本来あるべき姿
今アイツはなんて言いやがった?七大悪三位?それが事実とするなら俺はずっと気づかず国王として…
ゼロ「まんまと見抜けず隠し通されたんだな。俺は」
ザック「国王が悪種族!?アンタ俺が生まれるより前から国王だったろ!一体どんだけ長い間…!」
暴悪「そのようなことどうでもいい。ゼロ、魔力でしか悪種族か否か判別できないのか?少し残念だ。」
ゼロ「あぁ全くだ。テメェに言われるまで気づけなかった自分の愚かさもあって怒りしか湧いてこねぇよ。」
暴悪「おっーと待て待て待て!俺はまだ何もしていない!勝手に怒りを抱かれるのはやめてもらおう!」
ゼロは怒りで満ちた表情を浮かべ龍刀を創り出し構える。ザックも鉄骨の付いた両腕を構え暴悪を睨みつける。
ただただ余裕の表情。暴悪は不敵な笑みで見つめ返すだけ。
暴悪「さて、戦士達よ!俺はこの国を本来あるべき姿にしたい!民は貧弱が多く、自らの戦闘ではなく客観でこの闘志を満たす者ばかり!それは闘国のあるべき姿か?否!それは闘国の名から逸脱している!闘とは即ち暴であり、俺はこの国が暴に振るう戦士で満ちた本来あるべき姿にしたいのだ!お前達の暴は実に素晴らしい!暗殺悪の暴にも屈せず闘志と言う名の暴のまま魂を突き動かし!死を恐れずヤツを討った!これは民達が目指すべき姿!そしてお前達のために本来あるべき姿に創り上げ身に沁みてほしい!これこそが!魂に満ちる暴こそが!闘国に本来あるべき姿だと!」
呆然…二人にあるのはそれだけだった。理解できない。いいや理解したくもない。暴こそが本来あるべき姿?
ゼロ「そんなもんが…本来あるべき姿?」
ザック「そんな訳ねぇだろ!あるべき姿とかそんなん強要するもんじゃねぇ!暴が無くたってこの国のヤツらは昔っから戦士なんだ!戦士になる条件なんて人と人の戦いだけじゃねぇんだよ!家族のために働いたり、他人のために助けたり、皆の幸せのために考えたり、そういう困難達相手にして戦ってんだ!皆どんな形にしろ、もう何かと戦ってる戦士なんだ!」
暴悪「ほう……ならばどちらが本来あるべき姿なのか決めよう!」
身に纏う鎧を己の拳で砕く。崩れ落ちる鎧から姿を見せるのは禍々しい悪の魔力で満ちた紋様。胴体の中心から地割れのように広がる線。
そして胸の部分が赤く染まり悪の魔力を強く放っていた。
暴悪「今から5分後、この国は暴の霧に満ちる。民達は暴のままに生き、暴のまま死に、暴のまま戦う。止める方法は一つ、俺の赤い魂を貫くこと。お前達戦士は俺を越え、お前達の願う本来あるべき姿こそが正しいことを証明しろ!」
ゼロ「ザック…全力で行くぞ。」
ザック「当たり前だ!俺の家族が暴に染まるなんてさせるわけねぇだろ!」
5:00
龍刀に炎を纏わせ暴悪に急接近、魂に目掛けて刺突を行う。速度は刹那に近く咄嗟の対応は不可能に近い。
暴悪「偽りの戦士ならば対応出来ないだろう!だがな!俺になら可能だ!」
ゼロ「ッ!?」
素手で受け止められる。ゼロがいくら力を込め突きを行ったとしても、動じはしない。
暴悪「攻めるばかりでは、いずれ限界という壁により撃ち負ける。己より強い戦士がいることをその魂に覚えさせよう!」
ザック「させるかよッ!」
ゼロに対する反撃より先に、背後から迫る奇襲。鉄骨の拳は暴悪の魂に目掛けて放たれる。
だが、鉄骨の拳よりも速く、暴悪の脚はザックを蹴り飛ばしていた。
ザック「グッ…!?」
暴悪「真の戦士と戦士の壁はなんだと思う?それは思考だ!真の戦士ならば闘志のまま、暴のままに!」
ゼロ「ガッ…!?」
暴のまま、拳がゼロを吹き飛ばす。
3:00
暴悪「時の流れは速い!戦士達よ!残された時は3分以下だ!」
ゼロ「おいおい…今の間でもうそんなに経ったのか!」
ザック「クソッ!これじゃ弟や妹が…!」
ゼロ「……ザック、俺が今からヤツをどうにかしてその場に一瞬でも止めさせる。その隙を確実に逃すな!」
ザック「信じていいんだな…!?」
片腕、片脚は龍の鱗に纏われる。そしての先程の速さ、刹那を越える速さで暴悪に接近する。身体全身に魔力が流れ、龍の拳は放たれる。
暴悪「良い!暴に燃えてきたな!戦士よ!」
ゼロ「黙ってろ…テメェの隙作るためにために集中してんだよ。」
お互いの拳が重なり合う。一撃で終わることはなく数秒の間に何度も何度も何度も衝撃波を起こしながら重なり合う。
1:00
ゼロ「………」
暴悪「残り一分!さぁ戦士よ!暴に奮え!」
衝撃波と共にお互いの拳に込められた魔力が衝突し合い、ゼロと暴悪の間には龍の魔力と悪の魔力が混同し合った歪な空間が発生する。
だがその歪な空間は、ゼロが待ち続けた隙への最後のチャンスである。
0:30
ゼロ「これだけ溜まれば…後はお前の出番だ!ザック!」
暴悪「何…?」
ゼロは暴悪の拳を避け、至近距離から龍の炎を放つ。その結果、二人の間に溜まった龍の魔力は引火し始め、悪の魔力と混同した影響により魔力爆破を起こす。
爆破によるダメージ、爆風による視界の妨害、この隙をザックは見逃さなかった。
爆風の中で悪の魔力を強く放つ魂に突き進み、ザックは己の出せる力の全てを込めた鉄骨の拳を放つ。
ザック「絶対…この隙は逃さねぇ!!!」
鉄骨の拳が暴悪の魂を貫く。それと共に爆風は晴れ、暴悪の姿が露わになる。
ゼロは爆破で少し吹き飛ばされるが、無事のようだ。
0:05
暴悪「残りは5秒…最後の最後で貫かれたか。」
ザック「間に合ったぜ…これでテメェが望むようにはならねぇ!」
ゼロ「諦めろ暴悪。俺達の勝ちだ!」
暴悪「勝ち?何を言っている?」
当たり前のように笑みを浮かべ、暴悪は答える。
暴悪「お前達が貫いたのは"心臓"だ。」
ゼロ&ザック「は…?」
暴悪「お前達、敵の言うことを素直に信じるのか?最初から俺の望みを阻止する方法なんて無い!」
嘲笑うような高笑い。ザックの鉄骨の拳を引き抜き、王の玉座に座る。
暴悪は深く息をつくと、やり遂げたような表情を浮かべる。
暴悪「暴の霧も5分前に発動済みだ。魔力を扱える程度の者なら影響を受けず生き残っているかもな。お前達の言う本来あるべき姿の残滓、探してみたらどうだ?」
ゼロ「最初から負けていた…テメェの手のひらの上で踊らされてたのかよッ!」
暴悪「民達の魂が暴に染まり、お前達のような戦士になるのだぞ!闘国が真に誕生するッ!素晴らしいと思わないか─」
ザック「ふざけんじゃねええええええええッ"!」
城を飛び出し暴の霧で満ちた外へと出る。止める間もなくただ絶望に満ちたザックの表情だけが瞼に焼きつく。
暴悪「それで?お前はどうする?俺はお前と暴に奮え殺し合う事が出来るなら…永遠と待とう。」
怒りと殺意に満ちた眼で、暴悪を睨み宣言する。
ゼロ「必ず殺してやる。だから逃げずに待ってろ、暴悪!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
闘国全域は赤く染まった暴の霧に包まれ、地獄を誕生させた。
男は唯一の家族である兄弟を殺し、首を掲げる。
女は長く介護し続けた祖母を殺し、街に振り撒く。
子は大切に育ててくれた親を殺し、臓器で遊ぶ。
犬は産まれたばかりの赤子を殺し、肉を食らう。
騎士は護るべきこの国の民を殺し、火で炙る。
地獄が広がる己の故郷、少年はそんなモノに目を向けなかった。ただ一つ、家で待つ家族に会いたい。弟と妹を早く安全な場所まで…
ザック「頼む…お願いだ…俺が最後まで幸せにするって心から決めたんだよッ…!」
愛する家族のいる帰るべき家が見える。玄関の扉は開いており…
家の中から外に流れ出来上がった血溜まりが視線に移る。ザックは呼吸が荒くなり、肺を痛めながら家にたどり着く。
ザック「あぁっ…あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
ナイフで身体を突き刺した状態で壁に固定されたロボ、瞳を失い横たわるホン、首の無い赤子を抱き腹から臓器が溢れ出し玄関の前で倒れるネリ、今朝も家族と朝食を食べたテーブルの上で顔だけで置かれているモア。
ザック「なんでぇっ"…!なんでこんなぁ"…!幸せを願っただけじゃないかよぉっ"…!」
崩れ落ちるように血溜まりに膝をつかせ、絶望により精神はグチャグチャになる。
これは悪夢だ。弟や妹の人生がこんな運命になるのなんてあっていいわけがない。お願いだから覚めてくれ。
ザック「お願いします…悪夢から…覚めてください…」
ラト「お兄ちゃん…?」
妹の声がした方を恐る恐る振り向く。そしてそこには…最後の希望があった。
真っ白な服は血で染まり、片手にはナイフが握られていた。身体に欠損は無く、家を出る前に観た優しい笑顔を浮かべていた。
ザック「ラト…!?あぁ良かった…!生きていた…!」
ラトを強く、離ないよう抱きしめる。絶望の中から唯一見つけた希望を奪われないように。けど、一つ伝えなければならない。失った家族、今いる家族に。
ザック「ごめんなさい…俺みたいな兄で…お前達の幸せだけを願ってきた…俺が幸せにしてやりたかった…だけど護れなかった…許してくれなんて思わない…だけど一つだけ言わせてほしい…こんな駄目な兄じゃ嫌かもしれないけど…お前達家族を心から愛させてくれ…」
ラト「私は…お兄ちゃんのこと…大好きだよ…」
希望から与えられた幸福が絶望に満ちた兄を解放させる。
ザック「あぁっ………良かった………俺は家族に………」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ゼロ「なんなんだよ…これ」
民達は高笑う。暴を奮い、目に映る者を全て殺していく。この光景をまさに…
ゼロ「地獄…クソッ…今はイゼやアルク、ザックのとこに…」
まずは今一番近いザックの家まで向かう。地獄の中を走り、ゼロは不安が強くなる。
家の近くまで来ると、ザックが膝をつき何かを抱きしめているのが見える。
ゼロ「ザック!無事だった………か」
目の前で魂が抜けたように倒れる。目に生気は無く、心臓から血を流し、絶望に満ちた表情で、若き戦士は息絶える。
目の前には血に塗れたナイフを握った妹であるラトがただ一人。
ゼロ「おい…まさかそんなこと…あんなに愛していた家族の手で死ぬなんてあっていいわけ無いだろ…」
血濡れた兄を見つめる。妹は微笑み続けたまま、暴に満ちた瞳で兄の死体を見つめている。
どうかしてしまったのだろうか?涙が溢れてきた。止まらない。いつまでも流れている。もう暴しか感じないのに。
ラト「お兄ちゃん…あれ…なんで私…おかしいね…!悲しくないのに涙が止まらないよ…!」
私は何ともない!今も満面の笑みだ!そうだ!目の前のお兄ちゃんとも!遊ぼう!
ゼロ「ラト…待ってくれ…俺には…」
ラト「お兄ちゃん!遊ぼう!ギャハハハハハハハ!」
ゼロ「うわあああああああ"ぁ"っ"!!!」
ナイフが振り下ろされるより先に、炎で創られた縄のようなモノがラトの心臓を貫く。満面の笑みを浮かべ、涙を溢れ流した状態で死亡する。
イゼ「救えなくてごめんなさい…私には…楽にさせてあげることしかできない…」
ゼロ「あ……」
イゼ「………」
イゼの方を振り向く。こんなこと言える立場では無い、だけど俺は問う。
ゼロ「なんで殺したんだ…まだ救えたかもしれない…悪種族のせいで愛する家族を殺してしまった被害者だ…!」
イゼ「っ…!それじゃあゼロが殺されるとこを遠くから見ていれば良かったとでも言う気!?あの子の魂は完全に悪の魔力で汚染されていた!あのまま生きていたら家族を殺して苦しむどころか他の人も殺して自分をもっと苦しめていたわ!それにゼロは襲ってくるのを止めなかった!会ったとき見たんでしょ!魂が手遅れなほど悪の魔力に染まってるのを!救えもしないラトちゃんをこれ以上自分の無謀な考えで生かして苦しめ続けるなんて私が許せないわ!」
ゼロ「っ……」
イゼ「一つ勘違いしないでほしいのは、私だって救えるのなら救いたいと思ってることを理解してほしい。それと、ゼロはここで立ち止まってちゃいけないでしょ!私は生き残ってる人を探すから、この地獄を引き起こした元凶、ぶっ倒してきなさい!」
あぁ…イゼは本当に…強いな…
ゼロ「イゼ、元凶をぶっ倒してくる。それと、あの子を楽にさせてくれてありがとう。俺はまだ…イゼみたいに決断できるほどの意志が無い。」
イゼ「私は………ううん、何でもない!お互い必ず生きてまた会いましょう!ゼロ!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
国全体が見渡せる城の屋上、一人の暴が、民達を眺めていた。
魂の底から湧き上がる暴、これこそが本来あるべき姿、闘国から新たに創られたのだ。
暴悪「この国は完成された!戦士達よ!闘国コンバッティメントの名に別れを告げよ!この日をもって新たに創られたのだ!暴に満ちた素晴らしい名だ!その名は!暴国タイラント!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます