無謀な戦い

 太陽国サン、ここの国民は見る限り普通に過ごしてる人ばかりだった。国王が七大悪の一人という噂は嘘だったのだろうか。

 そんなことを考えていた束の間、王城の付近にある闘技場らしき場所から騒音が聞こえる。剣と剣が交じりあう音だった。


 ゼロ「胸騒ぎがする…」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 闘技場では二人の男が剣を持ち殺し合いをしていた。


 若き青年「死んでくれよ!俺はまだ生きていたいんだ!」


 片目から血を流す男「悪いが妻と娘を残して死ぬわけにはいかないんだ…許してくれ!」


 男は青年に雄叫びを上げながら剣を振るう。


 男の妻「貴方…!お願い…!生きて帰ってきて…!」


 男の娘「パパ!勝って!」


 若き青年「死ぬのはテメェだあああ!!」


 男が振り下ろした剣を自身の剣で弾き、体勢を崩した男の心臓を貫く。


 男の妻「あぁ…そんな…貴方…」


 男の娘「パパ…嫌だよ…嫌ぁぁぁ!」


 観客席から男を必死に応援していた男の妻と男の娘が泣きながら悲鳴を上げる。


 若き青年「王…!これで俺は助かるんだよな!?」


 闘技場に禍々しい悪の魔力を放つ黒髪で強靱な肉体を持った男と同じく禍々しい悪の魔力を放つ赤いコートで身を包んだ老人が現れる。


 強悪「怯えるだけで強さが無い試合だった。虫悪」


 虫悪「御意。強悪様」


 若き青年は次の瞬間、虫悪の赤いコートから現れた大量の羽虫に身体を覆われる。若き青年はあの男に殺されてた方がマシだったと思いながら、肉を少しずつ喰われる痛みに恐怖し泣き叫ぶように悲鳴を上げた。


 ゼロは闘技場に着き全てを理解した。心臓を貫かれ死に倒れている男、羽虫に喰い尽くされる原形の無い人。


 強悪「さぁ、この七大悪七位の俺を滾らせる者はいないのか?それともこの六位の癖に俺に負け服従したジジイの虫で喰われるか?」


 七大悪、今ヤツはそう言った。今あの場にいる二人は七大悪の七位と六位だった。


 ゼロ「俺が滾らせてやるよ。」


 闘技場に一人の殺気に満ちた少年が現れる。


 強悪「……ようやく滾るヤツが来たか。」


 ゼロ「お前が苦しめた罪無き者達の分まで、苦しめて殺してやる。絶対にだ!」


 ゼロは怒りで冷静な判断はできない状況に陥っていた。

 ただ目の前にいる七大悪を今すぐにもぶっ殺してやるとしか考えていなかった。


 強悪「おいジジイ。お前は死体を処理して引っ込んでろ。」

 虫悪「御意。こちらの死体は肉片残さず我が虫が処理致します。」


 虫悪は速やかに死体を全て羽虫により回収させた後、闘技場を去る。

 強悪とゼロ。この二人のみが闘技場に残る。


 ゼロ「なんで国民を苦しめる…無実の人をなんでそうも軽々しく苦しめる!?」


 強悪は笑みを浮かべる。そしてこう言った。


 強悪「娯楽だよ。俺は殺し合いをみるのが好きだ。死の間際に見せるあの必死な表情が俺の闘志を最高に滾らせるんだよ!」


 ゼロは理解ができなかった。そんな理由で?自分の娯楽のため?ふざけんなよ。


 ゼロ「テメェはそんな理由で無実の人を苦しめたんだな…容赦なく殺せそうだ。」


 自身の龍魔力で龍刀を創り出す。そしてゼロは…

 怒りに身を委ね強悪を向かって走りだす。


 ゼロ「テメェみたいなヤツが…!生きていていい理由はねぇ!!」


 強悪の目の前まで行くと龍刀を振り下ろし喰らえば浅い傷では済まない一撃を負わせようとする。

 だが、強悪は余裕の笑みを浮かべ、龍刀が強悪を斬るより先に、拳で龍刀を砕き折る。


 ゼロ「クソッ…!」


 ゼロは龍刀が砕き折られても動揺はせず、拳に龍魔力を込め、強悪の顔面を殴り飛ばす。


 強悪「重い一撃とは言えない弱っちぃ一撃だな。」


 強悪はそう言うとガキの相手をするかのように魔力すら込めてない拳でゼロの顔面を殴り飛ばす。

 ゼロは勢いよく闘技場の壁まで吹き飛ばされる。


 ゼロ「ッ…!ガハッ…!?」


 口から血を吐き出す。だがゼロはすぐに体勢を立て直し、強悪へと向かっていく。

 龍刀を創り出し、それと同時に龍の炎を纏わせる。龍刀を握る拳も龍の炎を纏いゼロは強悪を焼き尽くす怒りの炎と化す。


 ゼロ「絶対に…!今お前を…!殺すッ…!」


 龍の炎を纏った龍刀は強悪に振り下ろされる。

 強悪は拳で龍刀を受け止め砕き折ろうとするが、先程と違い容易く砕き折られる気配はない。


 強悪「いい!ならば俺は魔力を込めるとしよう!」


 拳に魔力が込められた瞬間だった。先程まで拳の勢いに負けず耐えていた龍刀は一瞬にして砕き折られた。そして魔力が込められた拳はその勢いでゼロをおもいっきり殴り飛ばした。


 ゼロ「グッ…!?ガ…ハァッ…!?」


 腹に重い一撃を叩き込まれ血を吐き出すのが止まらなくなる。


 ゼロ「まだ…俺は…戦える…」


 強悪は呆れた表情をしながらゼロに近づくと拳に魔力を込めトドメの一撃を叩き込もうとする。


 強悪「ガキが俺を殺そうとするのが間違いなんだよ。自分の身の程を弁えろよ雑魚ガキが。」


 ゼロは意識が遠のき身体を動かせない。戦闘にもならなかった。拳を二回叩き込まれただけでこの様。七大悪との力の差に悔しく思いながら怒りで満ちた眼で強悪を見つめる。その時だった。


 強悪は突然紅い炎に包まれる。


 強悪「なんだ!?この紅い炎!?」


 ゼロは龍の炎を使った覚えはなかった。ではこの炎は?

 そう思っていると一瞬にしてゼロは何者かに身体を抱えられ闘技場から連れ出される。


 イゼ「なんで一人で先走っちゃうかなぁ!?もう!」

 ゼロ「イゼ…なんで…俺を抱えて…」

 イゼ「ゼロが一人で七大悪に挑む大バカだからだよ!」


 そう言われるとゼロは意識を失った。

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