第8話 ジーグモスとの決戦
まず私達は魔の大森林近くにある前線基地で先行組と合流した。
「森の様子はどうですか?」
「割と静かなものだよ。先日の戦いで魔物も大部分は倒していたからな。例の組織とやらが何か企んでいるかもしれないが、その情報屋の話が本当ならもうあの怪物を呼び出す力は残ってないんだろ?結界とやらまでは簡単に行けるんじゃねぇか?」
聞くと斥候と思われる一人がそう答えた。
先行組は森の様子から割と気楽に考えているものが多そうだが、心配なのは例の組織の者達だ。聖堂跡地では油断して見事に罠にハマってしまった。
この森にも何か細工をしている可能性が高いと思う。
とはいえ、先行組が調査しても見つからなかったのだ。
気を付けながら進むしかないだろう。
「エギルさんはもう到着しているんですよね?どちらに居るか知っていますか?」
「あぁ、エギルさんなら会議用のテントに居るはずだ」
そう言って彼はテントがある場所を教えてくれた。
「ありがとうございます。それでは」
礼を言って、その場を離れ会議用のテントに向かった。
「おぅ、来たか。結界魔法の成果は上々か?」
「はい。できる限りのことは。私を含め10名ほど扱えるようになっています」
「それは良い報告だな。こっちも後続組の編成もそろそろ終わる頃だ」
そう言って何かを書き込んでいた紙を近くの冒険者に渡した。
「最終班の編成先だ。連絡頼んだ」
「承知しました」
受け取った彼はそのままテントを出て行った。
「いよいよですね」
「あぁ。いっそ魔の森の先なんてなくて、冗談でしたで済んでくれれば楽なんだがな」
「その場合、ジーグモスの問題が解決しませんよ」
「確かにそうだ。まったく厄介なことだな」
エギルは面倒そうにしながらも目は笑っていない。自身の判断一つで仲間を死地に送ることになるかもしれないのだ。彼のような人物でも緊張しているのだろう。
「私の勘でしかありませんが、私達が襲われた例の組織が気になります。この森にも何か仕掛けているかもしれません」
「聖堂跡で襲われたっていうあれか。うちのメンバーからも聞いたが強力な魔法を使ってきたらしいな。確かに気にはなるが、事前調査ではそれらしいものは見つからなかった。できるのは斥候を先行させて、奴らの痕跡を探すくらいだな」
「それで充分です。よろしくお願いします」
「あぁ。そっちも準備はできてるってことで大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
「そうか。もう少ししたら出発の合図を出す。それまでは待機しておいてくれ」
その後他のメンバーの準備ができたことを確認したエギルが全員を集めて出発前の最後の演説を始めた。
「皆、これまでの協力に感謝する。これから俺達が向かうのは魔の大森林、そしてその先にあると言われている結界を越えた裏側の世界と呼ばれている場所だ。
そこには例のジーグモスを含め強大な敵がいると言われている。
そして、結界を越えて戻ってこれる保証はない。ここからは覚悟のある者だけ着いて来てくれ」
皆から一斉にオー!!という雄たけびが上がった。
皆覚悟はできていた。覚悟したうえで全員が生きて帰るという気持ちでいる。
砦に残る戦闘能力のない補給班は拍手で皆を称えた。
「よし。全員行くぞ。裏の世界の魔物を制圧し、必ず生きて帰るんだ!」
「オォーー!!」
エギルの号令にもう一度雄たけびが上がり進軍が開始された。
見る限り、確かに魔の大森林はその名を否定するかのように静かだった。
普段なら魔物の影が見え隠れし近づくのは危険だとされていたのに今はその影もほとんど見えない。
僅かに見える魔物達も彼らにとっては敵ではなく、即座に討伐されていった。
そうして進み続けていると、ある地点を越えた途端に周りの風景がガラリと変わった。
森だったはずの周囲が全て瓦礫の山のような場所になっていた。
背後には白い幕の様な壁があった。これが結界なのだろうか?
突然の事態に流石に動揺している冒険者たちにどこからか声が掛けられた。
「これはこれは大勢で良く殺されにいらっしゃいましたね」
「あなたはあの時の!あなたも既にこの世界に来ていたのね」
エメアが声の方向に居るローブの人物に気づき声を上げた。
「えぇ。そちらから態々こちら側の世界に来てくれるのですから、我々もこちらで待っていたほうが効率的というものでしょう?さぁ、ジーグモスさん。奴らが来ました」
ローブの男がそう言うと少し遠くから足音が響くのが聞こえてきた。
遠くに居てさえその巨大さが分かる。まさにあの時見た怪物だった。
その怪物はそのままローブの男のところまで歩いてきた。
踏みつぶされかけたローブの男が慌ててその場から逃げ出す。
「な、何をなさるんですか?!」
『ふん、下らん。なぜおまえに指図されねばならんのか。強き者達が来るというから見に来てみれば、小粒な人間どもではないか』
「いやいや侮ってはいけません。彼らはこの忌々しい結界の痕跡を解析していたのです。どんな厄介なことをしてくるか分かりませんよ」
その言葉を聞いてジーグモスは眉らしき部分を逆立てた。
『あの結界をだと?!まったく忌々しい。あれさえなければ我らはこんな狭苦しい場所に閉じ込められることもないというのに。あんなものをさらに使われる許しがたい。全員捻り潰してくれる』
ジーグモスの声を合図に戦闘が始まった。
「第一部隊、妨害網を展開少し長く時間を稼げ。結界班、魔法の展開は任せたぞ!」
エギルの号令に合わせて、ジーグモスの顔や手足に行動を阻害する鋼鉄製の網が掛けられた。網の端は大地に繋ぎ留められ行動を阻害する。
『小物らしい。下らん仕掛けだ。こんなものでいつまでも我を縛れると思うな』
そう言っている間にもジーグモスは右足に掛かった網を引きはがしかけていた。
留めておける時間はほとんどない。私たちは一斉に詠唱を開始した。
「第三部隊!ローブの男とその周辺を警戒。邪魔をさせるな!」
「ちっ!厄介ですね。この人数相手に立ちまわるのは」
ローブの男はこちらの隙を伺っていたようだが、冒険者達に攻撃され回避に移らざるを得なくなっていた。
そして、ジーグモスが最後の網を破壊しようとした時、詠唱が完了した。
「
発動した魔法の楔がジーグモスの両手両足を空間に縛り付けた。
『なに?!この魔法、あの結界と同じ術式だと?だが、イマ・グレイスならともかくお前達の様な小者の魔法に負ける者か!』
えっ?今ジーグモスは何と言った?イマってあの情報屋が名乗った・・・いや、考えるのは後だ。今は結界の維持に集中しないと。
ジーグモスは結界を破壊しようとしているが、この魔法は力を籠めれば込めるほどその場所に魔力を集中させて強固になり、かつその力を拒む性質が強化されるように改良している。いくらジーグモスといえど簡単に壊せるものではなかった。
その間にも冒険者達の攻撃により少しずつジーグモスにダメージが蓄積していく。
『ぐぅぅ。うっとうしいごみどもめが。調子に乗るな!』
ジーグモスが手足を縛られたまま全身から覇気を放出した。近くで攻撃していた戦士達は防ぎきれずに吹き飛ばされる。
「怯むな!衝撃波程度であれば致命傷にはならない。治療班!傷の深いものから回復魔法を!」
エギルの的確な指示により戦線は維持されていた。しかし、戦況は少しずつジーグモスに有利になり始めていた。
冒険者たちもジーグモスにダメージを与えてはいるのだが致命傷には一歩届かない。ジーグモスもいつしか冒険者の相手よりも結界の破壊を優先し始めていた。
「まずいわ。結界は有効だけど、これが続いたら私達の魔力が持たなくなる」
折角、ジーグモスさえ封じる手段を手にしたというのに倒しきれなくて負けるなんて・・・
「おぅ、やってんな。加勢に来たぜ!」
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