第二幕 答え合わせ

第41話 黄金

 オレ、ユウキ、マジカ、ナマグサの四人はエライ王とサチウス姫の二人に案内されて、城の地下深くにあるという宝物庫ほうもつこへと向かっていた。


 地下へと続く螺旋らせん階段をぐるぐる旋回しながら降りた後、長い長い廊下をただ真っ直ぐ一直線に突き進んでいく。


「国王自ら宝の在処ありかまで案内してくださるだなんて、心遣い痛み入ります」


 ユウキがエライ王に慇懃いんぎんに礼を述べる。


「……ふん。宝物庫へと続く通路のセキュリティは厳重で、ワシの掌紋しょうもんやパスコードがなければ開かない扉を幾重も突破しなければならんのだ。他の者に任せられるのなら、お主らの顔など二度と見たくないわ」


 エライ王がそっぽを向いて、そう吐き捨てた。


「お父様、彼らはわたしの命の恩人なのですよ。きちんと客人として扱ってください。それができないのなら、わたしは彼らについて行ってこの国から出て行きますからね」


 そんな父親の態度を、娘のサチウス姫が厳しい口調で咎めた。


「……わかったよ。娘を助けてくれたことに関しては、一応感謝はしている。ただし娘をさらってナナヒカリ王国を危険に晒したことに関しては、不問にするとは言え、忘れたわけではないからな」


「もう、お父様ったらッ!!」


「こっちもはりつけの刑にされて殺されかけたこと、忘れてへんでェ」


 マジカがエライ王に冷ややかな視線を送りながら言い返す。


「何だと、この小娘!!」


「何や文句あんのか、オッサン?」


 しばし睨み合うマジカとエライ王。


「……いえ、エライ王、それで結構です。ボクたちとしては『黄金の財宝』とやらが手に入れば、それ以外は正直どうでもいいので。その代わりと言っては何ですが、ボクたちがどんな方法でサチウス姫を救ったのかについては秘匿ひとくとさせて戴きますが」


「…………」


 実のところ、ユウキが何をどうやってサチウス姫を助けたのか、オレは少しも理解していなかった。


 サチウス姫の話では、気が付いたら元教会の廃墟の瓦礫がれきの下敷きになって倒れていたらしい。それから手に握られていたユウキからの手紙で死の運命から免れたことを知り、急いで城に戻ったのだという。


 だが一方では、ウワバミ様の生贄の儀式はつつがなく終わり、ナナヒカリ王国は存亡の危機から脱してもいる。


 ウワバミ様の生贄に捧げられた筈のサチウス姫が、どうして無事にオレたちの前に現れたのか?


 十字架に磔にされても一貫して余裕の表情を崩さなかったことからも、ユウキが何らかの対策を講じていたことは間違いないと思うのだが……。


「……ふん。ワシとしては娘が帰ってきたことが、本当にお主らの手柄なのかどうかを疑っているところなのだがな」


「お父様、そんな言い方失礼ですよ!!」


 サチウス姫が再び非難の声を上げる。


「わかっているよ、サチウス。約束は約束だ。我が国に伝わる『黄金の財宝』だ。受け取るがいい」


 エライ王が分厚い扉を開けた先には、直径3メートルはあろう赤褐色の丸い岩のようなものが鎮座ちんざしていた。


「……これが『黄金の財宝』?」


「……えーと、何ですか、これは?」


「ウワバミ様の糞の化石だ」


 ――間。


「はあああああああああああああああああああああッ!? 舐めとんのかいワレェ!? これのどこが『黄金の財宝』やねん!?」


 マジカが金切り声を上げて絶叫する。


「……ふん。お主がどんなものを期待しておったかは知らんが、何を国宝にしようがそんなのはワシの勝手だろう。それに学術的価値としてなら充分貴重なものだぞ」


 エライ王がしたり顔で言う。


「おのれはこんなクソみたいなもんを報償にして、自分の娘を助けさせようとしとったんかいッ!!」


「何だと!? 我が国の至宝を、クソとは何だクソとはッ!!」


「いやいや、実際にクソやないか!! 黄金ってまさかそっちの意味とは、普通誰も思わんやろッ!!」


 再をびメンチの切り合いをするマジカとエライ王。


「……ふーむ。まさか『黄金の財宝』がこのサイズだとは考えていなかった。これではこのまま持ち帰るというわけにはいきそうにないな」


 マジカとエライ王が唾を飛ばし合って激しく言い争いをする中、ユウキが冷静にそう感想を漏らした。


「そうだろう、そうだろう!! こんな巨大なもの、運び出すだけでも一苦労だ。諦めて回れ右するのが吉だな!! うん、うんッ!!」


「アホか、お前これウンコやぞ!! 大きさの問題やなくて、姫を助けたお礼にウンコ持って帰る勇者がどこにおんねんッ!!」


「だから、ウンコではないわ!! ウワバミ様の糞の化石だっつーのッ!! これだから教養のないバカは」


「……あん? 頭からつま先まで凍らせたろか、オッサン」


「……確かにこれを持って帰るのは難しそうだが、折角の頂き物だ。ケン、この黄金を真っ二つに切り分けることはできるか?」


 突然ユウキに話を振られて、オレは二度程瞬きをする。


「……ああ、お前の『強化』の魔法でバフをかけて貰えればできなくはない。が、何の為にそんなことをするんだ?」


「単純に中がどうなっているか見てみたい」


 ユウキが何でもないことのように言う。


「やめろォォォォォォォォォォォッ!! 曲がりなりにも国宝を真っ二つにするとか、正気か貴様!?」


「そうやで、ドラゴンのウンコを切り分けるとかありえへん!! もしも中から気持ち悪い寄生虫の化石とか出てきたらどないすんねんッ!!」


 さっきまで反目し合っていたマジカとエライ王が、今度は必死の形相で揃ってユウキを止めにかかる。


「それを聞いて俄然がぜん、中が気になってきた。ケン、やってくれ」


 ユウキがオレの背中にてのひらを当てる。


「いやァァァァァァァァァッ!!」

「やめてくれェェェェェェェェェェッ!!」


 オレはマジカとエライ王の喧しい絶叫を無視して、ドラゴンの糞の化石を剣で一刀両断した。


 ――すると中から、光り輝くが姿を現したではないか。


「……なるほど、糞の化石の中に本物の財宝を隠しておくとは考えましたな、エライ王。これならたとえ賊が宝を盗みに来ても、引き返すのが普通でしょう。正に黄金を隠すなら黄金の中というわけですか」


 ユウキが床の上にへたり込んでいるエライ王に向かって、優しく微笑んだ。


「それでは遠慮なく、『黄金の財宝』は全て戴くとしましょうかね。ボクの仲間たちは金の為なら何往復してでもして運び出すことでしょうし」

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2025年1月11日 00:00
2025年1月12日 00:00

勇者ホイホイの殺人 暗闇坂九死郎 @kurayamizaka

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