第9話

起きろ




誰かが呼んでいる。聞いたことのない声だ。




起きろ。お前はまだ家族や友人の元に行くことを許されない。




俺は思う。今ここで楽になれたら。人生を終わらすことができたのなら。




???「起きろ。相棒。俺の力を我が物のように使え。」




紅い魔力で身を包んだ人型のナニカに胸ぐらを掴まれる。そしてその言葉の意味を考える。




ゼロ「使ってやるよ…お前の…龍の力…」




闘技場に強悪が追いつく。トドメを刺そうと近づいた時だった。




強悪「じゃあな。身の程知らずの弱者が。」




魔力を込めた拳を叩き込もうとする。そして…




ゼロ「俺を殺すのが遅れたな。」




強悪の顔面に強烈な魔力を込められた拳の一撃が叩き込まれる。




強悪「ッ…!?ガァッ……!!」




なんだ!?この強烈な一撃は!?俺の顔面に拳を叩き込んだだけでこの威力!?魔力を込めていたとしてもありえない!




龍の鱗を纏う右腕、龍の鱗を纏う左脚、まさに龍の腕と龍の脚だった。そしてゼロは龍のような鋭い眼をしていた。




ゼロ「俺を殺すんだろ?早く殴れよ。」




強悪は苛立った。こんなクソガキに。七大悪である俺が痛みを感じたのかと。




強悪「調子に乗るな命知らずのクソガキガァァァァァ!!!」




ゼロは魔力をものすごく込めた拳を叩き込もうとする強悪に対し、先手を撃つ。




龍の腕に魔力を一点に込める。身体中の細胞は活性化し、そして一撃は放たれる。




強悪に拳が衝突したと同時に、魔力の衝撃波が強悪の魂に重い一撃を与える。




強悪「ガッァ!?なんだ…!?魂が…!?」




ゼロはある力を会得していた。



自身の全力を越える全力が出せた者だけが扱える特殊な一撃。魔力を身体の一点に込め、相手を攻撃することで発動する。魔力は衝撃波となり相手の魂コアを襲い、重い一撃を与える。




あらゆるモノには魂があり、魂を失えば、蘇生や自己再生は不可能となる。悪種族は自己再生を繰り返すことで魂を弱らせ、魂を強制具現化することになり弱点を晒すことになるが、激は具現化前の魂に直接ダメージを与え、自己再生による魂の弱体化よりも10倍速く、魂を弱体化させることが可能となる。




強悪「冗談じゃねぇ…直接魂にダメージを与え弱体化を速めるだと…?お前のようなクソガキが…!!!」




ゼロは醜い虫を見るような目つきをしながら笑みを浮かべる。




ゼロ「七大悪なんだろ?余裕ねぇのかよ。こんなクソガキに。」




強悪は怒りで冷静な判断はできず、拳にとにかく魔力を込め、全力の一撃を与えようとする。




強悪「今わからせてやるよ!俺がァ!最強の悪であり強者であることをなぁ!」




拳が叩き込まれる瞬間、ゼロは風のように避け、魔力を龍の脚に込め、身体を突き破る勢いで蹴りを叩き込む。激はここでも発動し、魂は一気に弱体化まで追い込まれる。




強悪「ガ…アァ…!俺の魂が具現化してやがる…」




心臓の部分が赤く光る。魂はそこだ。




ゼロは龍の腕に龍の炎を纏い、全魔力を一点に込める。


強悪は時間経過によりどんどん強化されていたはずだ。だが、越せない壁が目の前にあった。強悪は全魔力を込め、拳を構える。




強悪「俺の最初で最後の全力を喰らいやがれぇぇぇ!!!」




二人の拳が衝突する。だが…強悪の拳は岩のように砕かれ、勢いが止まることなく魂に激が叩き込まれた。




強悪「アァァァァァ!?クソがァ!全力の俺でも越えられない壁とでも言うのかァァァァァ!」




強悪の身体は塵となっていく。魂だけがそこに残るが、中身のない抜け殻となる。




ゼロ「全力で終わるお前に。全力を越えた全力を出す俺には勝てない。強者の名乗るのならわかっていたはずだ。」

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