第11話 強襲作戦会議

イマに教わることで結界の扱い方などについて色々と知ることができたが、聞いている内にふと1点気になることができた。


「イマ、あなたがそれだけ自身の結界の扱い方を理解しているのに、何故こちらの勢力が苦戦を強いられているの?」

「残念ながら、私自身は戦えないのです。私は今に至るまであの結界の維持するために魔力の大半を使用しています。もし私が攻撃に魔力を使用すればその瞬間あの結界は力を失うでしょう。私が結界の扱いに長けているのはいつか私の力を継げる者が現れた時の為に研究と解析を続けていたからです」


言われてみれば当然の話だった。結界魔法の維持には魔力を消費する。イマは遥か昔から世界を分断するほどの結界を維持し続けているのだ。

あまりにも規模の大きすぎるものだったため、あれを誰かが維持しているという考えが頭から抜けてしまっていた。


「今更だけど、あなたは大丈夫なの?そんな結界を長い間維持し続けているなんて」

「お気遣いありがとうございます。でも、私もこれでもこの世界の強者の一人ですから。それに研究の副産物で得られた成果だったのですが、今は負担を軽減するために自身の魔力の性質を守ることに特化させているのです。これもまた私が戦えない理由の一つですね。守ることだけならできるのですが」


魔法ではなく自身が持つ魔力の性質まで変化させるなんて聞いたことがなかった。

それだけ長い年月を自身の魔力と向き合ってきたのだろう。彼女の凄さを改めて思い知らされた。


その後もしばらくイマと話していると、神殿の大扉が叩かれる音がした。


「なあ、まだ掛かりそうか?そろそろ作戦会議を始めたいんだが」


声を掛けてきたのはエクネアスだった。結界のことについては粗方話し合い方針も決まったところだったので、タイミング的にはちょうどよい頃合いだった。


「わかりましたわ。話のきりも良い所でしたし、そろそろ行きましょうか」

「えぇ。色々と教えてくれてありがとう。イマさん」

「私もあなたのことが聞けて楽しかったので、お気になさらず」


そんなに面白い話をした覚えはなかったのだけど、イマさんが満足そうにほほ笑んでいたので良かったと思うことにしよう。

三人で街の方に戻ると、街は結構な賑わいを見せていた。表の世界から来た人達も裏の世界の人達も柵なく健闘を称え合っていた。


「あんたらが来てくれたおかげで、うちの連中も活気を取り戻せた。この前まではかなり劣勢だったからな。特にあのジーグモスを倒せたのはあんたのおかげだ」

「いえ、それこそイマさんが力を貸してくれたおかげですよ。それに皆がアイツの動きを抑えてくれなければできないことでした。だからあの勝利は皆のおかげです」

「随分と謙虚だな。まぁそう言ってくれると助かる。あんたみたいな人になら俺の仲間達も力を貸したくなるだろうからな」


私としては思ったことを言っただけなのだが、随分と持ち上げられてしまっている気がする。正直、あの時私は途中で気絶したので結果を見ていないし、あの力自体も最近急に使えるようになったため、自分の力という自覚が薄いのだ。

ともあれ、それでこの世界の人達とも上手くやっていけるならそれに越したことはないだろう。

話している内に会議用のテントに着いた。中にはエギルさんをはじめとした代表者達が話し合いをしていたが、私達が入ってきたのに気づくと話をいったんやめてこちらを迎え入れる態勢を取った。


「戻ってきたか。イマ・グレイスとの話し合いはどうだった?」

「えぇ。色々と教えて頂きました。まだ慣れてはいませんが戦っていくうちに結界の力も使いこなせるようになると思います」

「それは頼もしいな。正直、君の力はこちらの切り札だ。俺達が全面的に君をバックアップするから君は結界を扱うことに全力を注いでくれ」


エギルだけでなく、その場にいる皆の視線がこちらに向けられていた。

エギルの発言に対して異を唱える者は居ないようだ。つい最近までただの一冒険者だった私には荷が重い期待の視線だった。


「あまり期待しすぎないで下さいよ。実戦でどれくらいのことができるかまだ自信がないんですから」

「それは難しいだろう。あの戦いの結末を見た後ではな」

「私自身がそれを見てないんですよ・・・」

「そういえばそうだったな。まぁ、君の気持ちも分かる。仮に失敗したとしても責めるつもりはないから、君はやるべきことに集中して欲しいというだけの話だ。もちろんこのことは全員へ周知する。あれほどの力を扱うのがどれだけ難しいかは皆も理解してくれるだろう」


エギルの言葉で少しだけ気持ちが落ち着いた。

失敗しないに越したことはないのだけど、この力は私にとってもまだ未知数なところが多いのだ。


「分かりました。できる限り頑張りますので、皆さんよろしくお願いします」


私がそう言って一礼すると、その場にいる人達からもそれぞれ労いの言葉を掛けられた。


「よし。それじゃ、今後の方針についての会議を始めようか。ジーグモスが倒れたことで向こうにも動揺が広がっているはずだ。つまり、その隙を突かない手はないだろう。そこで、部隊を二つに分けようと思う。一つはこの世界のメンバーを主軸にして正面から突撃する囮部隊、もう一つは表世界のメンバーを主軸にした敵の意表を突く奇襲部隊だ」

「普段戦っている俺達が、ジーグモスが倒れた勢いに乗って攻めてきたと思わせて正面から戦闘を仕掛けて、奇襲部隊が相手の主戦力に不意打ちを仕掛けるってわけだな」

「あぁ、もちろん近づけば気づかれる可能性はあるが、話を聞く限り敵は強者をより意識する傾向がある。攻撃を仕掛けるまでは囮部隊の方を優先する可能性が高いと考えている」

「もし敵が奇襲部隊を優先した場合は?」

「その場合は結界魔法で守りを固める。囮と主役の役割交代になるな。しかし、それでは強敵を縛るという本来の役目を果たせない。そのまま状況に変化が訪れなければ一旦退却も視野に入れなければならないだろうな」

「今できる中ではそれが一番良さそうだな。それじゃ、その方向で詳細を詰めていくか」


こうして敵が動揺している隙を突くべく、間を置かずに強襲する作戦が立てられていった。

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