ザドア王国 ランドック キュベー撤退後 戦勝理由の追求<吊られた狸>

 ムスペイム軍がオルガ戦線から急行した援軍により、キュベーを取り返した。

 オルガ戦線から回されてきたAG《アネモイ・ギア》は7機と伝わると、ザドア軍は、キュベーへの破壊工作嫌がらせをする暇も無く、元の国境線に向けて撤退を開始。

 これにより、ザドア軍によるムスペイム侵攻作戦は撤回を余儀なくされた。

 俺達の機体は、大破扱いで応急修理では戦線復帰は不可能という事で、機体をキャリアでランドックに運んで戻ってきた。


「よく二人とも生きてましたね。相手は銘持ちですか。へぇ~、まぁ今のお二方程度のお力なら、銘持ちにもこれ位やられるでしょうね。うん。まぁ仕方ないんじゃないですか?お二人の力ならこんなもんでしょう」


 機体を見たハボックはからは、皮肉たっぷりのお言葉を頂き、それ以降は淡々と業務的な話し方をされた。

 ルクレはと言うと、壊れた機体を見て大泣きし、それからは黙々と機体の修理に取り組んで、この撤退、もとい戦略的移動中も一切口を聞いてもらえてない。食事中も休息中もだ。


 肩身が狭い俺とイネス姉は、少々体に打撲と筋肉疲労があったが、キャリアの運転を買って出ていた。


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 キュベー戦で無事な機体は、国境線の防衛の為に近くで敵軍の追撃に備えている。

 ランドック砦でも臨戦態勢は継続されており、その中で機体の修理を急いでいた。機体が修理中の騎士にできることは3つ。傷の治療と鍛錬、そして資金の確保である。


 そんな中、ランドック砦の一室で今回の侵攻に関する会議が行われていた。

 出席者は侵攻軍の司令部と各部隊長、そして王城からザドア王国宰相ヒュースベルグが出向いてきていた。宰相が王城を離れる、という異例の事態である。そのため、この会議は敵襲以外中断を許さないよう通達がなされていた。


「国王陛下より、今回の侵攻作戦に関する国としての判断を任されてこの地に来た。報告書には目を通したが、腑に落ちない点が多々あったので、直接貴君らに話を聞こうとこの場を設けた次第だ」


「それは、現在の戦況に関しての責任は全て司令の私にあります。処分をお考えならまず私からお願いします」


「ハンセル司令、私はそういった話をしに来たのではない。王も私も、我が軍は成果を上げたと思っている。なにしろ、双角騎士、紅黄騎士を退け、鉄壁キュベーを一時といえども陥落さたのだ。これはムスペイムに大きな打撃を与えた事になろう。筆頭騎士の敗走させ、ムスペイムの意識が我が方へ向けば、オルガ公国にとって十分な助けになっただろう」


「はい。それは前線の騎士の働きによるものです」


「そこですハンセル司令。どうも報告書では、それらの銘有の両騎士を退けたのが騎士ランドルとあります。記録をみると騎士ランドルはこの戦場が初陣だったようですね?それが二人の銘持ち騎士を退けた。しかも機体の損壊は軽微と書いてある。我が国に非常に優秀な騎士がいた、と私は王に喜ぶべき報告をすれば良いのかなハンセル司令?」


「あ、いやそれは……」


 ハンセルの反論を遮り、ヒュースベルグは鋭い目線を出席者の一人に向ける。


「それとも、この報告書を書いた張本人がここに居るのだから、そちらに聞いた方がいいかな?なぁゴッソン君?」


「は、はいぃぃ!!」


 視線に竦み上がり、反射的に椅子から立ち上がる。額から大量の汗が流れ落ちる。


「この騎士ランドルは訓練校での成績は中の下。教官たちの評価も言い方は悪いが騎士に上げたのはギリギリだろうだ。特筆するような特技もなかったが、本人の誠意と努力する意思があった事で騎士にした、との話だった。で、その騎士が銘持ち騎士二人を、うち一人は右翼5機を倒したような騎士を相手にして退けたという。なぁゴッソン君」


「は、はいぃぃ。私はそのように報告を受けておりま……」


 ゴッソン左翼部隊長が言い終わる前に、宰相ヒュースベルグの言葉が被せられる。


「そのような新米騎士が銘持ちより勝るというのであれば、我が国の騎士は特段に優秀で帝国本土にも勝る戦力となるが、そうなると今回の甚大な損耗との説明がつかないんだよ。なぁゴッソン君?この騎士ランドルは君の甥御だそうだね。この辺りを説明してくれないかなゴッソン君?」


「あ、あああ、あの戦闘隊長を務めた騎士は戦死しており、生存した騎士の報告を受けて作成した次第であります。我が国の騎士はき、極めて優秀であると自負しております!!」


「ほう、そういう事ですか。生存した騎士の報告をねぇ……。じゃぁ」


 と脇に控えていた副官へ目配せすると、副官は扉を開けてると、そこに居る人物を室内へ招き入れた。


「お、お前は!!」


「どうも初めましてだね。自己紹介してくれるかな?」


「はっ!ムスペイム侵攻軍左翼部隊所属騎士ランドルであります」


「さぁどうぞ座り給え。いやなに、我が国の英雄とも言うべき働きをした騎士を、立たせたまま話を聞くなんて滅相もないだろう?」


「いえ、私はそのような働きなどしておりません!!立ったままで結構であります」


 ゴッソンは膝から崩れ落ちるように椅子に沈んでいった。


「いやいや、銘持ち二人を相手に機体に大した傷も追わずに退けた、これだけの成果だ。我が国を背負う騎士といっても過言ではないよ?」


「いえ、私は戦場で1機も倒しておりません。それどころか、私は敵を前に隊長が倒されたのを見て無様にも味方に倒れ込んだのです。これは左翼部隊長殿にもそう報告しております。ここへ呼び出しを受けたのも、責を問われるものと覚悟しておりました」


「ほう?であれば、そちらの部隊長から上がってきた報告と違うねぇ?君が銘持ち2機を倒したとの報告が上がっているが?」


「私がご報告いたしましたのは、私の醜態と傭兵騎士エイネスフィール殿が双角騎士を、傭兵騎士バスク殿が紅黄騎士をそれぞれ退けられたと申し上げました!」


「おやおや?傭兵騎士殿が?それはそれは、我が国としては丁重に報いるべきであるな。粗雑に扱って敵国ムスペイムにでも行かれたらそれこそ目も当てられん。それどころか、我が国への登用を考えねばならん。ところでゴッソン君!君は私の問いに答えれくれたかね?あぁ、そうだった、それは騎士ランドルが答えてくれたんだったな。君に聞きたいのは、騎士ランドルの証言と君の報告が違う理由だよゴッソン君?!!場合によっては我が国を内部より切り崩す反逆とも取れる内容だよ?」


「い、いえ!!決して私はそのような」


「よく考えて返答したまえよゴッソン君。君の意思がどうあれ、君がした事は国の為にはならない事だよ?私の所で気付いたから良かったものの、王にまで上げていたら、英雄騎士ランドルが誕生していた、かもしれないねぇ?」


「あ、ああっ……」


「言いたい事はあるならはっきり言わないとねぇ、ゴッソン君」


「わ、儂は間違って無い!!そもそもなぜ儂が司令官じゃない?!!なぜハンセル如きの下に儂がつかねばならんのだ!!貴様もだヒュースベルグ!!貴様ら平民出の分際で貴族の儂の上におるのだ!!」


「なるほど、ではその問いに答えよう。君はこれまで与えられてきた職責を果たさず周囲の足枷となり、ただ身内を重用する事しかしてこなかった。知っているか?君が参加した作戦全てが失敗しているのだ。兵士にとっては当たり前の陣地設営や補給路の確保、哨戒任務から、果ては調達物資の運搬まで。その度に君が上げた報告書に原因として上がってきた者が責任を取ってきた」


「そ、そうだ!!いつも儂の足を引っ張り邪魔をしてきた奴らのせいだ!!」


「そんな君が今回のような国の趨勢を掛けた大規模な作戦に参加したと聞いて、私も信じられなかったよ。人一人が理由でこれだけ大きな作戦が失敗したとは思わないが、君の報告書を見ると、どうやら今まで君が上げてきた報告全てを見直す必要があるようだねぇ」


「なにを言っとる!!今回も傭兵なんぞが手柄を上げるなんぞあってはならんのだ!!その役目は儂が!儂の家が相応しい!!」

 ヒュースベルグが片手を上げると、駆け付けた兵がゴッソンを両脇から拘束した。


「君の振舞いは国家運営を預かる者として見過ごせない。今の君の発言も態度も、だ。君にはしばらく牢の中で裁きを待つと良い。過去の事件も洗い出した上で、法の下に裁かれよう。連れて行きなさい」


「何をする貴様ら!おいこらランドル!!儂を助けんか!!!」


「叔父さん、貴方はなんて人だ。僕の無様な初陣の上、命の恩人の手柄を盗ませたなんて。これでは、僕は王にあわせる顔が無い」


「ええい、放さんか!このままでは済まさんぞ……」


 ゴッソンは叫び声と共に、部屋から連れ出られていった。

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