第4話 ギルドマスターへの面会
ハイネア聖堂跡地:南にある過去に栄えた炭鉱の町ガイエンに会った聖堂だが、5年ほど前に突如発生した魔物の大侵攻によりガイエンの街と共に滅びたと聞いたことがある。
「こんなところに結界の痕跡が。もしかしてだけど、ガイエンの街が魔物の大侵攻で滅びた理由って・・・」
「鋭いね。そう、敵も結界の痕跡から結界を何とかする手段を探していた。その結果が例のジーグモスの出現だ。だがそれはまだ完全じゃなかった。今なら彼らは蓄積していた魔力も底をついているし、制圧できる可能性は高いだろう」
「絶好のチャンスってわけね。まずはギルドに戻って人を集めないと。こんな荒唐無稽の話をどこまで信じて貰えるか不安だけれど」
「そこは君の腕次第だ。と言いたいところだけど、説得材料を一つプレゼントしよう」
そういうと彼は真っ黒な四角い小さな箱のような者を渡してきた。
「これは?」
「映像装置だね。ただ内蔵しているエネルギーが少ないから使用できるのは二、三回かな。タイミングは先ほどの話をした後に使うと効果的だろう。使用方法はそれを平らな場所に置いて『写せ。残された記録を。』と唱えるだけだ」
「『写せ。残された記録を。』ね。分かったわ。ありがとう」
そう言って、受け取った箱をポケットに仕舞う。
正体不明の道具に疑念が湧かないわけではなかったが、ここまで来たら今更だろう。彼の話を信じると決めたのだ。この道具も信じることにする。
「さて、結構長話になったね。私はそろそろ失礼するよ。君の活躍に期待している」
「そう。自信はないけど、できる限りあがいて見せるわよ。っと、最後に大事なことを一つ聞き忘れていたわ」
「何だい?」
「あなた名前は?」
「?・・・ははっ!何かと思ったら、私の名前とは。君は本当に面白いね。そうだな。イマとでも呼んでくれ」
「イマね。色々と教えてくれたこと感謝するわ」
「礼の必要はないさ。最初に言った通り私は私の楽しみの為に話したのだから。それじゃ機会があればまたいつか」
「えぇ。さよなら、イマ」
イマは家の扉を開けるとどこかへと去っていった。
「さてと、私も急いで動かないと」
そう口にして彼女も家を出ると、所属ギルドのあるバルセインの街への乗合馬車に乗った。
馬車を乗り継ぎ数日掛けてエメアはバルセインの街に辿り着いた。
真っ先にギルド『真実の夜明け』に向かった彼女は入り口に居たメンバーたちと再会する。
「エメア!?無事だったのね。誰も帰ってこなかったからてっきりあなたもあの戦いで亡くなったのかと」
そう言って、友人の一人であるミナ・レイマールが瞳に涙を浮かべて飛びついてきた。
「ただいま。ミナ。私以外誰も帰ってきていないの?」
「えぇ。あの戦いに参加した人たちはほとんどが帰ってきてないわ。リーダーも含めて・・・ね。他では生きて帰ってきた人も数人いるみたいだけど、『あれは化け物だ。あんなものに勝てるわけがない』と繰り返すばかりで何があったのか分からないみたいなの。エメアは何があったのか知っているの?」
「えぇ。それに何故そんなことが起きたのかもある人から聞いたわ。怪しい情報屋だったけど、話の筋は通っていた。また同じことが起きる前に急いで対処しないといけないわ」
「また?冒険者の多くが亡くなったと思われるあの戦いと同じことがまた起こるっていうの?」
「このまま何もしなければ恐らくね。だから私は冒険者ギルド総本部に行ってくるわ。この世界の総力を掛けないとこの戦いには打ち勝てない。ミナはギルドのメンバーにいつでも戦えるように準備を進めておくように伝えて」
「冒険者ギルド総本部って、いきなり行っても受け入れて貰えないんじゃ。。それに戦いの準備っていっても何と戦うのかも分からないんじゃ」
「どんな強敵とでも戦えるようできる限りの準備よ。できれば色々話したいんだけど、時間が惜しいの。私はあの戦いの生き残り、何があったか知っていると言えば話ぐらいは聞いてくれるはずよ。いずれ冒険者ギルドから通達が出るはずだから。それまでにできる限りの準備をしておいて」
「・・・分かったわ。いきなり言われても皆も戸惑うと思うけど、できる限り準備しておく。エメアも無理しないでね」
「えぇ。ありがとう」
そうしてミナと別れ、足早に冒険者ギルド総本部へと向かった。
幸いなことに総本部もバルセインにあったため、付くのに時間は掛からなかった。
受付で所属と名を告げて、ギルドマスターへの面会を申し出る。
「『真実の夜明け』のエメアさんですね。緊急事態とのことですが、約束もなくいきなりギルドマスターに会うのは難しいかと。一応お伝えはしてみますが」
「私はあの大戦の生き残りよ!あの戦いで何があったのかも知っている。
急がないと大変なことになるとギルドマスターに伝えて!」
「しょ、承知しました」
エメアの迫力に押された受付嬢は慌てた様子で奥へと引っ込んでいった。
しばらくして、受付嬢が戻ってくる。
「ギルドマスターがお会いになるそうです。二階奥の応接室へどうぞ」
言われた通り応接室に入り待っていると扉をノックする音が聞こえる。
「どうぞ」
「待たせたな。ギルドマスターのエギル・レンだ」
「『真実の夜明け』所属のエメア・フェルトです。面会に応じて下さり感謝します」
「あぁ、堅っ苦しい挨拶は良い。あの戦いのことを知ってるって?」
「はい。私はあの戦いで見たこともない怪物が突然出現したのを見ました。それまで冒険者側が優勢で勝利も間違いないと確信していたところをその怪物1体に全てひっくり返されたのです」
「怪物・・・ね。確かに逃げ帰ってきた者達からも同様の報告を聞いている。だが、現場に調査に向かった者達からはそんなものはどこにもおらず、両陣営の死体が大量にあっただけだったと聞いている。受付嬢から聞いた話だと急がないと大変なことになるということだったが、あんたは何を知っているんだ?」
「私はあの戦いで死を覚悟し、目が覚めたら全く別の場所に居ました。
原因は不明ですが、そこで情報屋と名乗る男に会ったんです」
そうしてエギルにイマから聞いた内容をすべて話した。
「そしてこれが、その時渡された映像装置です。但し使用できるのは2,3回だと忠告されました。なので皆さんを納得させるためにもできるだけ大勢が居る場で使用したいと考えています」
「ふむ。正直話が突拍子もなさ過ぎて信じられんな。しかし、あの戦いに挑んだ冒険者の大半が死んでいたのは事実だ。それが君の妄言だった場合は君に責任を取って貰えばいいが、もし真実だった場合、確かに大変なことになるな。君はその話が噓偽りない真実だと断言できるかい?」
「はい。私はあの怪物と彼の語り口からそれが真実だと判断しました。もし嘘だった場合は、私を罰して頂いて構いません」
どうせ一度は死を覚悟した身だ。もし彼の話が嘘だったのなら騙された私がばかだったと思うだけだ。
エギルは彼女の目をしばし見つめると
「分かった。信じよう。各ギルドから代表者を募り会議を開こう」
「その代表者にエルフ族やドワーフ族などの代表者も召集することはできますか?」
「他種族の代表者をということか?それはなかなか難しい話だな。彼らとは敵対しているわけではないが、長らく交流も途絶えている。招集依頼を出しても来てくれるかどうか」
「それでも可能性があるなら試すべきだと考えます。神話の件やジーグモスの名なども伝えてはどうでしょう?もしかしたら他種族の歴史にはの記録が残っている可能性もあります」
「ふ~む。そうだな。俺から封書を出せば彼らも読むくらいはしてくれよう。であれば急ぎ書いて早馬を走らせるか」
「よろしくお願いいたします。ギルドマスター、私などの話を信じてご協力頂けたこと感謝いたします」
「俺は俺の判断で動くだけだ。礼を言われる筋合いはない。こちらこそ良くあの戦いを生き残り情報を伝えてくれた。礼を言う」
「私も私にできることをしただけです。この記録装置は証拠としてお預けいたします」
「分かった。預かろう。会議の日取りについては追って知らせる」
「承知しました。それでは本日はこれにて」
その日ギルドマスターとの面会を終え、旅と緊張により疲れ切っていたエメアはギルドの自室に戻り、泥のように眠った。
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