第7話 石板解析と戦の準備

全員の意思が固まったところで、各自行うことの検討に入っていた。

冒険者達は戦具や道具類の準備、エルフ達は石板の解析、ドワーフたちは武具の製造、ホビット族は食料の用意、獣人族は魔の大森林の偵察と各自の担当を決めていった。

私はエルフの方達と一緒に石板解析のお手伝いに回っていた。

とはいえ、私自身は解析作業などしたことがないので手持無沙汰になっていたのだが。それに気づいたのかそれとも別の理由か、一人のエルフが声を掛けてきた。


「エメアさん、良ければ先ほどお聞きした結界魔法を試して頂いても良いですか?実際に発動しているのを見ることで新たな発見があるかもしれませんから」

「は、はい。ただ、あの時は無我夢中だったので、もし上手くいかなかったらごめんなさい」


そう断わりを入れてから、私は石板の前に立って手を翳した。

石板の前に立つとやはり何故か読めないはずの呪文が頭に浮かんでくる。

私は浮かんだ呪文をその通りに唱えて発動させた。

前回はとにかくできる限りのことを、と考えて全力で放った結果魔力切れで気絶してしまったようだが、今回はそうはならなかった。

発動した結界も私の周囲を覆う程度の大きさだった。


「気絶はしなかったけど、この範囲じゃジーグモスは止められそうにないわね」

「素晴らしい。確かにこれではまだ力不足でしょうが、解析が完了すれば複数人で掛けることもできるでしょう。エメアさん一人で背負う必要はないですよ」


確かにその通りだ。突然特別な結界魔法を使えるようになったことで、自分だけで何とかしなければと思い込んでいたようだ。

あんなに恐ろしかったジーグモスに戦えるかもという気持ちを持てたのは良いが、まだまだ力の差は歴然なのだ。調子に乗ってはいけない。

自分を戒めてどうすればジーグモスに有効かを考える。情報屋の話を信じるなら彼らは力ある者達だ。自分の力に絶対の自信を持っている。つまりその力を封じるか無効化できればその自信の源を奪えるということになる。

この結界は強者を拒む性質を持っている。それなら、力に反応して縛るような性質を追加できれば敵の行動をさらに制限できるようになるのではないだろうか?

私は自身の考えを研究者の人に伝えてみた。


「力に反応する性質の付与ですか・・・確かにこの石板に書かれている結界の性質に似ているので、応用すれば可能になるかもしれません。エメアさんのおっしゃる通り、上手く作用すれば防御だけでなく相手の妨害にも使えそうですね。早速研究に入りましょう」


その後は石板の解析と並行して性質変化の研究も進められた。

本来であれば性質変化の研究など一朝一夕でできるものではない。

しかし彼らは本当に優秀だった。流石魔法力に優れた種族である。

石板から解析した性質をベースに、強い力に引かれるような変化を持たせることに成功した。とはいえ、流石にかなりの期間を要してしまい、総力戦までに用意できたのはこの性質を持たせた結界魔法までだった。

そしてもう一つの気がかりは、理由が最後まで分からなかったことだ。彼らに調べて貰ったが、私の体に特に異常は見られなかった。とはいえ、それ自体は不都合があるわけでもないということで一先ず気にしないことにした。


「何とか間に合って良かった。我らはこれを基に他に有用な魔法を生み出せないか研究を続けます。我らにできるのはそれくらいですので。ご武運をお祈りしております」


エルフの研究員の皆さんはそう言って一礼した。


「皆さんありがとうございました。皆さんのご協力のおかげで切り札と言える魔法に仕上げることができました。必ず勝利の報告を持ち帰れるよう頑張ります!」


私も同じように一礼してから、集合場所に向かった。

集合場所には沢山の人達が居た。さらに物資などを積んだ馬車もいくつかある。

大砲や投石機の類も作っており、そちらは先に前線にある防衛拠点に送られたようだ。


「エメア!こっちこっち~」


ミナが私に気づいて手を振っている。

呼ばれた私はそちらに向かっていった。


「ミナ、久しぶりって程でもないか。そっちの準備は順調?」

「うん!この前の話で協力しようって人が殆どだからね。今までとは比べられないくらいスムーズに事が進んでるよ。予定通り戻ってこれたってことはエメアの方も魔法完成したの?」

「えぇ、エルフ族のおかげで石板に記された結界魔法をさらに私達なりに強化できたと思う。あの怪物にどれほど効果があるかは試してみないと分からないけど、確実に相手の力を削ぐことはできると思う」

「そっか。期待してるよ~?」


ミナは一瞬安心した様子を見せたものの、こちらを揶揄う様な仕草で言った。


「もう、あまりプレッシャー掛けないで。それに私達はあくまでサポート、討伐できるかはあなた達に掛かってるんだからね」

「ありゃ、逆にプレッシャー掛けられちゃった。うん。でも大丈夫。あの戦いで犠牲になった仲間達のためにも今度こそ作戦を成功させよう!」

「えぇ。そうね」


そうして私達は仲間たちと共に出発した。目指す先は魔の大森林だ。


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