第2話 怪しい情報屋

「・・・ここ、は・・・?」


彼女はとある小屋の近くで目を覚ました。

彼女の名はエメア・フェルト、ギルド『真実の夜明け』に所属する魔導士だ。

目覚める前のことを思い出そうとして、あの巨大な敵が腕を振り上げた光景を思い出す。恐怖に体が凍り付く。しばらくの間、自身の体を抱きしめて震えていたが、そこでふと気づく。

その後のことが思い出せない。恐らくは私は気絶したのだろう。

とするとここはどこなのだろうか?明らかに戦っていた場所ではない。

彼女には知る由もなかったが、彼女がここにいるのは近くにいたとある魔導士が彼女を転移魔法で飛ばしたからだった。その魔導士は攻撃を避けられないと悟ると咄嗟に近く居たエメアに転移魔法を掛けたのだ。

理由は分からないが彼女は自分が生き残ったことを理解した。そしてまずあの戦いの結末がどうなったのかを知らなければと考えた。

幸いここは小屋の近くであり、道も整備されている。恐らくはこの道を辿っていけば、村か街には着くだろう。

小屋には簡易的な生活用品と保存食がある程度だった。

小屋の主には申し訳ないが、拝借させて貰い街道を歩きだした。


歩きだして何時間経ったか・・・その先に街が見えた。

街で情報収集するとあの戦いは冒険者達が敗北したと伝えられているようだった。

あの巨大な敵がその後どうなったのかは分からない様だった。

その後も情報収集を続けていると路地裏の陰から声を掛けられた。


「あの戦いについて知りたいのかい?」

「誰ですか?」

「情報屋だよ。随分と熱心に調べているようだったからね」

「声を掛けてきたということはあなたは詳しいことを知っているんですね?」

「もちろん。ただし、この情報は安くないよ。恐らくは僕以外から知ることはできないからね」


そう言って彼は不敵にほほ笑む。

怪しい。その態度も言動も全てが怪しく見える。

そもそも一介の街の情報屋しか知りえない情報など有り得ないだろう。

あの戦いには多くの国から支援があった。その国まで行けばさらに詳しい話も聞けるだろうと考えてはいた。

単純に現在地の把握に合わせて一先ずの情報を集めようとしていたのだ。


「そう。それが本当ならぜひ知りたいわね。いくらなの?」

「残念ながら対価はお金じゃない」


怪訝そうな顔をする彼女に彼はさらに続けて言った。


「代金は君があの怪物、ジーグモスに再び挑み倒すことだ」


それを聞いた瞬間、咄嗟に飛びのき彼と距離を取る。


「あなた何者?なぜあの戦いを、あの敵のことを知っているの?」

「情報屋だからね。とはいえ、ただの情報屋じゃない。世界の裏側を知る情報屋ってところかな」

「世界の・・・裏側?」

「そう。だからこの情報を買うには覚悟が必要だ。世界の裏側を知る覚悟を。そして再びあのような敵と戦う覚悟が」


そういって、彼はこちらを試すように見つめてきた。


相変わらず怪しいことこの上ないが、彼の言うことを一笑に付すことはできなかった。あの戦いは冒険者側の勝利で終わると誰もが思っていた。あの敵さえ現れなければ。

あの敵、彼曰くジーグモスは突如現れた。近づいてくる気配も、地響きもなく突然目の前に出現したのだ。

明らかな不自然だ。世界の裏側かはともかく何らかの強大な敵がいるのは確かだろう。だが、あの敵にもう一度挑む覚悟があるのか?と聞かれると思わず黙り込んでしまう。あの時の恐怖は忘れられない。あんな化け物相手に人類が叶うわけがない。そう思ってしまうのだ。


「あの連合軍は間違いなく人類にとって世界一と言えるほどの戦力だった。それでもあっさりと敗北したのよ?もし私がもう一度生き残ったメンバーを再結集して挑んだとして勝てるとは思えないわ」

「まぁ、そうだろうね。そのためにも君は知る必要がある。世界の裏側を。そして人族以外の種族の協力も必要になるだろう」

「世界の裏側を知れば、あれに対抗できると?」

「無策で挑むより可能性は高いだろう。もちろん簡単なことじゃないけどね」


確かにあんな怪物が居るような世界であれば、それに対抗するための技術や魔法があってもおかしくはない。それを手に入れることができればあるいはあれを倒せる可能性も?・・・


「待って。あなたの言う裏側の世界っていうものが本当なら、何でそこに居る存在はこちらに攻めてこないの?1体であんな力があるのなら、この世界が今まで襲われなかった理由が分からないわ」

「う~ん、、あまりタダで情報を渡すのは流儀に反するんだけど、まぁこのくらいは君に受けて貰うためのリップサービスとしようか。

とある理由によりやつらは通常の方法ではこちらに来ることはできない。対象に相応の魔力や媒体を使用して呼び出す必要がある。だからあの時、彼らもジーグモスを呼び出すのに相応の労力とリスクを負っていた。

もう一つ、裏の世界でも二つの勢力が敵対している。つまりこちら側に戦力を呼び出せばそれだけ裏の世界では敵に隙を見せることになる。他にも制約とか色々理由はあるんだけど、大きなところはこの二つだね」

「なるほど。確かめようはないけど、一応納得はできる理由ね。最後に一つ教えて。私があの怪物を倒したとしてあなたに何の得があるの?」

「ふむ。特に得られるものはないな。敢えて言えば君の行動で世界がどう変わるのかを観られる権利といったところか」

「何それ。ふざけているの?」

「いや、至極真面目だよ。君に納得して貰えるとは思っていないけどね。そうだな、君に情報を漏らしたところで私に損はない。しかし、タダで教えるのは私の流儀に反する。だから、裏側を知った君がどう行動をするのかを劇の様に見物させて貰う。ということでどうだい?」

「私が話を聞くだけ聞いて、あいつと戦うのを諦めたら?」

「契約違反か。それには当然相応の報いがあるだろう。まぁ、君が諦めたらいずれあの怪物たちによってこちらの世界は滅ぼされるだろうから、君にとってはさほど変わらないと思うけどね」

「あれがまた現れるの!?」

「それはそうさ。でなければこんな提案はしないよ。一時的にとはいえあれが出てきたのは簡単に言えばあちら側が優勢だったから。隙を見せるくらいの余裕があったからだ。このままならいずれ裏の世界はあちら側が勝利し、この世界にも攻め込んでくるだろう」


話していて彼が私にこの取引を持ち掛けた理由が分かってしまった。

恐らくあの戦いを経験していない者がこの話を聞けば下らない冗談だと言って終わりだろう。しかし、私はあの怪物の力を間近で見ていた。あんな存在が攻めてくれば間違いなくこの世界は滅ぶと理解できてしまう。

つまりあの戦いの生き残りである私だからこそ彼は取引を持ち掛けてきたのだ。


「分かったわ。契約成立よ。教えて頂戴。世界の裏側とやらを」

「君に話しかけた甲斐があったよ。これから楽しくなりそうだ」


そう言って、情報屋は言葉通り楽し気な笑みを浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る