桃のご褒美



「ただいまー」



 慧は手洗いうがいを済ますとリビングに向かう。



「桃じゃん⁉ どうしたの? これ」



 慧は目の前に積まれた桃の山に驚く。




「貰ったんだよ。近所の人がね、『桃農家を親戚がやってて採れた桃をくれたから、おすそ分けです。形が悪いのとか色が悪いのとかだけど味はおいしいよ』だって。今年の分はこれで最後だって。秋に採れる品種なんだって」




 祖母が笑顔で桃を見せてくる。



「へぇ、早く食べちゃわないとね」



 桃が好物な慧はウキウキな笑顔で桃を眺める。



 桃は非常にデリケートな果物で少し衝撃が加わると黒くなってしまう。



 とれたての桃は固く皮まで食べられるが、柔らかくなってからは傷みが早い。



 できるだけ早く食べきらなければもったいないことに捨てることになりかねない。



 夕食後、祖母が桃を切って出してくれた。



 フォークで桃を刺すとサクリと硬さがあった。



 慧の好きなタイプの桃である。



「美味しい、やっぱり桃は別腹だぁ!」



「慧は桃が好きだなぁ」



 祖父は孫の様子を見ながら嬉しそうに笑う。



 先ほどまでの疲れも忘れて桃を味わう。



 桃の控えめな甘みが口いっぱいに広がって幸せな気持ちになる。



 むしろ疲れていたからこその幸せかもしれない。



「明日も頑張れるわぁ」



 明日はバイト、明日の活力に桃が効いた。



「慧、明日桃をバイト先に持っていくのはどうかね? こんなにあるから」



「確かに。いいかも」



 これを皆に食べてもらって、疲れを癒してもらおうと慧は思った。



 今の皆には桃の甘さが必要だ。



 そうすれば何か良いアイデアが浮かぶかもしれない。



 慧はそう楽観的に考えた。




 次の日慧は桃を背負って旅館へ。



 繊細な桃を背中に、これまでにないほどに丁寧に旅館へ向かった。



「おはようございます」



 女将がいた。



「おはよう慧君。今日もよろしくね」



 女将は慧に優しく微笑みかける。



「女将さん、これ良かったら」



 慧は持ってきた桃を女将に見せる。



「まぁどうしたの? この桃」



 女将は桃に驚く。



「近所の人にたくさんもらったんです」




「ありがとうね。みんなに上げる分を除いても結構あるね。じゃあこれカゲロウさんに渡してもらえるかな? 今日のお料理に使えるか見てもらってもいいかい?」



「はい、わかりました」




(お客さんに出す料理に使えるかな)



 厨房にて、

「カゲロウさん、これ桃なんですけど良かったら……、料理に使えますかね……?」



 慧はカゲロウに桃を手渡す。



 カゲロウは桃を受け取ると、いくつか取り出し見た目や香り、感触を確かめた。



 食材をチェックする目は厳しい。



 カゲロウの目は細く鋭くなっている。



「見た目は悪いかもですけど……味は美味しいです」



 なぜか少しドキドキしながらカゲロウを見る慧。



 目の前でテストを採点されている気分だった。



 カゲロウはウンウンと頷いた。



 大丈夫ということのようだ。



 ひとまず料理に使えそうということで、足切りに引っかからずには済んだようだ。








 作者より


 今年もありがとうございました!



 大みそかまで投稿ができました!




 年明け以降、ようやく犯人が明らかになりだします!(長かったですね💦)



 犯人予想してる方もおられるでしょうか?(もしいたら予想をこっそり教えていただけると嬉しいです)



 おかげさまで黄昏館が一番皆さんに見ていただけている作品になっています、

来年もマイペースに投稿していこうと思いますのでよろしくお願いします!

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【感謝! 1万PV突破!】不可思議 旅館・黄昏館へようこそ〜人間も妖怪も幽霊も異次元人も訪れる旅館でバイトを始めてしまいました〜 赤坂英二 @akasakaeiji_dada

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