ザドア×ムスペイム 城塞都市キュベーの戦い 攻城戦①

 夜が明けて、朝日に5機のAG《アネモイ・ギア》が照らされる。総攻撃ということで、隠していた機体も全てを出してきた。

 騎士は機体の前で、各自起動の合図を待っている。

 目前の城を外から見ている印象は、ここに着いてから動きがない。俺達がここに辿り着いた時には、既に準備万端って事なんだろう。だけど、ここまで警戒していて

『実は城が空っぽでした』だったら自分の不甲斐なさで、みんなに顔見世できない。

(俺の見込みが外れたら楽できるけど、それはそれで自分が無能って事で辛い所だ。でも何か居る直感はしてるんだよなぁ)


 小鳥が木の枝でさえずり、空を見上げると、抜けるような青空が広がっている。

 いい天気だ。

 こんな日でも、これからもうすぐ泥臭い殺し合いが始まるのだ。



『こちら総司令部。待たせたな騎士の諸君、各々機体に火をいれろ!ムスペイムへ我らの力を見せつけろ!!我らがザドアに勝利を!!!』


 通信機から司令部からの出撃命令が下る。地上兵達から歓声が上がる。

 ザドアに所属する騎士たちは通信機に敬礼したり、兵士達に応えるて手を振っている者もいる。その声を背に騎士たちは各々機体に乗り込んでいく。

 流れ者傭兵の俺達にも、兵士達は関係なく声を上げる。地上の兵士たちは、AG《アネモイ・ギア》同士の戦闘で負けたらそのまま退却する事を解っているからだ。

 AG《アネモイ・ギア》の出現以降、兵士の仕事に大きな変化が起きた。兵士から戦闘行為が無くなったのだ。そして、戦場で大きな比重を占めることになったのが、AG《アネモイ・ギア》の補給、運搬、整備作業だった。

 これにより、戦争での死亡者が減ることで、戦争に反対する領民が減ってしまい、領主達は存分に自らの私怨私欲を理由に戦争が出来てしまう。

 そのため兵士達からすれば、戦争とは、自らの生死を賭ける場所から、AG《アネモイ・ギア》同士の戦闘を間近で観戦できる場所に変わっていた。

 それが3倍の数で都市を囲んでいるのだ。遊興気分になっている兵士達が多いのも仕方ないだろう。

 そんな勝ち戦で物見遊山な兵士達が、旗色が悪くなった瞬間、どれだけ混乱状態に陥るんだろうか。


『左翼隊長のゴッソンである。左翼部隊全機、敵城門を破って突入せよ!今回の作戦は右翼側との連携が重要となる。くれぐれも各機遅れるでないぞ!!』

(昨日とは打って変わってまともな事言ってるな。ん?秘匿通信?)


『おお傭兵の。我らが左翼は、我が領の騎士が先行する。お主たち2機は後方の警戒だ。昨晩言った事は覚えておるかな?』


「……了解しました。貴国の騎士達が手柄を上げれるよう支援しましょう」


『うむ、よろしい』


 ふー、と深く息を吐いた。

(心変わりはしないよなぁ、やっぱり)

 ブル・ガ・ルーンへ通信を繋ぐ。


「イネス姉、部隊長から作戦指示が来た。俺達は3機の後ろから支援だとよ」


『なぁにぃ~、てめぇ俺が暴れるんじゃななったのかよ、あぁん?』


「後ろから見物するのは敵の隠し玉が出てくるまで、だよ。それに、前の3機を落とすような相手だったら面白くないか?」


『う~~んっ、確かに。そんな奴が出てきたら確かに燃えるなぁ。うっし、そこまではぼんのケツでも舐めといてやるよ』


「おう。じゃぁ、それでよろしく」


 戦力が拮抗している場合、傭兵の方が前に出される方が正道だ。今回みたいな勝ち戦で、尚且つ身内が欲に目を眩んでないとこんな事態にならない。もしかすると、3機の中に隊長の身内がいて、手柄を立てさせたいのかもしれない。


『左翼部隊いくぞ!!』


 先頭の騎士が城門にたどり着くと、脇の1機が、持ってきた巨大なハンマーで門扉を叩き壊す。十数回目で、片側の門扉が歪み、そこから機体の腕を入れて扉を強引に引き剥がした。

 門扉がはぎとられ、城内の様子が見えてくる。中央の城へ続く道は機体が何とか2機が通れる程度も幅しななく、戦闘するなら1機が精々だろう。その両脇は建物で塞がれていて、脇道の幅は狭く、攻め入るには1機ずつ進むしかない。

(こういった形で数の不利を抑えに来たか)

 こちらからは3方向から攻め入っていても、数の差は騎士の実力で埋められる。そして、相手には攻め手をはじき返す自信があるのだろう。


『左翼部隊本部へ、城内に兵の姿は見えず。道が狭くて1機通るのがやっとだ。これより、都市中央に向かう。よし、全機抜剣!!』


 先頭の機体から、狭い道を進んでいく。後衛の俺達2機は少し離れて、前後挟撃を警戒しながら進んだ。


『ふふ、はっはっはっ。来たなザドアの木っ端共!我はムスペイムの騎士ゴフレッザ!!ここを通りたければ我を倒していくがいい!!!』

 オープン回線!?


『ゴフレッザだと?!あの”双角騎士”ゴフレッザか?!!ムスペイム随一と呼ばれる騎士がここにいるとは。だが、たった1機でこちらの数を相手にする気か。フッ、ならば丁度良い。その評判が正しいかどうか、俺が試してやる!!』


 先頭の騎士よ、説明どうもありがとう。

 相手が二つ銘持ちの騎士か!!騎士の二つ銘は、それ相応の強さと手柄を上げた事により付けられる。何より二つ銘が付いてその名が知られてからも、生き続けているという事は、それだけの強さを持っていることだ。


『ガッハッハ、威勢が良いな。では我が銘が偽りでない事を示そうか!!』


 機体は双方同じゲロル・ハザンだが、双角騎士の機体にはその銘の通り頭の側面から2本の角が付けられている。

 獲物としては、こちらの騎士は長剣だが、双角騎士はハンドアクスと左腕にシールドを追加している。腰に長剣も提げているようだが、狭い場所だと長い剣を横に振り回すのは難しいので、それよりも短く獲物の重さで勝るハンドアクスを持っているのは、この狭い道は相手に有利と考えざるをえない。

 長剣を上から振り下ろすが、シールドで軌道を反らされ、下から振り上げられたアクスが胴体の横腹に刺さると、右足で機体を押し倒される。

 足で押し倒された機体が、道の横の建物に埋まるように倒れ込む。倒れた機体で、狭い道がさらに狭くなり、こちらが押されればその狭い場所で戦う事になる。


『フハァ、どうかな?双角騎士の腕前は。噂と違ったか?それより強かったかな?アッハッハ』


 倒れた機体の頭にとどめと言わんばかりにハンドアクスを叩き込んだ。


『うぇぁ、本物だぁ~』


 怯えた騎士の機体が後ずさり、後ろの機体にぶつかって2機が絡まるように倒れ込んだ。

 狭い通路に、絡まるように機体が倒れて道を塞ぐ。


『なんだ?労せず我にもう2つ星をくれるとは有り難い』


 こういった狭い場所で、多勢が不利になるお手本のような失敗を味方にされると残念な気分になる。

(狭い場所だって解ってるだろうに全く)


『どうりゃーーーーー!!』


『なんと?!』


 倒れている2機を飛び越えて、プル・ガ・ルーンが飛び蹴りを浴びせるが、ゴフレッザは盾で受けて直撃を避けた。


『喰い甲斐のある相手がいるじゃねぇか。こいつは俺が貰うぞぼん!!』


「わかった。ここはイネス姉に譲るよ」


『はっはぁ、聞いたか牛野郎!!喰いごたえのねぇのばかり相手だとおめぇも退屈だろう?俺が遊んでやるよ』


『ぐふっ、ふはっはっは。我にそのような言葉を吐くか!!先ほどの蹴りと言い、面白い!!マリーナの奴とどちらが先に片付けるか秘蔵の酒を賭けておったが、貴様がその変わりになるかな?!』


『ふぅーん、もう一人いるのか。こいつはアタシが貰ったから、そいつはぼんにくれてやるよ』

(また無茶をいうなぁ、この狭い場所で。でもまぁ、足場がないことも無い、か?)


「イネス姉、上から行くからお願い!」


『おう!!』


 プル・ガ・ルーンが上段に構えると、ゴフレッザはその剣を受けるよう盾を上に構えた。


『くるか!!』


 前後左右に余裕もない場所で助走もままならない。そこで俺は、倒れて頭をつぶされた味方機体の肩を足場にして、道沿いの建物に足をかけて飛ぶ。倒れた機体を飛び越えて、相手が構えた盾を踏みつけた。


『おぉう?!』


「じゃぁ行ってくる。死ぬなよイネス姉」


『誰に言ってんだ誰に!!』


『ほほう、我を踏み付けていくとは!!あちらの騎士は中々やるようだ』


『へ、アタシより劣るけどな!!』


『ふ、ならばマリーナの奴も退屈すまい!!』


 2機の打ち合う重い金属音を背に、都市の中心部に向かう。

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