第3話 世界の裏側

その後、落ち着いて話そうということでとある家の一室に案内された。

「さて、それじゃ何から話そうか」

「あれだけ意味深なことを言っておいて何を話すかも考えてなったの?」

「いやいや、世界丸ごと一つのお話だよ?全部話していたら何日あっても足りないからね。」

「関係あることなら何でもいいからとりあえず話してよ」

「そうだね。それならこの世界と裏側の世界の成り立ちから話そうか」


彼によると、この世界と裏側の世界は遥かな昔は一つの世界だったらしい。

しかし、時が経ちその中から力ある者達が現れ、その一部は弱者を支配し、虐げるようになった。個を尊重していた力ある者の中で一番の強者だった存在はそれを悲しみ、力による制約の結界で世界を二つに分断し、強者が弱者に手出しできないようにしたらしい。しかし、その結果二つの考え方を持つ者たちの間で起きた致命的な亀裂がそのまま二つの勢力となり、それから今に至るまで戦争を続けているらしい。


「なんていうか・・・生き物って変わらないわね」

「結局この世界でも争いはあるからね。生存本能って部分もあるんだろうけど、恒久的な平和っていうのは難しいのかもしれない。

それでも、世界を分けた意味はあったと思うよ。裏の世界に比べればこの世界は十分に平和だと言える」

「あんな怪物が跋扈している世界に比べれば、それはそうでしょうね」

「ジーグモスは裏の世界でも強い方だけどね。さておき、裏の世界の生物が桁違いに強いのはそういう理由だ。」

「でも、この世界に結界が張られているなんて話、聞いたことないわよ?世界を分断するような規模のものであれば見つかっていないのはおかしくない?どれくらいかは知らないけれど、そんな大昔からあるのに今まで壊されていないというのも不思議だわ」

「良い質問だ。今まで壊されなかったのには理由がある。一つは結界を維持しているのが裏の世界でも最も強大な存在だから。単純だね。とはいえ、複数人が同時に壊そうとすれば、普通は壊せるはずだった。そこで、彼は結界にある特性を持たせた。何だと思う?」

「特性?急に言われても・・・力押しでは壊せない・・・時間遅延スロウとか?」

「良いね。でもなんで時間停止ストップではなく時間遅延スロウなんだい?」

「それは、割に合わないからよ。時間停止ストップなんて使い手さえほとんどいない魔法よ?いくら強大な存在と言っても維持し続けられるとは思えないわ」

「正解だ。時空魔法は魔力消費が大きい。只でさえ巨大な結界にさらにコストを増やすのは避けたい。だから、魔法を上乗せするのではなく、結界の性質を変化させ特性を持たせることで結界の維持を容易にしたんだ」

「結界の性質を変化させる?結界魔法は他者を拒むためのものだけど・・・拒む対象を絞ったとか?」

「素晴らしい!ほぼ正解だ。彼は強者であるほど拒むように結界の性質を変化させた。裏の世界に残るのは強者ばかりだ。これで結界は破れなくなる。そう考えたんだろうね。事実今に至るまで結界の維持に成功している」

「なるほど。確かに効果的な方法ね。魔法の性質変化なんて、こちらだと魔導士が一生を掛けて一つ編み出せるかレベルの話だけど。でも、力で壊せなくても破界魔法で壊すことはできるんじゃない?」

「時間があればできたかもしれないね。さっき言った通り、結界ができた後すぐに二つの勢力は戦争に突入した。元々力を誇示していた彼らは結界を壊すことよりも戦うことを優先した。破界魔法みたいな搦手を使える者が少なかったのもあっただろうけどね」

「確かに戦いの最中に研究するのは難しいかもね。格上の結界を破るにはその結界を読み解く必要もあるし。

それで、結界がこの世界で見つかっていないほうの理由は?」

「それも特性の話に関わってくる。さっきも言った通り、結界は強者を拒む。その性質上弱者は割と簡単に通れてしまうんだ。せっかく世界を分断したのにその弱者が自ら戻ってきたら意味がないだろう?だから、結界の片面にだけ隠蔽魔法を掛けたんだ。さらに弱者ほど見えづらくなるよう性質を変化させたうえでね」

「隠蔽魔法か。それなら確かに見えなくはなるけど、弱者なら結界に気づけば通れるのよね?今まで誰かしら裏の世界を見て戻ってきた人が居てもおかしくはないと思うのだけど」

「その通りだ。でも、この世界には人が近づかない場所があるだろう?」

「魔の大森林!まさか魔物がそこからやってくるのもそういうこと?!」


この世界の西の果てには誰も近づけない広大な森がある。それはそこから魔物達がやってくるためであり、魔物はその森から生まれてくるからだと言われている。


「正解だ。魔物は森から生まれるのではなく裏の世界から結界を通り抜けてきた者たちだ。彼も強者故にそこまでは気が回らなかったんだろうね」

「これだから天才っていうのは。。いえ、助けて貰っている立場で文句を言うのもどうかとは思うけれど」

「補足すると、裏の世界に行った人間は居る。だが、それは魔の森を抜けれるほどの強者、つまりは戦いを求める者達だ。この世界で強者と言われるものが稀に姿を消すのはそういう理由だ」

「戻ってる人いるんじゃない。はぁ、まぁ大体理解でき・・・た?・・・いや、おかしいじゃない。それなら何でジーグモスはこの世界に現れたの?」

「気づいたね。そう、そこにも彼の誤算があった。結界はあくまで強者と弱者の世界を分断するためのものだ。そして強者を拒むことに重点を置いていた。まさか弱者側が自ら強者をこちらの世界に呼び込むなど想定できていなかったのさ。その結果あの戦場にジーグモスが出現した。

ただ、結界を通ってこの世界に来たことで奴はまだ結界の力に縛られていた。やがてジーグモスを呼び出した儀式魔法の効果も切れたところで結界の効力によりこの世界から弾き出されたという訳だ」

「・・・あれはこちらの世界の責任というわけね。全く誰だか知らないけど、何でそんな馬鹿なことを」

「狂信者というのはそういうものだろう。そして彼らも理解してしまった。この世界側からなら結界に干渉できると」

「裏の世界で怪物たちが勝利してもアウト。この世界で狂信者たちが結界をすり抜ける方法を見つけてしまってもアウトということね。

それで、そんな桁違いの相手に私たちはどうすれば対抗できるようになるの?」

「ふふっ、これまでの話の中にもうヒントは出ているよ?簡単だろう?」

「・・・結界魔法。でも、それはその彼というのが圧倒的強者だから成り立っているのでしょう?私達が使ってもあれを止められるとは思えないわ。」

「そんなことはないさ。彼の編み出した結界魔法は本当に優秀でね。特にその性質変化により強者に対して特攻に近い性能を獲得している。そんな魔法を対象1体に絞って掛けることができれば?」

「弱者でも対抗できるという訳ね。・・・思ったんだけど、裏の世界でもその方法を使えば対抗できるんじゃないの?」

「使い手が居ればね。長年の戦いで攻撃魔法みたいな戦いの技術は進化してきたけど、一方でそれ以外の技術は廃れていった。ほぼ唯一その技術を磨き続けている彼も結界を維持するのに精いっぱいで、人に教える余裕なんてない」

「こっちで何とかするしかないわけね。でもどうやって?私も結界魔法自体は使えるけど、性質変化なんてできないわよ?」

「この世界には彼が結界魔法を展開した時の痕跡が残されている。それを読み解いて彼の技術を継承すれば奴らに対抗できる力を身に着けることができるだろう」


そう言って、彼はその場所を告げた。

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