最終話 いずれは一つの世界に
「まさか、この俺が敗れるとはな。お前の言うことが正しかったということか」
体を4つに分かたれながらもガリュウドはまだ生きていた。
しかし、流石に抵抗することはできずその命の灯も残り僅かだった。
「何が正しいのかなんて簡単に決められることではないわ。あなたに足りなかったのは柔軟な思考力よ。もう少し周りを受け入れることさえできていれば結果は変わっていたでしょう」
「ふっ、それは仕方なかろう。遥か昔、お前があの結界を張った頃は力なき者は生き残ることすらできなかったのだから」
「そうね。ある意味ではあなたも私の結界の被害者なのかもしれないわね。ごめんなさい」
「ふん。謝罪など不要だ。俺・・は・・・こうか・・・い・・・な・・・」
その言葉を最後にガリュウドは息絶えた。
その後の戦いは終始こちら側の優勢で進んだ。ガリュウドが倒れたことで、一部の敵は敗北を悟り撤退し始めたためだ。
残った強者も魔法の楔で行動を制限されては十全の力は発揮できず、一人また一人と討ち倒されていった。
その間、私はイマの力と同化した反動で激しい頭痛に耐えていたため、戦闘どころではなかったのだが。。
しばらくして戦いは私達の勝利で幕を閉じた。
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最後の戦いから数日後、私はまだケルノスの街に滞在していた。
あの後も、定期的な頭痛に悩まされしばらく行動不能に陥っていたのだ。
やっと落ち着いてきた今日、私は帰り支度を進めているところだった。
「やはり帰られるのですね」
声に振り替えると、そこにはイマが立っていた。
「えぇ。私の住むべき世界は向こうにあるから。あなたには色々世話になったわね。ありがとう」
「お礼を言うのは私の方です。もしあなたが私の話に乗ってくれなければ、今頃私達は滅ぼされていたでしょう」
「あの情報屋、懐かしいわね。実際にはそれほど前のことでもないけれど」
全てはあのジーグモスに敗れた後、情報屋のイマと出会ったことから始まったのだ。
「そういえば、あの結界は解かないの?」
「えぇ。まだ野放しにするには危険な者達もこの世界には残っていますから。しかし、いずれは世界を分かつ結界も不要になるでしょう。そうすれば私の役目もおしまいですね」
少し寂しげにそういうイマに向けて、私は笑顔で言った。
「そうね。その時はまた一緒にお茶会でもしましょう。向こうの世界のとっておきのお店を紹介するわよ」
「・・・ふふっ!それは楽しみですね。約束ですよ?」
「えぇ。約束よ」
そうして、満面の笑みを浮かべるイマと私は再会の約束を交わした。
「エメアー!!はやくいこー!」
結界の向こうでミナが私のことを呼んでいる。隣では仲間たちが次々と結界を越えて元の世界に戻っていっている。
「それじゃあイマ、あなたも元気でね」
「えぇ、エメアさんもお元気で」
イマとの別れの挨拶を済ませ、私も結界を越え・・・ようとして跳ね返された。
「・・・イマ?」
恐る恐る振り返ると、そこには悪戯が成功した子供の様に楽しげな表情のイマが居た。
「びっくりしました?」
「当たり前でしょ!怖い冗談はやめて頂戴!」
「ふふふっ!ごめんなさい。・・・はい。もう大丈夫です!」
「まったく、最後まで締まらないわね。それじゃあね」
そうしてエメアは結界を越えて帰っていった。
残ったイマはしばらくしてから独り言のように呟く。
「冗談でもないんですけどね」
そう、あれはイマが何かしたのではなかった。エメアが強者と判断されて結界に拒絶されたのだ。イマが同化の力で誤認させなければエメアは結界を越えることができなかった。
それでも、彼女なら向こうの世界でもうまくやっていけるだろう。
そしていずれは力の差もなくなり、表も裏もない一つの世界に戻る日が来るのだろうとイマはなんとなく理解していた。
【完結】世界の裏側 黒蓬 @akagami11
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