ザドア王国 ランドック 昼下がりの天使たち
司令部から出てくると、いき込んでやって来てただけに拍子抜けした気分になり。このやる気はどうすれば良いんだろう、と。
(イネス姉達が向かった軍格納庫にでも行ってみるか。放っておいて暴れてても怖いし)
俺達傭兵用のキャリア置き場から少し離れた場所にある軍格納庫に向かっていると、人だかりが出来ているレストラン?があった。兵士達の人だかりが出来ていて、奥が良く見えない。
「こんな前線近くで流行るなんて、どんなメニューがあるんだ……」
前を通りながら店の中をチラッと覗くと、ジョッキを片手に5個ずつ持ちながらテーブルの間を軽やかに歩いているメイドがいた。
「おねぇさ~ん、こっちにも揚げ鳥お願いします~」
「こっちも頼んだ飲み物まだ来ないんだけど~」
「あぁ?全く黙って待てねえのかよまったく。こっちは忙しいって言ってるだろうが」
奥から、小さく見覚えのある頭が見えたと思うと、そちらは片手に持ったジョッキを重そうによちよちと運んでいる。
「はいは~い、飲み物お持ちしました。遅くなってごめんなさいね」
小さなメイドさんを、周りの兵士達は微笑ましく眺めていた。
(はぁ~~)
その光景を目の当たりにし、ため息しか出なかった。
「あ、いらっしゃいま……お兄ちゃん?!」
「いらっ、
「はぁ~、二人してこんなところで何やってるだよ。資材調達に行ったって聞いたけど?」
「いや、今は忙しくて話してる場合じゃないんだよ!料理と飲み物捌かないと!!」
「そうそう、バスク兄ちゃんも手伝ってよ!!はい、これ向うのテーブルに持ってって!」
「え?!なんで俺まで~?!」
流されて料理をテーブルに届けるが、行く先々で舌打ちで返される。
「はい、料理おまたせしました~」
「ち、なんでお前なんだよ。俺はルクレちゃんを待ってたんだよ」
「俺は断然イネスさんだよ。あのたわわな胸と引き締まった腕に絞められたい」
「俺はルクレちゃんのあの小さい足で踏まれたい~」
「イネスさんに決まってるだろう。あの冷たい目で見られるだけでもう俺にはご褒美だよ」
(兵士達がこんな感じでこの国大丈夫か?)
「はいはい、男が持ってきてゴメンね~」
修行僧のようなその責め苦が、兵士の昼休憩1時間×3交代で計3時間のランチタイムを、ただ無心でこなしたのだった。
やっとランチタイムが落ち着いた所でやっと休憩に入り、奥のテーブルで座り二人に尋問を始める。
「で、結局俺も付き合ったけどなんでこの店でメイドで給仕やってる?」
目の前で二人のメイドがモジモジしているのはちょっと癖になりそうだ。
「いやぁ、それが格納庫に行ったら急に来ても部品は渡せないって言われたから、仕方なしに帰ろうとした時にここの女将に話しかけられて、着替えが用意されてて気付いたら手伝ってたんだよ」
「いや、何言ってるんですか」
「ごめんねお兄ちゃん。私がこのお洋服着てみたいってお姉ちゃんに言っちゃったの」
「ルクレは悪くない、むしろ可愛いよ。そういった洋服が良いなら今度買っておくよ」
「あー、ルクレには今度アタシが一緒に選びに行くんだ、
その言葉にルクレは青い顔でドン引きしてイネス姉から距離を取る。
俺もルクレが可愛いがそこまでは同意できない。
「あいよお疲れさん、お昼はありがとね~、これ賄い。人違いだったみたいでゴメンね~。今日から来る予定だった人が夜からになるって知らずに目の前にいたこの子達に声掛けちゃってね。この子達も断らないもんだからつい私も勘違いしちゃって本当に。ああ、賄いた~んと食べてってね」
「はぁ、そういうことか」
(女将さんが新人店員と勘違いして、ルクレが制服が着てみたいってのにイネス姉は引っ張られた訳ね)
「そういう事だったら、働い分はここの料理頂きますか」
「うん、お兄ちゃん」
「そうだな、結局運んでばっかで食べてなかったからな」
女将が出してくれた料理は根菜と芋のスープ、鳥と豆の炒め物、豚の燻製肉に刻んだ野菜に柑橘系のソースが付いていた。
「このソース旨いな。この燻製肉ともよく合ってる」
「ホントだ、美味しい~」
「このスープもちゃんと塩に香辛料使ってるな、これもなかなか」
賄いを美味しく頂いている3人のテーブルに一人、歩み寄ってきくる。それに気付いた俺とイネス姉は食べる手を止めずに目配せし、会話は止めない。
「そうだろう、ここは他より物資が優遇されてるんだよ。だからおの町だと塩や香辛料が手に入りやすいんだよ」
テーブルの横まできたのは、女性騎士のようだ。剣を帯びていて、友好的な表情には見えなかった。
「おい、あんた達が例の騎士か?」
バスク剣風譚~カレグリン戦記 水武九朗 @tarapon923
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