第10話 アネット#6

「ふ、普通は自分の好きな人が他の女の子と仲良くしていると嫌でしょ!?

だから嫉妬して、私に嫌がらせを…!」


必死なマリーのその様子を見て、思わず笑いそうになる。

でも笑っちゃダメだ。


「それは、お互い愛し合っている恋人の場合…ですわよね?」


「「…え?」」


王子とマリーの声が重なる。


「恐らく、この学園の殆どの方が知っているかと思うのですが…

私と殿下は親同士が決めた婚約者ではありますけど、

だからと言って恋人ではありませんのよ?」


そう言うとマリーがまたイライラしたように続けた。


「だから!あなたが殿下に片想いしていて、殿下と両想いの私に嫉妬したんでしょ!?」


あらあら。

さっきからもう猫なで声は終わりなの?


あぁ、もうダメ。笑っちゃう。


「私が殿下に片想い…?

えっ、もしかして…えっ?

お2人とも、私が殿下の事を愛していると…

勘違いなさっていたのですか?…ふっ」


あ。ダメだ。笑い声が少し漏れた。


その私の煽る声にカァッと顔を赤くする殿下と

青ざめるマリー。


「…クスッ」


生徒たちのどこからか笑い声が聞こえ始めた。

殿下もその生徒を睨みつけようとするが

周りの生徒もどんどんクスクスと笑い始めている。


「み、見苦しい言い訳だぞ、アネット!

確かに貴様は私の事を愛していると…」


「えっ!?私が!?いつ言いましたの!?」


「こ、子供の頃だ!

生涯、私を支えると言ったではないか!」


「もしかして婚約式での宣誓の事ですの?

アレは式の中で言わなければならない文言ですし…

そもそも伴侶として支えると言っただけで愛しているとは言ってないじゃありませんか」


呆れたようにそう言うと、また生徒の中から笑い声が聞こえる。


「婚約式の宣誓って…」

「アレを愛してると捉えるのは…」


と、それを疑問視する声まで聞こえ始める。


するとマリーが涙目のまま言う。


「た、たとえ愛がなかったとしても!

私に婚約者の座を奪われるって勘違いされて、私に嫌がらせをしたのではないですか!?」


少しドヤ顔でそう言うマリーに私はため息をついた。


「何度も言いますが、この婚約は私のお父様と陛下によって決められたことです。

あなたと殿下が愛し合おうが、私と殿下の婚約が破棄される事はありませんのよ。

婚約者の座を奪われる?

…出来るのなら是非、やってみていただきたいですわね」


そう言ってニコリと笑って見せる。

マリーは顔を赤らめて何も言えずプルプルしだした。


暫く待ってみたが、2人とも黙ってしまい周りのざわざわとした声だけが聞こえる。


もう、仕上げに入ろうか。

私はパンッと手を叩いた。


「では、今回あなた方が訴えてきた

『私がマリーさんに嫌がらせをした』という件。

証拠も無いようですし、この話は終わっても良いかしら?」


そう殿下の目を真っすぐ見て言うと

殿下は元気が無いように頷いた。


「…私が…マリーの話を鵜呑みにしすぎたようだ」


そう言って冷たい視線をマリーに向ける。


「なっ…!で、殿下…!私は本当に…!」


「もう良い。今は黙っててくれないか。

…話なら後で聞くから」


わざとらしく溜息をつく。

分が悪くなったから、すぐにマリー1人の責任にして逃れるつもりね。


…そうはいかないわよ。

私は気付かれないようにニヤリと笑った。


「では。この話は終わりという事で

次は私からの訴えについて、殿下と皆様にも聞いていただいても?」


私がニコリとそう言うと、周りがざわざわしだす。

殿下は何を勘違いしているのか、余裕ぶった笑みで答えた。


「ふん。良いだろう。

私がお前の話を聞いてやる」


私は笑顔を崩さないまま続けた。


「では、今回の騒動について

どう責任を取られるおつもりですか?」


「「…え?」」


またしても王子とマリーの声が重なった。


「私、やってもいない罪をでっちあげられる所でしたのよ?

それに…殿下に水もかけられて今もビショビショのままですし

むしろ嫌がらせを受けているのは私、という事になりますわね?」


その発言に周りがまたざわざわしだした。


「確かに…」

「アネット様がマリーさんに嫌がらせをしている所なんて見た事なかったけど

殿下がアネット様に水をかけた所は、私達見たものね?」


そんな声が聞こえてくる。


「なっ!そ、それは!」

「それから!一番重要な事ですわ」


私は殿下の声を遮りニコリと笑う。


「此度の浮気については…どう説明なさるおつもり?」


「は、はぁ!?」


殿下が驚いた声を上げている。

何をそんなに驚くことがあるのか。


「あら。

今も私と言う婚約者がありながら

あなたは違う女性の腰に手を回していますのよ?

仮に今日の事が無くても、今まであなた方が

学園内で一目もはばからずにイチャついていた事なんて

ここにいる全員が知っているのではなくて?」


私がそう言ってチラリと周りを見ると

何人もの生徒が頷いていた。


「で、どういたしますの?

私は嫌がらせをしていませんし、むしろ冤罪をなすりつけられる所でしたわ。

加えて、殿下は婚約者以外の女性に手を出し浮気をしている状況。


…一体、被害者はそちらにいる女性と私、どちらなんでしょうか?」


最後にわざと泣きそうな顔を見せながらそう言うと

周りの声もどんどん大きくなった。


「ご自分の浮気を正当化する為に、罪をなすりつけようとしたという事かしら?」

「正直、あの二人がいつも腕を組んで歩いているのなんて全員が知っているしな…」

「俺…実はあの2人がキスしている所も見た事あるんだ!」

「えっ!?あなたもですか?私も見ました!」


どんどんと大きくなる声に私はにやけそうになる。

王子とマリーの顔が真っ青だからだ。


浮気を正当化しておいて、アネットだけを責めようとしていたなんて…

こいつら、絶対に許さない。


私はアネットに聞こえるよう、心の中で囁いた。

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