第4話
『ピコ、ピコ、ピコ、ピコ、ピコ、ピコ』
時計のアラームが鳴った。
拓也と克己が同時にガバッと起き上がった。
「ああーーー!! いつの間にか寝てしまった!!」
「あー、俺も……」
どうも二人は途中まで狸寝入りをしていたようだったが、そのままいつの間にか寝てしまったようだった。
二人とも頭を抱え込んでいる。
拓也は、机の上に無造作に置いたはずのスケッチブックと色鉛筆を見た。色鉛筆はケースから出してあったはずなのに、綺麗に並べて入っていた。
「色鉛筆……綺麗に入ってるな」
「うん、しかも寒色系と暖色系に分けて入っている。かなり几帳面な入れ方だよ」
二人は顔を見合わせた。
「俺じゃないよ」
「俺だって違う」
拓也が恐る恐るスケッチブックを広げる。
「「……っ!」」
そこには一人の少女が描かれていた。
紫の髪を後ろで結び和装を着て、金色の瞳でこっちを見つめるように描かれている。 赤をベースに白い小花を散りばめられた丈の短い浴衣にふわっとしたもんぺ風のズボンを履いた女の子だった。背には矢筒を背負いその中には、矢が数本入っている。
「これって……変わった衣装だけど、結構かわいいじゃないか?」
克己はスケッチブックを眺めながら言う。
「う、うん……そう、だね」
拓也はその少女を思い見る。何か様子が変な事に克己は気付いた。
「どうした? 拓也」
「う、うん。それがね……そう、悩んでいたんだ。和服っぽい衣装を着た女の子のキャラクターを。どんな風にしようかなって……」
「え? 悩んでいた?」
「漠然としたイメージしかなくて、困ってたんだ……」
克己の眉間に皺が寄った。
「それは、登場人物の漠然としたイメージがあったけれど、細かなことまでは迷ってたら……寝ている間に誰かが、スケッチブックに描いてくれたって事?」
う、うん、と拓也は頷いた。
「やっぱり、拓也が寝ぼけて描いたんじゃないのか?」
「それは、ないよー。多分……」
なんだか自信なさげな拓也である。
克己は腕を組みながら、うーんと唸る。
「やばいな。こんな事ってあるか? 普通ないよな」
「普通は、ないよー。何だか怖いよー」
克己はチラリと拓也を見る。不安そうな顔をしているのをみた面倒見の良い彼は今日も拓也の部屋に泊まる決心をした。
「よし、今日も粘ってみるか!」
「おー!!!」
拓也は、やったー! と心の中で叫んで右手を天に突き上げた。今日もではなく、今日はだけど。
「もうそろそろ、寝るか? おい、拓也。今度は寝るなよ」
「うん。大丈夫。克己もね」
ベットとソファに分かれて寝転んで、こそこそと話していた。机の上には、スケッチブックとわざと散乱させて置いた色鉛筆が転がっている。二人は寝たふりをした。
『カチ、カチ、カチ』と目覚まし時計の秒針が、静かな部屋に響く。時計は午前2時を過ぎようとしていた。
「ねぇ、どう?」と小さな声が聞こえた。
「ちょっと、待ってって。確認してみる……」
「大丈夫かな? 大丈夫かな?」
「大丈夫、寝てるよ」
「じゃあ、今日は何描く?」
「何で悩んでたかな?」
「川かな?」
「川だ」
「よし。描くぞ」
「うん」
カーテンの隙間からの月明りだけで、シャッシャッと鉛筆で描く音が聞こえた。
いくつかの声が聞こえ恐怖心がある中、拓也は恐る恐るそうっと片目を薄く開ける。一瞬何か見えたけど、すぐに目を瞑った。
一瞬見えたけど、小人? でも背中に羽根が見えたような気がする。あれって……?
拓也はもう一度目を開けようとするけれど、勇気が出ない。目を開けれない分、耳を澄ます。
「ねぇ、川の水って何色?」
「青?」
「水色?」
「緑色?」
可愛らしい声が聞こえる。二人はその声に段々と恐怖という感情が無くなってきた。
「ねぇ、もうそろそろ明るくなってくるよ」
「片付けるよー」
「「「はーい」」」
小さな声がこだまするかのように幾つもの返事する声が聞こえ、暫くすると何も聞こえなくなった。ただ『カチ、カチ、カチ』と秒針が時を刻む音だけが聞こえる。
拓也と克己はそっと片方の目を開ける。何もいないことを確認するともう片方の目を開け、ガバッと勢い良く起き上がった。
2人は、顔を見合わせ机のほうに目を向ける。やっぱり色鉛筆はきれいにケースの中に片付けられていた。
スケッチブックには川の風景が描かれており、川辺には紅葉の木が生え、その木が川に映り込んでいる絵だった。
朝日の光がカーテンの隙間から差し込む。
「綺麗な色遣いしてるな」
「うん。綺麗な絵だね」
「見たか?」
「うん。見たよ」
「小さかったな」
「うん。小さかったね」
「「……」」
何故か黙りになった二人。
「見間違い? 夢でも見てたか? 信じられないんだけど……」
克己が拓也の頬を抓る。
「いっ、痛い! 何すんだよー、克己」と拓也は抓られた頬を撫でながら言った。
「痛かったか? 夢じゃないよな?」
克己は夢かと思ったらしい。それでも、未だに信じられないと言った感じで首を捻っていた。
「だからって、俺の頬を抓らなくても……」と呟いた拓也に、「悪い悪い」と謝る克己だったけれど、それでも、未だに信じられないと言った感じで首を捻っていた。
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