殿下!

アネット様に他に愛する人がいるというのなら、好都合じゃありませんか!

私達を邪魔する人は誰もいないんですよ!?ねぇ、殿下!」


まだこの女は分かってないらしい。


「殿下ったら!」

「うるさい!!」


マリーのしつこさに、王子が声を荒げた。


「う、うるさいって…まさか私に言ったんですか…?」


マリーがショックを受けていたが

そんなのお構いなしに王子はマリーの手を振りほどいた。


「そもそも、お前が嘘をつかなければこんな事にはならなかった!

お前の証言を信じた私がバカだった!

…アネット、すまなかった。

君が悪女だと、この者に吹き込まれていたせいで

私もおかしくなっていたんだ。


本当は、私の事を愛しているのだろう?

強がらなくても良い!」


呆れて溜息が出る。

アネットが自分を好きじゃないと知ると結局手元に置きたがるのね。

でも、だからって絶対折れてやらないけど。

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