もしも、旅館のメンバーが……



 二人は一緒に図書館を出た。



「じゃあね慧君。次は旅館で、かな」



 アスカはそう言うと歩き出そうとする。



 今日は金曜日、土曜日に慧は旅館に向かう予定なので、次に会うのは明日ということになる。



 つまり、タイムリミットとなる前日。



 もう猶予はあまり残されていない。



 アスカを慧は呼び止める。



「アスカさん」



 振り返るアスカ。

「何?」




「犯人の目星ってついてます?」



 もし目星がついているのなら、ここで彼女の意見を聞いておきたかった。



 分からなくても、意見を交換することで新たな発見をするかもしれない。




 アスカならきっと何か掴んでいるのではないかと思っていた。




 風がアスカの顔をなでた。




 すると彼女は人差し指を唇に当てるしぐさをした。




「どうだろうね?」



 アスカはニヤリと笑った。



「え?」



 そう言い残すとアスカは急ぎ授業の行われる教室へ行ってしまった。





(どういうこと?)




 戸惑う慧。




 なぜアスカはああ言ったのだろうか。




 何も知らないから?




 それならなぜあんなことを言ったのか。



 知らない、分からないなら隠す理由は何もないではないか。



 そうではないのだとしたら……?



 何か慧の気がついていない事実にアスカは気が付いているのだろうか。



 アスカの別れ際の表情と言葉が妙に慧の頭に焼き付いていた。








 時刻は黄昏時。



 綺麗な夕焼けが見える。



 明日も良く晴れそうだが、寒そうだ。



 消化できないモヤモヤからか、足取りは重い。



 珍しく自転車に乗って帰る気にもなれず、歩いて帰っていた。




「ちょっと待てよ……」



 慧は不意に道で立ち止まる。



 今、この瞬間、頭の中に現れた一つのアイデア。




 神の一人だけが入れ替わっていると思っているが、旅館の中に共犯者がいたらどうだろう。




 今まではもし共犯者がいるなら神々の中にいると思っていた。




 しかし神だけではない、旅館で働くメンバーの中に共犯者がいる可能性だってある。




 旅館のメンバーだって完全な味方ではないかもしれない。



 慧の目の前にいたあのアスカだって本物かはわからないのだ。



 わかるのは「自分が本物」であることのみ。



「!」



 全身に寒気、鳥肌が走る。



 働く者が入れ替わっている可能性だってある。




 相手は神を捕まえて、神に成りすます者。それ以外の者を捕まえるなど全く難しいことではないのではないだろうか。




「津軽さんが最近休みなのって、もしかして……」



 津軽も捕まっているからではないだろうか。



 彼女はどこに行ってしまったのだろうか。



 彼女は無事なのだろうか。





「もっというと、皆が犯人だったりして‥‥‥‥」



 自分以外すべて犯人の現場という異常な状況だったらと考える。



(そんなミステリーあったな)




 頭を使いすぎている。自分が疲れているのだ、だからこんな変なことを考えてしまうのだと慧はため息をつく。




「それでも犯人は見つけ出さないといけないな」



 囚われている者がいる、助け出したい。



 助け出さねばなるまい。





「よし!」



 慧は気合を入れた。




「?」



 近くで遊んでいたボブ頭の女の子が慧の顔を不思議そうにのぞき込んできた。



「……!」



 慧は少し赤面して足早に家に帰った。

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