第13話 最終決戦
ハヴァデストの奇襲により思わぬ被害を被ったが、結果だけで見ればハヴァデストという相手の大きな戦力を削ることができたことで、より一層こちら側に有利になった。私達は態勢を立て直して決戦の地に向かった。
「いいか、おまえらーーこれを最後の戦いにするぞ!全隊突撃ーー!!」
エクネアスさんの号令に従って囮部隊が真正面から敵に向かっていく。
相手もエクネアスさん達に気づいて迎撃する構えを見せた。
二つの勢力が真正面からぶつかり合う。しかし、この世界の戦いを始めてみた私は奇妙な感想を抱いた。エクネアスさん達は集団戦をしているのに、相手は
「おかしいでしょ?あの人達はいつもああなんですよ」
隣に立っていたイマさんが呆れたような声でそう言った。
私の見立ては間違っていなかったらしい。相手は仲間と連携を取ろうとしていない。否、仲間とすら思っていないのだ。各々が好き勝手に戦っている。
にも拘らず戦況はほぼ互角だった。彼らが強者と呼ばれるのも納得である。
「さ、私達は私達の目的を果たしましょう」
「はい」
遠くの森の中から戦況を伺っていた私達は再び歩みを再開した。
現在、私達は戦場の側面にある森の中を進行していた。目指すは相手の背面、最奥に居る大将格の男、ガリュウドである。
話を聞いた当初、私はいきなり大将を狙うのは無謀ではないか?と思ったのだが、
その時、イマは「心配ないわ。やつらは彼を助けようとはしないから」といったのである。
話を聞いた時はイマイチ理解できなかったのだが、先ほどの戦いを見て納得した。
彼らには助け合う気が最初からないのだ。集団に対抗するために仕方なく集まっている他人同士。なんとも歪な関係だった。
考えている間にも部隊は進み、拍子抜けするほどにあっさりと背後に回ることができた。恐らくこちらに気づいた者もいるはずだが、警戒する者は居ても襲って来る者は居なかった。当のガリュウドはつまらなそうに戦況を眺めていた。
予定の位置まで到着したことで、エギルさんが全体を見渡して準備が整ったことを確認すると攻撃開始の号令を上げた。
「前衛部隊は前進!決して敵を近づけるな!後方部隊、狙うはガリュウドだ。他の奴らは襲ってきたときだけ適宜対応しろ!」
号令に従って、前衛部隊が前に出る。敵は殆どが囮部隊の方に向かっていたため、こちらに向かってきたのはごく一部だった。
そして、ガリュウドは変わらずつまらなそうにこちらを振り向いたが、その目が一点で止まる。私の隣に居たイマさんだ。
「ほう。こんな前線まで出てくるとは珍しいな。イマよ。結界に気配を紛れてさせてきたか」
「えぇ。久しぶりね、ガリュウド。あなたは相変わらずつまらなそうね」
「ふん。そちらこそ、またそんな弱者どもを引き連れてきおって。イマよ、強者の誇りを忘れたか!」
「私は最初からそんなもの、持っていませんよ。力ばかりを求めるあなたと一緒にしないで下さい」
「力を求めることの何が悪い。力ある者が生き残る。それがこの世の摂理だろう」
「別に力を求めることが悪いとは言っていませんよ。しかし、力は他者を傷つけるためだけにあるのでもありません。他者を顧みず力を振るうばかりのあなたとは相いれなかった。それだけの話です」
「戯言を。力は他者に誇示するもの、他者は力で従えるものだ。我はそうして生き残ってきた。これこそが強者の証だ!」
「だからあなた達はいつまでたっても内戦や個人行動が絶えないのですよ。最初から力を合わせれば私達などすぐにでも倒せていたでしょうに」
「ふん。力を合わせるなど弱者のすることだ」
なんだかすごい言い合いをしている。よほどそりが合わないのだろう。しかし、ある意味では気兼ねなく意見を言い合えているようにも見える。ここは戦場だというのに、子供同士の喧嘩を見ているような奇妙な光景だった。
だが、これも作戦通りだ。イマさんがガリュウドを足止めしている間に私達は呪文を唱え終えていた。
「
魔道部隊が発動した呪文によりガリュウドの四肢を魔法の楔が空間に縛り付けた。
「む。これは今の結界と同質の力か。下僕でも育てていたのか?あの二人がザコ共に倒されたと聞いた時は冗談かと思ったが、なるほどな。お前の仕業だったわけか」
「変なことを言わないで下さい。この人達は向こう側の世界の住人です。その魔法も私はきっかけを与えただけでこの人達自身の力ですよ」
「ふん。弱者の末裔ということではないか。確かに厄介な力だが、弱者どもがいくら結託しようとも」
そういうとガリュウドが拘束された右手に力を籠める。当然結界の力はそちらに集中しさらに右手を縛りつけようとするのだが、ガリュウドは構わず力を集中させた。やがて力の均衡が崩れると、魔法の楔に「ビシッ!」と罅が走った。
「やはりこんなものか。弱者の割にはマシな力だが、こんなものでは我を倒すことはできんぞ」
「勝ち誇るのはまだ早いんじゃないかしら?」
「なんだと?」
「フィドラ・ブライォヴ・スティグド・ハウナ《結界よ、刃と化して、貫け》」
二人が話している間に発動した私の魔法により、結界の刃がガリュウドに向かって突き出された。
「なっ!ばかなっ!」
驚いた様子を見せたガリュウドだったが、まだ余力を残していたのか罅の入った楔を無理やり引きちぎるとその右手で迫りくる刃を掴んだ。
結界の強者を拒む力がガリュウドを蝕むが、彼はそれでも刃を止めることに成功した。
「ぬぐっ!まさかお前の結界を利用して攻撃するとは。どうりであの二人が敗れるわけだ。やるではないか!こうでなくては面白くない!」
楽しげな声を上げながらガリュウドは右手で結界の刃を抑えたまま、左手の楔を砕きに掛かった。力に耐えかねた魔法の楔に罅が走っていく。
「本当に馬鹿げた力ね。その力のせいで好敵手も見つからずつまらない日々を送らざるを得なくなっているんだから、あなたも本当に哀れな人だわ」
「意味が分からぬな。強いからこそこうして強きものと戦えるのだ。我は今、充実しておるぞ。待っていろ、すぐにこの拘束も砕いてお主らを捻り潰してくれようぞ!」
「そういうところよ。結局あなたは強さしか見ていない。今も私のことしか見ていないでしょう?だから、あなたは敗れることになるのよ」
「スティル・アーセレイド《刃よ、切り裂け》!」
私の言葉に応え、結界の刃がさらにその力を増してガリュウドの右手を切り裂こうとする。
「ぬうぅ!我は負けぬ!!」
だが、ガリュウドも罅割れた左手の楔を振り払うとその両手で結界の刃を砕こうと握りしめた。
(っ!これでも倒せないの?これ以上は・・・)
私は既にこの魔法に全力を込めていた。これで倒しきれなければ私にあとはない。
「大丈夫よ。
イマがそう言って魔法を唱えると結界と私の力が一つになる感覚があった。
私は刃を変形させてガリュウドの手を逃れると、目の前にあるその大きな体を切り裂いた。ガリュウドもその動きに対応しようとはしたのだが、意思を持って自在に変形する刃を捕らえることはできなかった。
「なに!?刃が!ぐっ!ぐおぉぉぉぉ・・・・!!」
私が放った渾身の斬撃はガリュウドの体を十字に切り裂いていた。
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