第20話 安堵

「ふむ…腰が抜けたか?まあ、あんな目にあっては無理もないがな」


そのまま地面にへたり込んでしまったルアンナを髭男は見下ろすと、出した手を引っ込める。


「あ、ありがとうございました」


へたり込んだままのルアンナに髭男はうなずく。


戦女神フェテシュの加護じゃな。しかし安心するのはそっちの無事を確かめてからじゃろう?」


そう言うと男は無造作に金槌を地面に突き立てると、近くに倒れているアクレイと兵士を背負い、ルアンナの近くに連れてくる。


「う…」


足蹴にされて体のあちこちに跡が残るアクレイが苦しそうに呻く。


「アクレイ!……良かった」


彼の無事を確認したルアンナが涙ぐむ。


そこに甲冑がきしむ音とともにいくつもの足音が近づいてくる。


「これは一体…」


アクレイたちと合流した兵士長は見慣れぬ人物と、あたりに漂う黒い霧の残滓に気づき、不審な顔をする。


「助けか。ちと、遅かったがのう」


「あなたは?……」


兵士長に問われ、髭男は、一瞬逡巡の素振りを見せるが、


「……わしは旅のものさ。多勢に無勢を見かねてな」


無難な答えにうなずき、兵士長は質問を変える。


「あなたは、もしかして山精小爺デヒュルフォですか」


デヒュルフォ、鍛治神デヒュールのしもべである地の妖精「デヒュール・ルフォ」たちの事である。


鍛治神の下僕らしく鍛冶に長けており、森の妖精が嫌う鉄を始めとした各種金属の加工術に優れている。


兵士長の問いに髭男は一瞬の間を挟んで答える。


「……お主はデヒュルフォを見るのは初めてかな?」


「初めてです」


「そうか、まあええ。儂はドフレと言う」


そう言うと髭男、ドフレは近くにあった切り株に腰を下ろし、兵士達に事情を説明する。


「そうでしたか。それは迂闊でした。彼らを危険に晒すとは」


肩を落とす兵士長にドフレは首を振る。

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