勢いだけで書けたら良いのに!

風月 雫

第1話

 読み専を卒業して書いてみよう!


 そう思って自分で書いてみようと思った拓実であった。


 拓也は、1LDKのアパートを借りて自由気ままな一人暮らしをしている。 

 拓也は以前、といっても3年以上前の高校生の時に長編も短編も何作か小説を書いた事もある。


 高校卒業後の進路も決まり暇を持て余していた頃、授業中でもストーリーが思いつけば、ひたすら書いた。長編は某出版社のコンテストで入賞を頂いたこともある。


 あの時は、書けた! のだ。


 ある程度のストーリーのイメージが出来上がっているのに、今、また書いてみようと思って下書きで文字を並べて、早1年。何故か当初思い描いたストーリーとかなりかけ離れてしまった。


 そして、拓也のノートパソコンのキーを叩く手が待たしても止まる。


「ああ、また止まってしまった。クソ! こうなると、また暫く書けない……」


 拓也は項垂れた。

 気分転換にノートパソコンを持って公園で書こうと思っても、拓也の手はやっぱり動かない。

 動いたかと思うと、入力した文字をback space で消す。更にまた文字を入力して、納得できずまた消すの繰り返し。


 いつになったら第一章が書き終わる?


 ストーリーが思いつく時は、一気に書けるのに。


 その時は、勢いがついてきた!! 書けるぞ! と思うのだが、400文字ぐらい入力すると、手が止まる。


 そんな繰り返しで、ある程度の話を作り上げた拓実だが、もう一度最初から読み直すと、????


 話が噛み合わない? 思い描いたエンディングに繋がらないのではないか? と頭を抱え込む拓実であった。


 最初は5万文字程度に終わらせようとしていた。なのに気付けば、話は3分の1ぐらい進んだと思うが、すでに5万文字を超えてしまった。


「あー、もう! 最初はこんなストーリーにしようと思ってたのに、気がつけば違うじゃないかー!」


 、話が変わってしまったらしい。


「どうしよう! このストーリーは別の話で書こうと思っていたのに、今のストーリーにくっつけてしまった」


 別の話を頭の片隅に置いてあった物が、気が付けば今の話に混ざってしまっている。


「拓也って、欲張りなんだよ」


 たまに遊びに来る友人、克己が言う。

 克己は高校からの親友だ。高校の時に書いた小説を読んでもらって、変な文章や誤字脱字を見てもらった。


「欲張りってなんだよ! こういう話も書きたいなって思っていたら、今の書いている話にいつの間にかくっついてるんだよ」

「それを欲張りっていってんの。今、書き続けている話があるのに、別の事を考えるから一緒になるんじゃないか? まるで彼女がいるのにも関わらず、他の子にも興味を持って話しかけ、結局二股かけてるって感じじゃん」


「お、俺、二股なんかしない」

「例えばの話だろ? 彼女もいないくせに」

「それを言うなら克己だっていないだろ?」

「俺はそこそこ良い感じの子いるし」

「えーーーー! どんな子?」


 克己はソファに座って、パリッとポテトチップスを食べる。そんな克己を見ながら拓也はため息を吐いて、出来上がった所までの話を克己に見せる。


「ほら、読みに来たんだろ? ネットに上げる前に読んでみて」

「おう、読んでやるか……あんまり進んでなくない? 高校の時に書いていたやつ、案外と早く書いていたと思うけど」

「あの時は、何人かで回し読みしてただろう? 早く続きを書いてこい!って言われててさ、寝る暇惜しんで書いてたよ」

「ははは、そうだったな。目の下にクマなんか作ってたよな」

 

 拓也はベットの上に寝転んで、途中でくっつけてしまった話をどう進めるか、頭を悩ましている。


「なぁ、拓也。この話、悪く無いんだけど、ありきたりじゃないか?」

「ありきたり?」

「ああ、結局この主人公って聖女だったり、聖女に覚醒したりって話なんだろ?」

「今はそんなつもりは無いけど」

「え? じゃあ、どんなつもりなんだ?」

「それ、言ったらネタバレなるじゃん!」

「……そうだな……」


 そう、今は――そんなつもりは無い。しかし、よく考えていない。書き始める前は、大まかなストーリーを拓也は考えていたはず。


 考えていたはず――。

 なのに、勢いで書いてしまった時は、登場人物も増え、ストーリーも違う方向に行ってしまい、気付くと「あああああぁああああ! 設定を変えてしまったー!」と叫んでいた。




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