第5話 ハイネア聖堂跡地での攻防

次の日、少々遅めの時間に起床したエメアはすべきことを考える。

各ギルドの代表者を招集するのにはしばらく時間が掛かるだろう。

他種族の代表者にまで声を掛けるとなればなおさらだ。

そして、全員を集められたとしても、その全員を納得させられるだけの説得材料を用意せねばならない。神話の件とジーグモスと接触したこと、それにより敗北を余儀なくされた先の大戦、さらに例の映像装置。これだけでも危機を伝えるには十分かもしれない。しかし、人族以外の種族はほんの一部の例外を除き先の大戦には参加していない。

他種族の代表者たちを説得するにはさらなるひと押しが必要になるだろう。

すなわち例の結界魔法の痕跡だ。この世界には存在し得ないようなそれを提示することができれば裏側の世界の存在を信じさせることができるかもしれない。

そう判断したエメアはギルドメンバーを説得し、ハイネア聖堂跡地への同行を願い出た。急な話に当初は戸惑いを隠せなかったギルドメンバー達だったがミナが一緒に説得してくれたのもあり、一部の手が離せなかった者達意外は同行に納得してくれた。

ギルドマスターに再度面会を依頼して痕跡を見つけてくることを伝える


「お前達だけで行くのか?あそこは魔物の大侵攻で滅ぼされて以降、魔物の隅かにもなってしまっているらしい。人員は多いほうが良いだろう、今うちに居る中で戦えるものを何名か集めてやる。一緒に連れていくがいい」

「そちらもお忙しいのにありがとうございます」

「お前の言う通り、その痕跡とやらは会議の決め手になりそうだからな。うちとしても早急かつ確実に手に入れておきたい。一ギルドに任せることになってしまいすまないがよろしく頼む」

「はい。必ず手に入れてきます」


エギルにより数名の冒険者を紹介して貰い、エメア達はハイネア聖堂跡地に向けて出発した。

馬車で進むこと数日、メンバー間での紹介や手合わせなどを交えつつ一行は

炭鉱の町ガイエンの跡地に到着した。


「ハイネア聖堂跡地は個のさらに奥にあるわ。どれだけの魔物が居るか予想できないから皆気を引き締めていきましょう」


皆の準備ができたのを確認して前進を開始する。確かに道中よりも魔物の数も質も上がってはいたが、こちらの戦力を強化できたこともありさほど苦戦することもなくハイネア聖堂跡地までたどり着くことができた。

ほっとした一瞬の隙、次の瞬間目の前で「ぐぅっ!」と苦悶の声が聞こえた。

「ガエンさん!大丈夫ですか!?」

「気を付けろ、誰かに狙われているぞ!」

「ふむ。リーダーらしき人を狙ったのですが、庇われてしまいましたか」


気にした風もなく廃墟となった聖堂の屋根の影から数人のフードを被った者たちが現れた。


「誰だ、お前たちは?」

「答えてあげる義理はありませんね。とはいえ、廃墟と化し何もなくなったこの地に態々そんな大人数で現れたということはあなた達も何かを掴んだというわけですか。いったいどこから情報を得たのやら」

「っ!まさかあなた達がジーグモスを!?」

「なぜその名を知っている!?・・・思ったより危険な人達のようですね。ここで消えて頂きましょう。」

「この人数差で勝てると思っているのか?」

「確かに、普通なら勝てないでしょうね。しかし、あなた達は忘れていませんか?ここが一体どこなのか?」

「何?・・・ぐぅ!なんだこれは?」


途端私達の体が急激に重くなったように感じる。

これは重力魔法?でも、これだけの大人数相手に一度に掛けるなんて?!


「迂闊ですねぇ。私たちは何年も前からここで研究を続けていたのですよ。こういう時の対策ぐらいしているに決まっているでしょう」


そうして彼らは攻撃を仕掛けてきた。幸い全く動けないわけではないので被害を抑えることはできるのだが、重力範囲から逃れようにも周囲は魔物に囲まれている。無理に突破しようとすれば集中攻撃されるだけだろう。

とはいえ防御しているだけではジリ貧だ。

結界を張れば一人二人くらいは動けるようになるかもしれないが、一度バレてしまえば詠唱中に邪魔されるだろう。何とかする方法は・・・

俯いて考えていると固まっている味方の足元に石板の様なものが見えた。

まさかあれは!?考えている暇はなかった。直感に従い這うようにして石板まで向かう。足元で動かれた味方が「何してんだ!?」と声を上げたりしていたが今は無視だ。そうして何とか石板までたどり着く。

石板に掛かれていたのは古代の言語だ。私に読めるわけもない。はずなのだが

理由は分からないが今は何でもいい。読み解いた内容から使えそうなものをかき集め結界魔法を詠唱する。

発動した魔法は今まで感じたことがない威力を発揮した。

私達を覆っていた重力魔法が無効化される。急に重力から解放された仲間たちが慌てて姿勢を制御しようとしていた。


「あれが破られた!?馬鹿な。あの程度の人数で破れるはずが・・・」


信じられず男が呆然としている間に、仲間たちが周囲の魔物を片付け、フードの男達へ向かう。


「くっ!仕方ありません。この場は撤退します」


我に返ったリーダー格の男が何かを呟くとフードの男達は瞬間にその場から消えた。


「転移か逃走手段まで用意しているとは慎重なことだ。とはいえ助かったぜエメアさん。なにをしたのかまでは分からなかったが・・・あれ?エメアさん?」


振り返った男が話しかけたがエメアはうつぶせに倒れていた。

ミナや周囲の人間が慌てて確認すると、エメアはどうやら気絶しているようだった。彼女は今まで使ったこともない高度な結界魔法を発動させたことで制御しきれなかった反動により意識を失ったのだった。

その後、しばらくして目が覚めたエメアにより石板は回収され、一同はバルセインの街へ帰還したのだった。

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