虹色の英雄伝承歌 (ファーレ・リテルコ・ポアナ) 紅刃の章 外伝1 ~ラウザ村の小さな戦士達~
新景正虎
第1話 国境の村
ラウザ村
後年、少なからず名を知られることになるこの村だが、今はオ-ヴェ・スタフィ王国とソーレ・チェアーノ帝国を隔てる山脈「ビエト・アピ・カステニア」の合間を縫って延びる「フィルチ」街道の一つにある村の一つでしかなかった。
だが、過去の戦乱の教訓から今の村は街道から少し離れた山の中腹にある。
そして、かつての村の跡地には帝国に対する監視所を兼ねた砦が築かれ、旅人の多くはそこで足を止めて旅の疲れを癒やす。
そのため、街道を行き来する旅人の中にも訪れるものは少ない。
そんな辺境の村のさらに片隅、森の木々に囲まれた小屋の脇にある、小さな広場から勇ましい声が聞こえる。
「えいっ!やぁっ!」
長い髪を後ろで束ねてまとめた一人の少女が刈り取られた麦藁を束ねて作られた人形を相手に熱心に槍を打ち込んでいる。
また、広場の片隅には森の木が切り倒された跡である切り株に座り、獣革で作られた厚い本を開いて熱心に読んでいる少年がいる。
少女は脇目も振らず、金具には錆が目立つ粗末な革鎧を着せられた藁束の合間を狙って槍を何度も繰り出すと、そのたびに束ねられた髪が馬の尾のように跳ね、しなる。
その槍の穂先はある時は鎧の表面にあたって流され、ある時は鎧の隙間から見えるわらに突き刺さる。
「……ふぅ」
汗だくになった少女は額の汗を拭い、槍を繰り出す手を止めると傍らで本を読んでいる少年に目を向ける。
自分には目もくれない彼に少女は頬を膨らませると、槍を手にしたまま彼の側に歩み寄ると、
「アクレイも練習しなさいよ、本ばっかり読んでないで」
「う、うん」
腰に手を当て、こちらを見下ろしてくる少女の迫力に押された少年、アクレイは本を閉じると切り株に立てかけてあった剣を手に取り、少女同様藁束めがけて何度も斬りつける。
そこに、
「これこれ、ルアンナよ。本を読むのも冒険者になるためには大事な事じゃよ」
小屋から出てきた白髪の老人が少女、ルアンナをしなめる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます