第9話 私にできることを

絶望しかけたその時、突然謎の声が聞こえたかと思ったら、ジーグモスへの猛攻が始まった。


「お前は、エクネアス!?なんでこんなところに?」

「久しぶりだなエギル。それはこっちのセリフだぜ。ずいぶんと大所帯できやがったな」


エクネアス・・・昔、槍の腕前では右に出るものなしと言われた槍の達人だった。数年前に突如姿を消したと言われていたが、彼も裏の世界に来ていたのか。

そして、彼だけではなかった。表の世界で強者と呼ばれていた者達も含めた部隊が一斉にジーグモスに攻撃を仕掛けていた。


『ぐぅ、こんな時に貴様らまで。えぇぃ!うっとうしい!』


突如現れた増援にジーグモスが苛立ちを強めた。

先ほどまであった余裕も今は無い。なにしろ四肢を封じられているのだ。今までは敵の火力不足により被害が少なかったため、無視できていたが増援の攻撃はそうもいかなかった。


『まったく忌々しい!こんな結界など・・・砕けろぉぉ!』


埒が明かないと思ったのかジーグモスは両手に全力を籠め、力任せに結界を壊そうとした。結果的に2か所に力が分散したことと長時間の戦闘により魔導士達の魔力低下もあり、右手の結界が耐え切れずに崩壊した。


『おぉぉ!吹き飛べ!うっとうしいザコ共が!』


ジーグモスは自由になった右腕を振り上げ、そのまま地面に叩きつけた。周囲に居た冒険者達はなすすべもなく吹き飛ばされた。


「まずい!近接部隊は一度負傷者を連れて退避!治療班、回復急げ!」


エギルが状況を見て、近接部隊を引かせた。あのままでは無理に攻めても追撃で被害が増えるだけだと判断したのだろう。

エメア達魔道部隊にできるのは可能な限り結界を維持することだけだ。しかし、結界の一つが破られてしまった。今の魔導士達の状態で新たに結界を張り直すのは難しいだろう。


(どうすればいい?この状況で私に何かできることがある?)


「「私の結界を利用して」」


突然頭の中に誰かの声が聞こえた。


(誰!?結界を利用ってどういうこと?)


「「あなたならできるはず。呪文は・・・」」


謎の声は私の質問には答えてくれず、一方的に何かの呪文を伝えてきた。

しかし、結界といえば今使っているもの以外には一つしか心当たりがない。

そして今の状況では、この声を信じるしかなかった。


「皆ごめん、結界の維持をお願い!」

「え?エメア?何を?!」


側に居たミナが驚いた声を上げるが、私はそれを無視して呪文を唱え始めた。

一つ拘束を解いたジーグモスがさらに拘束を砕こうと暴れている。冒険者達も増援の部隊と協力して攻撃を加えているが、まだ致命傷を与えるには足りていない。


(私がここで決めなければ!私が始めたことなのだから!)


呪文の詠唱が終わる。私は残る魔力の全のをこの呪文に注ぎ込んだ。


フィドラ・ブライォヴ・スティグド・ハウナ結界よ、刃と化して、貫け!」

『グガァーーー!!!』


次の瞬間、ジーグモスの絶叫が響いた。

世界を隔つ結界の一部が刃と化してジーグモスの胴体を貫いていた。

私の意識は魔力枯渇によりそこで途絶えた。同時に結界の刃も形を失い元の結界に戻っていた。


「これが最後だ!全員、あの傷口に全ての攻撃を叩き込め!」

『な、何が、我がこんな・・・巫山戯るな!我は・・・我は負けぬ!」


ジーグモスはそれでもなお抵抗していたが、装甲の無い内部に集中攻撃を受け続けてはその耐久力を生かすこともできず、最後はその身を大地に落とした。


「俺達の勝ちだーーー!」

「おおおぉぉぉーーー!!」


冒険者達から勝利の雄たけびが上がる。

その光景を黒ローブの男が信じられない表情で見ていた。


「ジーグモスが敗れた?・・・そんな、馬鹿な・・・」

「隙あり!」


冒険者の一人が呆然としていた男に一太刀を浴びせた。男は抵抗もせずあっさりとその身を二つに断たれた。


「ふっ。ふふっ。これが人の力。見くびり過ぎていました・・・か」


その言葉を最後に男は息絶えた。

こうして今回の戦いに終止符が打たれたのだった。

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