ゼロワールド

暴の祭

　暴悪「あぁ！満ちる！暴に満ちていく！この国の中心であるこのコロシアムが！俺とお前の暴で満ちていく！最高の決勝戦になりそうだろう！ゼロ！」

　ゼロ「あぁ…確かにそうだな。お前をぶっ殺せるんだから最高の決勝戦だ。」

　龍の魔力がゼロの身体を激しく駆け巡る。相手は七大悪三位、容赦なく殺しに行くべきだ。暴悪が何かを仕掛けるよりも速く、暴に満ちたその魂を殺す。

　ゼロ「テメェが満足する暇もなく、その魂を殺してやるよ。」

　暴悪に刹那に近い速さで急接近をし、龍の拳は胴体を貫くであろう威力で暴悪に放たれる。

　だが暴悪は拳が叩き込まれるまでの僅かミリ秒の間に、ゼロの胴体にカウンターの拳を放つ。暴に満ちた拳はゼロを貫くほど重く叩き込んでくるが、ゼロの龍の拳も止まること無く暴悪の胴体に重く叩き込まれる。

　ゼロ「グッ…！？」

　暴悪「重い暴だッ！深く食い込んでくる暴に満ちた拳ッ！お互いの暴が混ざり殺し合うのを強く感じるだろッ！」

　ゼロ「黙ってろッ"…！」

　暴悪の顔面に龍の蹴りを放ち、顔はまるで銃弾のように吹き飛ばされる。だが悪種族はその程度では死なず、新たな顔を植物のように再生させる。

　暴悪「暴に満ちるあまり避けるという行動を忘れてしまったではないかァ！それにしても悪種族以外に顔を吹き飛ばされるのは初めてだ！さぁどんどん暴に満ちろ！俺の魂が具現化するほどに！暴を放てゼロォ！」

　コイツ…戦う気が無いのか？突然大の字になって、攻撃されるのを待ってるような事を言い出しやがる。

　ゼロ「ならお望み通り…殺す勢いでぶっ放すッ"！」

　龍の拳に魔力が集中し、紅く迸る龍雷が発生する。狙いは悪の魔力で満ちた黒い紋様が浮き出る胴体のド真ん中。

　ゼロ「激ッ"…！！！」

　龍の拳が叩き込まれると同時に、龍雷が暴悪の身体を暴走するように駆け巡り、魔力衝撃波は魂を襲う。

　暴悪「ッ…！」

　魂が具現化した！もう一撃叩き込めば─

　突然だった。コロシアムの地面が大きく割れ、俺は身体中に斬り込んだような深い傷を何箇所も負った状態で、コロシアムの壁まで吹き飛ばされていた。

　禍々しい瞳の付いた漆黒の剣、暴悪が胴体の黒い紋様に腕を沈ませ取り出したモノ。ゼロが魂にトドメの一撃を叩き込むよりも早く、剣は取り出され、暴を放つ。

　暴悪「死に近づくことで扱うことが可能な俺の暴…《暴魂の悪剣》…さぁゼロ…暴に奮えッ"！！！」

　剣を振るうたびに起こる辺りの崩壊。原理がわからないままゼロは再び身体に深い斬傷を負い、一方的な暴に圧倒される。

　ゼロ「ア"ァッ…！？」

　魂にあと一撃…クソッ…動け俺の身体ッ…！バカみてぇな攻撃しやがって…！こんな暴如き…！

　ゼロ「何度喰らおうが…テメェの魂ぶっ殺すまでは立ち続けてやる…！」

　身体の至る箇所に斬傷を負い、血液が流れ続けて尚、闘志がゼロを立ち上がらせる。

　暴悪「そうだ…！それこそが俺の求める戦士だッ！暴を喰らっても尚、己の暴に従い耐え続けるッ！さぁもっと暴に満ちろ！魂を暴に奮えェ"！」

　耐え続けたところで勝算などない。それどころか、ゼロは未だにあの原理不明な攻撃を対処する方法が無い。

　七大悪三位の実力は、想像を超えていた。龍の力による身体の再生が追いつかず、立ち上がる事さえも不可能となるのも時間の問題だろう。

　剣を掲げ、暴は再度奮われる。阻止する暇もなく、ゼロを再び─

　暴悪「ッ！？」

　ゼロ「この攻撃…」

　銃声と共に暴悪の胴体に大きな風穴が空く。コロシアムの観戦席、スナイパーライフルを構えたアルクの姿があった。

　アルク「私の銃弾はね。悪種族にはよく効くよう創っているの。例え七大悪だろうとよ。」

　暴悪「水を差されたと捉えるべきか、新たな暴が現れたと捉えるべきか…だが一つ言える！今の攻撃は素晴らしい暴だッ！だが魂を射抜けなかったのは惜しいなァ！直接魂に感じたい暴だったッ！」

　観戦席からコロシアムの中心に行き、ゼロと合流するアルク。ゼロはこの隙に龍の力による身体再生で斬傷を塞ぐ。

　アルク「大丈夫？ゼロ。」

　ゼロ「あぁ…お陰様でな。それとアルク、アイツは剣を振るって辺りを崩壊させ、身体に何処からともなく斬傷を与えてくる攻撃をする。正直、対処法が思いつかねぇ。」

　アルク「……魔力を斬撃として放ってるとしたら？瞳に魔力を集中させたら視認できるかもしれないわ。一方的な攻撃には必ず仕組みが存在するはずよ。」

　ゼロ「魔力を斬撃として…その説に賭けてみるしかない。もしそうだったとして、相当な速さで放ってるぞ。気をつけろよ。」

　暴悪「戦士二人よ！暴に満ちろ！暴に奮えッ！」

　眼に魔力を集中…斬撃を─

　ゼロ「視認し…ッ！？」

　アルク「ッ！？」

　斬撃が四方八方から襲い掛かってくる！？私じゃこの数避けきれない…！

　アルク「アァッ"…！？」

　ゼロ「アルク！？」

　斬撃の一部が身体を斬り裂く。脇腹、太もも、腕に少し深い斬傷を与えられたが、アルクは耐えて立ち続けている。

　ゼロ「無理はするなよ…！」

　アルク「無理…？するわよ…ゼロは私の比にならないほどしてるじゃない！私がサポートする！だからアイツに一撃叩き込んできなさい！」

　ゼロ「ッ…全力を越えた一撃、与えてやる。」

　アルクを信じ、その魂を殺すことだけに専念する。龍の腕と眼に魔力を集中させ、暴悪に突き進む。

　暴悪「暴にッ…！奮─」

　スナイパーが銃弾を放つ。剣を持った腕を貫き吹き飛ばす。振るうのを阻止し、ゼロはその隙を狙い龍の拳を再度放つ。

　ゼロ「魂を殺すことに…集中しろッ！」

　暴悪「暴に…奮えェ"ェ"ェ"ッ！！！」

　ゼロ「ッ！？」

　吹き飛ばされた剣に向かって魔獣の如く声量で咆哮。耳が破れそうなほど大きく、辺りが振動するほどの─

　ゼロ「振動…まさか！？」

　中を舞う剣は、暴悪の声量によって振動。僅かではあるが、斬撃が放たれる。

　ゼロ「なっ…！？」

　放たれた斬撃を避け即座に体勢を整えるが、放たれた斬撃は地面に直撃し、砂煙を起こす。視界が妨げられる中、暴に満ちた視線だけをただ感じる。

　ゼロ「何処だ…？」

　砂煙が晴れ、辺りが見えるようになる。

　アルク「背後だ！ゼロ！」

　ゼロ「ッ！」

　背後を向くと同時に、龍の拳を放つ。暴悪の振り下ろしす暴魂の悪剣と交わり、互いの一撃が力を競うが、暴悪の魂の底から溢れ出る圧倒的な暴。その暴は身体から強く放たれ、アルクの銃弾すらも弾く。

　アルク「クソッ…！あの身体から出る魔力に銃弾が弾かれる…！」

　ゼロ「グッ…！？」

　暴悪「さぁ！暴に奮えッ！暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮え暴に奮えェッ"！！！」

　ゼロ「ガ"ッ…ハァ"ッ"！？」

　龍の拳は暴に圧倒され、暴魂の悪剣は振り下ろされる。斬撃は至近距離で放たれ、ゼロの身を深く斬り裂く。

　致死に近い量の出血、暴悪をゼロを片手で掴み上げ、アルクに投げ飛ばす。

　アルク「ゼロッ！？」

　暴悪「戦士ならば！死に近づく時ほど暴を放つ！ゼロ…暴に奮え"ェ"ェ"ェ"ェ"ェ"ェ"ェ"ェ"ッ"！！！！！！！！」

　アルク「ッ！？」

　今までの暴が全て、儚く見えるような。

　暴悪はそう思えるほどの暴を、魂の底から放っていた。

　放たれる斬撃が、アルクとゼロを囲むように襲いかかる。そして斬撃は、二人を斬り裂き血で染まった爆風を巻き起こす。

　暴悪「………」

　静寂。辺りには血の煙が漂い、死闘は終えたかに思えた。だが、戦士は闘志を燃やし死闘に立つ。

　ゼロ「何静かになってんだ…暴の祭は終わってねぇぞ…暴悪ッ…！」

　左腕を無くし、右目を潰し、それでも尚、闘志に満ちた眼差しを向ける血を纏う戦士。

　望んでいた戦士が今、目の前に存在した。

　暴悪「身体の再生が不可能になるほどに死に近づき、それでも尚死地へと立つ…俺の望む戦士が今ッ…目の前に…存在するのだぁッ"！」

　感極まる己の魂、こんなにも素晴らしい戦士は数百年振りだろうか？殺すのが惜しいほどにいつまでも暴を交わしたいと思う。

　ゼロ「始めようぜ…テメェと俺達…どっちの闘志が強いのか…」

　血煙の中、ゼロは血を流しながらも眼に闘志を宿し、暴を討つため突き進む。

　感動したッ…！死という恐怖を感じない闘志…！お前は真の戦士として俺を殺すことだけに専念している…！ならば…！俺も答えなければならない…！

　暴悪「暴がお前に…完膚なきまでの…真の戦士としての死を与えようッ…！」

　暴魂の悪剣は暴悪の腕と融合を始める。融合したことにより、魂との同化を行い、剣から溢れ出す暴は更に禍々しく、龍を断ち切るほどの大きさへとなる。

　ゼロ「死を与えるのはテメェじゃねぇ…俺だァァッ"！！！」

　暴悪「戦士よッ！真の戦士の闘志にッ！暴に喝采をォォッ"！！！」

　龍の拳が具現化された魂に叩き込まれると同時に、暴魂の悪剣がゼロの身体を貫く。魂は消滅すること無く耐えていた。

　戦士の魂に死を与えるのは…俺なのだ。

　ゼロ「…」

　暴悪「真の戦士の死は…今ここに…与えられた…」

　アルク「死を与えられるのは…アンタよ！」

　龍の魔力が込められた紅い魔力弾が放たれる。暴悪は咄嗟にゼロから剣を抜き回避しようとするが、ゼロの龍の腕は剣を強く掴んで離さなかった。

　暴悪「ッ！？」

　ゼロ「言っただろ………テメェと俺達………どっちの闘志が強いのかってな………」

　◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

　アルク『……？』

　ゼロ『おい…大丈夫か…？アルク…？』

　アルク『ゼロ…！？私の代わりにあの斬撃を全て…何でそんなことを…！』

　ゼロ『静かにしろ…今アイツは…今の攻撃で俺達を仕留めたと思っているだろう…今から俺が前に出て…どうにかして隙を作る…だから…俺が今与える龍の魔力を込めた魔力弾を放て…』

　アルク『腕を片方無くしてるのに…これ以上そんな無茶─』

　ゼロ『アイツはアルクの銃弾に対応出来ていなかった…それに俺の龍の魔力を込めた魔力弾なら暴に弾かれず貫ける…アルクが地獄の元凶を撃ち抜いてくれ…』

　アルク『っ…わかった。私が元凶を撃ち抜くわ。』

　◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

　龍の魔力弾は暴悪の魂を貫く。身体は塵となっていき、暴悪は最期に思う。

　暴悪「これが………俺の死………俺を終わらす暴………アアアッッ！なんとも暴に満ちた一撃ッ！こんな素晴らしい暴によって死を与えられるなんてッ！魂が暴に奮え死ねるなんてッ！俺は暴として死ぬのだァァァァァァァ！！！！！！！」

　空っぽの魂だけが残る。魂はゼロに取り込まれ、暴の祭は終わりを迎える。死闘を終えた戦士は、地に倒れ、静止する。

　ゼロ「………」

　アルク「ゼロ…絶対に死なせない…平和を取り戻す前に死ぬなんて私がさせない…」

　ゼロに手を当て、全魔力を使い切る勢いで強力な治癒魔術を行う。

　アルク「辛いまま死なせるなんて私が許さないわ…！」