第10話 決着・・・そして
「終わった・・・か。総力を挙げてもこの怪物一体相手に力不足とはな。厳しい現実だ」
「何言ってんだ。ジーグモスは俺達も苦戦していた強敵の一人だぜ。お前たちのやったことは十分大金星だよ」
辛勝といえる結果に苦い表情を浮かべるエギルに対して、エクネアスは満面の笑顔でその功績を称えた。
勝利の余韻に湧く冒険者達を横目にミナは救護用のテントでエメアが起きるのを待っていた。先ほど魔力回復の薬を飲ませたので枯渇状態からは既に回復していた。
「うっ、く、ここは?」
「エメア!良かった。ここは救護テントの中だよ」
目を覚ましたエメアに皆が状況を説明した。
「倒せたの?ジーグモスを?」
「そうだよ。エメアのおかげだよ!でも、あの魔法はいったい何だったの?突然謎の呪文を発動したと思ったらあの結界がズバッ!ってジーグモスに突き刺さってたけど」
「私にも分からないわ。あの時、突然頭の中で誰かの声が聞こえたの。あの呪文もその声が教えてくれたのよ」
「そうなんだ。あの状況だし、助けてくれたんだと思うけど一体誰なんだろうね」
私には一つだけ心当たりがあった。まさかとは思うのだが、あんなことができる呪文を知っている人なんて一人しか・・・
「あんたが継ぐ者か、あんたに話しかけていたのはイマ・グレイスだ」
不意にテントの入り口からそんな声が聞こえた。声の主は意外な人物だった。
「あなたは、エクネアスさん?イマ・グレイスって・・・」
「あの大結界を張った術者だよ。そしてあんたのことを待っている。案内しようイマ・グレイスのところへ」
「えぇ?突然そんなことを言われても。先にエギルさんに相談しないと」
「あぁ、エギルには既に了解を取ってる。俺らの街で休息を取るってな」
言われてみれば、私達は裏の世界のことはまだ全然分かっていない。味方の街で休息できるのならそれに越したことはないだろう。
「そうなんですね。分かりました。私も詳しい話を聞きたいですから」
「おぅ。悪いが俺は連れてくるよう言われただけなんでな。詳しいことは本人に直接聞いてくれ」
そうして、私達はエクネアス達にケルノスの街まで案内された。
ケルノスはシンプルなところだった。街というより住宅の集まりといったほうが近い。街の奥にある神殿だけが目立つ建物だった。
「あの神殿がイマ・グレイスのいる場所だ。アンタは先に神殿に行ってくれ。他の奴らは街で食事なり、休憩なり、会議なり好きにしてくれ」
「待て、エクネアス。それは神殿にはエメア一人で行けということか?」
エギルさんが私と同じ疑問をエクネアスさんに投げかけた。
「あぁ、呼ばれてるのはその嬢ちゃん一人だからな。それ以外の人が行くのは勝手だが話してくれるかは保証できねぇぜ」
「どうする?」
エギルさんが聞いてくる。知らない場所に一人で向かうのは不安ではある。
しかし、今は相手を信じる他ないだろう。少なくとも助けに来てくれたエクネアスさん達は信用できる。
「私一人で行ってきます。私もイマ・グレイスさんがどんな人か気になりますし」
「そうか。負担を掛けて悪いが頼んだ。何かあれば呼んでくれ」
「はい。その時はお願います」
「エメア、気を付けてね」
エギルやミア達に見送られて私は一人で神殿に向かった。
神殿が近くなるほど、強大な存在の気配を感じられるようになってくる。ある意味であのジーグモスと同じような強烈な存在感だ。
神殿の大扉を開けると、そこには白いローブに身を包んだ一人の女性が立っていた。
「良く居らっしゃいました。初めまして、私がイマ・グレイスです」
「エメア・フェルトよ。まず初めに確認したいんだけど、本当に初めましてなの?」
私の質問に、彼女は楽しそうに笑いながら答えてきた。
「ふふっ、やっぱり気になっちゃいますよね。そうですね、この姿では初めましてというのが正しいですね」
「やっぱり、あの情報屋のイマはあなただったのね」
「正確に言うと私の分体のようなものですね。私自身はあの結界を越えられなかったので」
彼女の話によると、結界を越えるために自身の思念を少しずつ結界に紛れ込ませて私達の世界に送り出し、そこから思念体を作り出したということらしい。
思念を送るとか、思念体を作るって何よ!とは思ったのだけど、正直聞いても理解できる答えが返ってきそうになかったのでそれについては聞くのは諦めた。
「正直理解できたとは言えないけど、まぁ話は分かったわ。でも、あなたは女性よね?あの情報屋は男性に見えたんだけど、何で性別を偽っていたの?」
「その方が私と会った時にビックリするかな?と思いまして」
「え?それだけ?」
「はい!」
すごく楽しそうだ。お淑やかな聖女のような見た目にもかかわらず、性格はかなりおちゃめなようである。
「そ、そう。まぁ確かにあなたの名前を聞いた時に性別が結びつかなくてまさか?とは思ったけどね。まぁいいわ、本題に入りたいんだけどここに私だけを呼んだ理由は?あなたが私だけを呼んでくるように言ったのよね?」
「はい。エメアさんだけを呼んだのはあなた以外に話しても意味がないからというのと、あなたと二人でお話ししたかったからですね」
「私以外に話しても意味がない?」
「えぇ。これは向こうの世界であなたに話しかけた理由にもなります。あなたは私が探していた私の結界魔法を継ぐ素質があるものだったのです」
それから彼女はそれについて話してくれた。イマの作り出した結界は強者を閉じ込めることはできたが、争いを止めることはできなかった。
彼女の結界では強者を拒むことはできても強者を倒すことはできなかった。
だから自身と波長が合いつつも強者を倒せる素質があるものを長い年月をかけて探していた。そうして見つかったのが私だったということらしい。
「でも、私の仲間達もあなたの結界魔法をアレンジしたものは使うことができたわよ?」
「そうですね。その者達は弱者故に強者を縛る枷を生み出すことはできた。しかし、強者を打倒すすべを持つまでには至れない。その者達は私の残した結界の痕跡を理解することはできなかったでしょう?」
あの石板のことか。確かにあれを直感的に理解することができたのは私だけだった。他の人達も昔の言葉と照らし合わせて読み解くことはできたが、感覚的に理解できたのは私だけだった。
「あれはどういうことなの?私は古代語なんて全く読めないのにあの魔法を何故か扱うことができたわ」
「私と波長が近いあなたは私の残滓に触れることで、言葉ではなく感覚でその内容を理解したのです。そして、弱者でありつつも強者としての素質があるあなただけが、私の魔法を継ぎ強者を打ち倒す刃と成すことができた」
「それは・・・もしかして私がジーグモスを倒したっていう魔法?正直、魔法を使った直後に気絶してしまって、殆ど覚えていないんだけど」
「えぇ。未知の魔法をいきなり全力で使ったのですから、気絶で済んだのは幸運でしょう。しかし、一度使うことができたのなら段々と思いだせるはずです」
そういうと彼女はその時の映像を映し出しながら、自身のことや結界魔法のことを教えてくれた。
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