ザドア×ムスペイム 城塞都市キュベーの戦い 攻城戦②
右翼側が突入した町の反対側でも、AG《アネモイ・ギア》同士の戦闘によるものだろう煙が上がている。
その煙が、俺も向かっている都市の中央に近づいて来ている。
都市の中央部に進むと、開けた場所に出た。
(中央庁舎周りの公園?なのか)
俺が来たのと反対側のからガムス・ルサが出てくる。その手には右翼部隊のものであろう、ゲロル・ハザンの首を持っていた。
『へぇ、双角騎士を抜けてくる奴が居たのかい。で、あんたは双角騎士に勝ったのかい?』
「あんたがマリーナか?いや、ちょっと足場にして飛び越えてきた。今は別の者が相手をしてるよ。そいつは俺と同じくらい強いけど、あなたはどうかな?」
『そうかい?それじゃぁあんたを倒してそいつも倒せはアタイの方が強いってことになるよな!!』
持っていたゲロル・ハザンの頭を、大きく弧を描いて放り投げてくる。
その瞬間、相手は身を屈めて駆け出してくると、こちらも空中の頭の下を潜り抜けるように走り出す。
互いに剣を構えて速度を上げる。
間合いに入ると、互いに突きを放つと、両機とも勢いをそのままに駆け抜けた。
相手の機体が剣を落とす。
俺の突きは、相手の右前腕部を貫いていた。しかし、こっちの機体の左肩が削り取られていて動かない。
『畜生が!!利き腕狙いやがって!』
「そっちも口だけじゃないようだな。」
『はぁ?ゴフレッザにアタイの名前聞いたんじゃねえぇのかよ』
相手は落ちた剣を左手で拾う。
「?名前は聞いたけど?」
(距離がある。不意打ちは無理か)
『そうか、あー、そりゃぁ済まない。そこまで名前が売れてると思ってたアタイの自惚れってこったな。じゃぁ、改めて自己紹介しよう。アタイはマリーナ。傭兵騎士、”紅黄騎士”、
(やはり二つ銘持ちか!角持ちの言いようからそんな感じはしてたが)
『二つ銘の由来を教えてやる!
左手で剣を握った相手は間合いを詰めてくる。
「そうなの?それはこっちが知らなくて済まなかったよ。俺はバスク、流れの傭兵だ」
機体には左右どちらの手が利き腕か、というチューンをする騎士もいるが、そもそも潰した右が利き腕かもブラフの可能性もある。
こっちの機体は左腕が動かないので、腕を振り回してのバランスが取れないから、急な方向転換はバランスを崩してしまう。
『あんたがアタイの事を知らないのは仕方ないけど、あんたの名前も知らないねぇ。アタイの腕を取るような奴の名を私が知らないなんて』
「それもあんたの自惚れかもよ?俺くらい名の売れてない騎士に負けるようじゃぁ、二つ銘が軽いんじゃない?それに、”可憐”って、自分で言ってて恥ずかしく無い?」
(こんな見え見えの挑発に、乗って来てくれたら楽なんだけどな)
実際は、右翼の5機をあの短時間で落としているのだ。二つ銘持ちに相応の強さを持っているのだろう。
『……ッ、てめぇは殺す殺す殺す殺す!!ぶっ殺す!!』
剣を振り上げて襲い掛かってくる。
(挑発が効いたの?)
ここで、昨夜確認したオプション装備をONにする。
上から斬りかかってくるのを剣で受け止める。が、そのまま力で押し込まれていく。
『ほぅらほ~ら、アタイは強いんだよ!美しいんだよ!!このまま潰れちまえ!!!』
そこで、奥の手の引き金を引く。
ウル・ダ・ルーンの胸部が弾ける。
相手の首を狙った散弾が跳び出す。頭部から胸部にかけて広範囲に中り、頭部カメラを破壊する。
『な、カメラが死んだ!?』
視界を奪った瞬間、動きが止まる。
その時を逃さず剣を振り払うと、払った剣でよろけた先の、相手の頭部に剣の柄を突き立てる。
「まだだ!顔を潰しただけでは止まらんだろう!!」
剣の柄を引き抜きながら振りかぶると、相手の左肩へ剣先を一気に振り下ろす。刃が相手の肩にめり込み、相手の機体は膝から崩れ落ちて、停止した。
こっちの機体は、剣を振り下ろした動作で動力系統が駄目になったようで、機体の動作が止まった。
この機体につけられたオプションは、両脇から射出する散弾だ。射程が極端に短く、装甲を破るには剣一本分より内側の間合いに入らないといけない。
それより距離を取ると、弾が装甲にめり込む事もなくはじかれる程度の威力でしかなく、そして勝負に剣以外を持ち込むのは騎士の倫理に反する行為でもある。しかし、それは生き残った者が勝者となる戦場の流儀を旨とする傭兵とは異なる。
長い目で見ると、そんなオプションを使いこなすよりも、使わずに済むように強くなる方が手っ取り早いが、今回のような僅差の勝負になると、奥の手として使えなくもない。
しかし勝ったといえど(相手の機体を動かなくしたのだから俺が勝ったはず)も、こっちの機体は何とか立って剣を握っているだけの状態だ。今敵に来られたら簡単に倒されるだろう。
取り合えず周りを見回すと、相手機体の操縦席が開き、騎士が出てくるのが見える。
30、いや40台か、20台って事はないだろう。大型類人猿に似た猿顔の、お世辞にも美人とは言えないような女性?が出てきた。
(なんか叫びながら逃げてく……。二つ銘って見た目じゃなくて花言葉の方じゃぁ)
ちなみに、
「嫉妬」
「絶望」そして
「悲嘆」。
(こっちの機体は……もう動かないか)
左腕がもうぶら下がってるだけで、全く動かなければ、右腕も剣を受けた時から既にパワーダウンしていた。いつもの機体なら、ガムス・ルサにパワー負けする
「それとも相手の騎士の腕……、か。ハボックに右腕の状態を確認しないと、俺が悪くないってイネス姉には言えないから、言い訳考えとかないと。ほぼ外部カメラと通信しか生きていいないとこまで機体壊したから、ルクレにどれだけ怒られ……」
俺が来た方向から、AG《アネモイ・ギア》が出てきた。それも、角が付いたゲロル・ハザンだった。
「角付きがこっちから出てきた?!まさか……、イネス姉が負けた、の、か?」
よく見ると、右側の角が無くなっていて、顔が体の横をずっと向いている。それに両腕も無くなっているようで、とても無事では無かった。
「ただで負けた訳じゃない、か」
俺と戦った騎士が角付き機体に駆け寄っていった。どうやら拾うつもりらしい。
『ぐぁっはっは、マリーナも負けたのか!!これで我との賭けは無効であるな!!』
(角付きが負けた?じゃぁ、イネス姉は勝った?!)
「そこの角付き!お前と戦った騎士はどうなった!!」
『お?そのな騎士がマリーナを倒したか!やはり主も良い腕であったか!これは仕方ないのう、はっーっはっは。あの女騎士か?我の力及ばず生きておるよ。この戦の”勝ち”はそなたらにくれてやろう!!という事で、さっさと引き上げるでな、お?』
『おいゴブレッサ、今あのガキと話してるのか?!このガキぃアタイに勝ったと思うなよ!!最初の奴らがいなかったらお前なんてなぁ』
『狭い故騒ぐな!ではなマリーナを倒した騎士殿!次は我と相まみえよ』
『だからアタイは負け』
言いかけて通信が中断されたようだ。
腕無し片角の機体が遠ざかっていった。
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